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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第一部 ガーランド転生騒動

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 翌日、私はまたも早朝の学校へやってきた。
 北庭で待っていると、笹原さんも遅れてやってきてくれる。昨日のうちに、メールでここへ来てくれるように頼んでおいたのだ。

「待たせてごめんなさい」
「ううん、私もついさっき来たばかりだから」

 彼女と一緒にベンチに腰掛ける。
 笹原さんは、完全に手帳を読み尽くしただろう私と会うことに、緊張を感じているようだ。笑顔がどことなくぎこちない。
 そんな彼女に、私は手帳を差し出す。

「まずはこれ、返すね」

 手帳を返された笹原さんは、ほんの少しだけ頬のこわばりを解いた。手帳を読んでも、まだ私が妄想だと考えて、病気の人扱いされてしまうのではないかと心配していたのだろう。
 大丈夫だよと言ってあげたい。黒歴史保持者な私も、妄想ノートの生産履歴はあるのだ。

(でも、あなたはもう私の同志じゃないのよ……)

 なにせ私のは本物の妄想で、笹原さんのは現実なんだから……。ちょっと寂しい。

「読んで……どう?」
「うん。読んだ上でキース君を避ける方法を考えてみたんだけど……聴いてくれる?」

 あまり間を置かないようにそう問いかければ、笹原さんは目に見えて安堵した表情に変わる。

「まず、笹原さんは昔の自分を忘れて生きていきたいんだよね?」

 笹原さんはしっかりとうなずく。

「うん」
「だとすると、今まで以上にがっちりと『こいつ絶対妹に似てない』とキース君が思うような行動をするべきだと思うの。一言『キモイ』って言うとか。もちろんキース君と二人だけの時に、だけど」
「ううぅ……」

 良い案だと思ったのだが、笹原さんは渋い表情でうめく。

「言いにくい……」
「だからこそよ。こっちは異世界の人間なんだから、堂々とこっちの価値観を見せつけないと」
「でも直接言ったら、あの国の人のことだから、激怒しそうで……」

 今や別人とはいえ、記憶に残るかの国の慣習が心に染みこんでいる笹原さんは、キースが怒ることに怯えているようだ。
 まぁ確かに、失礼な人じゃないと他人にキモイなどと普段言うものでもないか。私もエドくらいにしか言わないだろうし。
 ただ、妹であることを完全否定するには、大好きとは180度反対の態度をとるべきだとおもうのだ。

「昔は不愉快なんだと言えなかったかもしれないけど、むしろそういう行動をした方が、キース君に見知らぬ人間につきまとってるんだ、って気づかせることができるでしょ」

 私は一生懸命笹原さんの背中を押した。
 それにキースが本当に妹の死にショックを受けて、ちょっと似てそうな人にそう言って回ってるのなら、これで終わりになるのは間違いない。
 そうなら多少可哀想な手段だが、見知らぬ他人に妹代わりを強要するのも問題がある。なので彼が落ち込むようなら、カウンセリングを受けられる病院を紹介する所存だ。
 それでも笹原さんは不安をぬぐえないようだ。

「あと、キース君の取り巻きが、怖いことになりそうで」

 そう言われると、私もなんかだんだんと不安になってくる。
 確かにクラス内に憎まれるほどの敵を生産するのはよろしくない。うっかり今後の笹原さんの人生がセピアに染まりかねないだろう。

「ええと、そしたらもうちょっとマイルドに行く? 本人に言うんじゃなくて、ぽっと心の声が漏れた感じで『親しくない人に妹みたいとか、気持ち悪い』みたいにつぶやいちゃうなら、反論しにくいだろうし」
「気持ち悪いは絶対なの……?」
「そりゃもう。全然親しくない人から突然『君は妹に似てるんだ、お話したい』って言われて、気持ち悪くないわけないでしょ」

 私が言うと、笹原さんはちょっと戸惑う表情になる。

「そう……よね。見知らぬ他人ならそうなのかも。どうしても私、前世……って言っていいのか、フェリシアの時のイメージで兄として見てしまうから」

 笹原さんは妹呼びされたことに衝撃を受けて、妹呼びはナチュラルに受け取ってしまったようだ。
 手帳の中でも「兄が来た!」と意識していたのだから、兄という認識が強くなっていたに違いない。

「怖いなら、フォロー役用意する? またエドになると思うけど」

 補助案を提示すると、笹原さんはやや考え込んだ後でキッと強い瞳で前を見た。

「あの……やってみる! そうよね。きっとあの国の人なら、酷い言葉で罵られた方が、こっちを嫌悪して近寄らなくなるかもしれないし。せっかく案まで出してもらったんだから、がんばる!」
「がんばって!」

 私は決意してくれた笹原さんの勇気をたたえた。


 そして私たちは――計画を実行に移す時を待った。
 なにせフォロー役を投入するためには、決行は休み時間でなければならない。
 そしてキースが笹原さんに接触してくる可能性が高いのは、昼休みなのだそうだ。

 キースはファンの女の子たちに常に囲まれているからだ。けれどキースも、昼にはクラスの男子とも会話をするわけだ。昼休みには、そんな双方を上手く会話させるように仕向けて、するりと一人で抜け出すらしい。
 驚くべき社交術だが、まぁ、女王の摂政になりたいと望んだほどなのだから、それぐらいできてしまうのだろう。
 そうして一人で購買などに行こうとする笹原さんに接触してくるようだ。

 笹原さんと私は、そこを狙うことにしていた。
 できるだけ大ごとにならないようにと、笹原さんには人が少ない場所を目指して歩いてもらう。キースが追いかけて来ないようなら、そのまま自由にしてもらう事になっていた。

 しかし、事態は急変した。
 私がエドを引き連れて、笹原さんの五組にほど近い階段で様子をうかがっていると、教室の中がざわついているのだ。
 そして笹原さんは出て来ない。
 嫌な予感がしてのぞきに行けば、あろうことかキースは、教室の中で笹原さんに話しかけてしまったらしい。

 おかげで状況は昨日より更に混沌としていた。
 教室に残っているクラスメイトが大注目している中、追い詰められたのか、笹原さんが友達らしき女子二人にかばわれるようにして教室の隅で肩を寄せ合っている。

 実に見事なさらし者だ。
 笹原さんは恐怖のあまりに足が震えていた。

「柚希が嫌って言ってるんだから、もうかまわないでほしいんだけど」

 笹原さんの強気そうな友達が言う。
 キースは困ったような笑みを浮かべた。

「そんなに嫌かな?」

 困りながらも自信ありげな表情に、笹原さんは怯えながらも声を絞り出すようにして応じた。

「あの……困るのは確かで、それにあまり親しくない人から、妹みたいだって言われるのはちょっと怖い……」
「その怯える姿も、妹にそっくりだ」

 ひぃっと悲鳴を上げて身をすくませる笹原さんに、笑顔を見せるキース。

「……サドか」

 教室の入口からそっと中をのぞき込んでいた私は呟く。ちなみに騒ぎを聞きつけて同じようなことをしている人が沢山いたので、紛れられて良かった。

 さて、キースだ。人が怯えるのを見て楽しめるのはサドしかない。
 だがこの様子、本気で妹代わりが欲しいのか? これでは読めないではないか、と私は眉をひそめる。
 そこで笹原さんのお友達がずばりと言ってしまった。

「普通に友達づきあいしてくれるならまだしも、妹みたいなんだとか、ちょっと気持ち悪いでしょ」

 しかし今は大勢の前という微妙な状況だ。当然のことながら、その言葉にキースの後ろにいた彼の取り巻きな女子達が気色ばんだ。

「キース君は異世界の人だって知ってるでしょう」
「慣習が違う世界から来た人だからこっちの感覚と違うのは仕方ないのに、酷い事言わなくなっていいじゃない!」

 笹原さんの友達も応戦する。

「柚希は何度も拒否ってるのに、妹、妹ってしつこいのはキース君の方でしょ」
「異世界側からだって、慣習を押しつけるのはどうなのよ!」

 私はその状況に戦慄した。
 ……怖ろしいほど大ごとになっている。
 このままでは、異世界人の慣習についての議論に発展して、他クラスに波及すると他の王女達まで巻き込みかねない。
 私は背後を振り向いて、小声で指令を下した。

「え、エド。計画実行して! あと他の女子にも丁寧に! みんなご令嬢だと思って!」

 もうこうなったら、状況をくつがえせるのはこの空気を読まない男しかいない。
 さあ行くのだエド。今度は意地悪しないで、ちゃんと恋愛漫画とか資料をそろえて女の子の心の心理について教えると約束する!

「了解しました。作戦を実行します」

 今回も、エドは何の気負いもなく戦場へ突入した。なんだかエドがかっこよく見える。うん、私には絶対できないからだ。
 エドを見た瞬間の反応は様々だった。

「またか!」と口にするキース。
 ほっとした表情になる笹原さん。
 先日のことを見ていたキースの取り巻きの一部が、ちょっと嬉しそうな顔をする。君たち結構ミーハーだな。でも嫌いじゃない。

「失礼、キース殿。こちらのお嬢様をお借りしても?」

 修羅場などものともせずに、エドはさっさと要件を申し出る。
 若干気を遣っているような言葉選びだが、背の高いエドはやや顎を上げ気味にしているため、見下ろしているようにも見える。

 なぜそう偉そうなんだ……いいけど。
 キースも二度目ともなればさすがに不機嫌さを隠さなくなった。いや、エドの唐突さに慣れただけか。

「君の師匠って、同じクラスの女子だろう? 彼女にこき使われてるのかい?」
「ぐ……」

 様子をうかがいながら、私はうめく。
 まぁ、隠していたわけではないので、エドが私を追いかけ回していたことは、気になればすぐに調べがつく事柄だ。
 そして女子にへりくだっているのを揶揄するというのは、キースの生きてきた土地では、非常に強い皮肉になるのだろう。
 しかし相手が悪い。

「こき使う……いえ、まだ私は師匠から常に課題をいただけるほどではないのです」

 むしろこき使って欲しいのにだめなんだと、エドは滔々と語り出した。

「師匠は私にとっては賢者のような存在です。その一言一言から、お考えの神髄を学び取るために私から願って側に置いて頂いているのです。ゆくゆくは師に『もう教えることはないエドよ。免許皆伝を許そう』と言って頂くのが夢でして。そうそう免許皆伝はあちらの世界でいう秘術のようなもので、おそらく免許皆伝を許された私は、与えられた知識を使って敬愛する殿下の治世において繁栄をお支えできるものと……」

 エドのうざい語りに、皮肉げに笑っていたキースの頬がひきつっていく。
 私は妙な賛美のせいで、全身がかゆくて泣きながらどこかへ走り去りたかった。

(なんで毎回変な事言っちゃうのよ-!)

 でも必死に耐えた。
 ここで不審な行動したら、賛美されてるどこぞの『師匠』が私だとばれてしまう。

「そのようなわけで、師匠と親交のあるこちらのご令嬢を迎えに来た次第です」
「しかし君の主はアンドリュー殿下だろう。勝手に別な者の命令を聞いて、怒らないのかい?」

 婉曲に諦めさせようとするキースが苦し紛れにそんな事を言うが、エドは無表情にきっぱりと告げた。

「師に従って見聞を広めよというのは、我が殿下のご下命でもあります。では失礼」

 そうしてエドはキースの横をさっさと素通りし、笹原さんの前に膝をつく。

「さぁお嬢様。我が師の元へご案内します」

 エドが「俺はやりきった」と言わんばかりに笑みを見せる。
 その笑顔と膝をついて手を差し出す姿に、教室内の女子が黄色い悲鳴を上げた。

「ちょっ、騎士ってイイかも!」
「私もあんな風にされたい!」

 ……うん、この瞬間だけ見たらそう思うんだろう。私にも少し理解はできる。脳みそが立方体だと知ると、みんな裸足で逃げ出すのだろうけど。

 そうだな、今回の協力の御礼に、エド(および主であるアンドリュー)のイメージアップ作戦というのも計画してみよう。
 今回の事を、キースの取り巻き達が水に流していろいろ穏便に済ませてくれるなら、エドに頼んでお嬢様体験会を催してもいいかもしれない。少なくとも、うちの学年の女子達は、エドへのイメージを『なんか凶悪な人』というイメージから『素敵な騎士』に塗り替えてくれるだろう。
 絶対にお姫様達からもウケが良くなると言えば、エドはうなずくに違いない。主のために。
 そして今回の事件すら彼女達の記憶から薄れてくれるだろう。

 私が夢想している間に、エドは友達から背を押されるようにして送り出された笹原さんを連れ出してくれた。
 私は今回もまた、二人を扇動するようにして私は北庭へと逃げる。 


 結果私たちは、あまり収穫がないままこの作戦を終えることになってしまったのだった。
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