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クラスに異世界の王子達がいるんだけど 作者:奏多

第一部 ガーランド転生騒動

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 仕切り直しのためにも私は笹原さんと庭にあるベンチに座ることにした。

 アンドリューとエドは遠くで立ち話をして待ってくれている。
 二人には昼休み時間が終わるので戻った方がいいよと話したのだが、また絡まれるようなことがあってはいけないとアンドリューが残ることにすると、エドは「殿下の護衛と、師匠の女性との交流術を観察したい」という、わけのわからない理由で自分も残留を決めたのだ。

 隣り合って座った後、笹原さんは少し迷った末に、常に持ち歩いているらしい小さな手帳をスカートのポケットから出した。

「あの……これ、どこまで読んだの?」
「最初の、名前が書いてあるとこと、落とした時にうっかりなんだけど……キース君の対応に苦慮してる部分だけ」
「そう。私のこと、変だと思ったでしょう?」

 笹原さんもその内容が「ちょっとオカシイ」ことは分かっているようだ。彼女の言葉に、私は自分も同じ穴の狢であることを一生懸命主張した。

「なんて言うか、私も昔、ちょっと異世界の王子様達との出会いとか、そういうのに夢見たこともあったから、そういうのを書き留めちゃう人なのかなって、少し昔の自分の妄想を振り返っちゃった……」

 手帳を見られてしまった笹原さんが、少しでも心が軽くなるようにと願って自分の恥を晒すと、彼女は苦味が交じる形であっても少し微笑んでくれた。

「私も、夢とか妄想だと思ってたの。異世界って響きにあこがれすぎたのかもしれないって」

 冷静に自分を見つめ直しても、笹原さんは違和感が消えなかったのだ、と話し始めた。

「始まりは三月の終わり……学校帰りに河川敷を歩いてたら具合が悪くなって。意識不明になったと思ったら……川に落ちていたらしいの。救急車で運ばれたりもしたんだんだけど、その時に夢を見てて」

 夢は、異世界の一人の少女の人生の一部分だったそうな。
 なのに目覚めた時には、夢では見なかった知識までが笹原さんの頭の中にあったのだという。まるで他人の人生を経験したかのように。
 笹原さんは最初、とても気味悪く思ったという。
 けれどそんな記憶がある理由なんてわからない。結果、通っている学校が学校だから、つい異世界のことを意識しすぎてしまったのだろうと笹原さんは結論づけた。

 しかし始業式の日、笹原さんに第二の変革の日が訪れた。
 二年に上がった年に留学してきたキース。その顔を見た瞬間、笹原さんは夢を鮮やかに思い出していたという。

「私の記憶の中で兄だったキースそのままの姿だったの。でも夢なんだから、実在しない人だと思ってたのに……」

 え、今兄って言った? あのキースと?
 むしろそっちに驚く私の前で、笹原さんは他人のそら似かと考えたが、二人とも名前まで完全に一致してしまったことを話してくれた。

「兄の名はキース・クレイトン。異世界での経歴も、全部調べたけれど同じだった。別クラスにいるオディール王女の婚約者だと言われていることも」
「そこまで……完全一致だなんて」

 それを聞かされては、私も妄想だとは思えなくなった。
 見知らぬ容姿のいい男性にあこがれて妄想したというのも、可能性は薄くなる。なぜならそこまで一方的にあこがれていたなら、笹原さんがオディール王女を、キースの婚約者だと認識できるわけがないのだ。
 とはいえ、笹原さんにもなぜこうなったのかはわからなかったらしい。

「だから生まれ変わりだと思ったの。時間になんだかズレはあるけど、それも異世界だからなのかなと思って。それに、思い出してしまった原因もわかるの」
「前世……を思い出した原因ってこと?」

 笹原さんはうなずいた。

「フェリシアは川でおぼれて死んだから。……うん、確実に死んだと思う。同じ状況になったせいで、奥深くに眠ってた記憶がぽっと表に出てきてしまったんじゃないかって」

 だとするなら、今の自分は笹原柚希なのだ。キースのことは気にせず過ごすことにしたのだが。

「けど、同じ学校に通い出したキース君を見ると、どうしても胸苦しくなって。オディール王女からは逃げたくなって……」
「なんで兄を見ると胸苦しく……?」

 再会した兄を懐かしく思ってのことだろうか?

「それを書いた所は読んでいなかったのね」

 笹原さんは泣き笑いみたいな表情で、私に教えてくれた。

「フェリシアは……異母兄であるキースに恋してたのよ。だけど母親が違うとはいえ、叶わない恋だったし、キースが王女様と恋仲になったのを見て絶望してたの」
「なんて泥沼……」

 王宮恋愛物系のお話で、主人公の恋人の当て馬役な女子みたいな有様だ。

「それでも時間が経って慣れれば、なんとも思わなくなるかと思ったんだけど。キース君が最近、絡んでくるようになったの。しかも――妹に似てるんだって言って」

 笹原さんは、辛すぎてたまらないのか、目に溢れそうなほど涙を浮かべている。
 確かにそれは嫌だ。叶わない恋の記憶がある相手に、その死んだ妹みたいだからと話しかけられるとか、普通の神経をしていたら、走って逃げるのは間違いない。二度と泥沼にはまらないように、だ。
 しかし普通に聞いたらその台詞、どこの陳腐なナンパ文句だ。
 そこでふと思いつく。

「あ、でももう一パターンあるのか。笹原さん、もう今は血縁もないんだし、生まれ変わりですって言ってキースとくっついちゃうっていう気はないのね?」

 尋ねれば、彼女は高速で頭を横に振った。

「そそそそ、そんなの無理! だってあんな振られ方っていうか、さんざん邪魔だとか言ったり言われたりしたのに、怖い! それにオディール王女にも申し訳なくて、顔を合わせられる場所にいる方が辛いわ……」

 そんな笹原さんは、元の生活を取り戻したいらしい。

「だから彼に関わらないようにしてたんだけど。でも、やればやるほど、怖いはずなのにキース君を意識しそうになって……」

 恋をしたことがないからだろうか。私にはその気持ちがよく飲み込めない。
 唸りそうになりながら考えていると、笹原さんが小さく笑って私に手帳を差し出してきた。

「ちょうどいいわ。他の人からどう見えるのか、知りたかったの。それに複雑なことを説明するのって難しいし。だから読んでくれないかな?」
「え! でも、秘密なんでしょう?」

 そう言えば笹原さんは「だからよ」と答えた。

「小幡さんは助けてくれたし、今も笑わずに聞いてくれたから」

 そして午後の授業を一つサボってしまった私は、帰宅後早速託された手帳を開いた。
 几帳面そうな小さな文字で綴られた『フェリシア』の物語は、肉筆だからこそ臨場感が伝わってくるものだった。
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