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1-8:王都へ向けて
 ケイオスとリズ。
 二人の魔術師は音も無く姿を消した。
「本当に何者なんだ……」
 呟くトリル。部屋を出た二人の後をすぐに追ったつもりだったが、彼女が通路
へ出た時には誰の姿も無かったのだ。
「グラン様。魔術師集めはどうしますか」
 しばし呆然と扉を見つめていたグランは、何も答えなかった。
「グラン様?」
 繰り返される呼びかけにようやく気付く。
「ああ。何だ。トリル」
「ですから。魔術師集めはどうするのかと……」
 グランの様子がおかしいと感じたトリルは、少し遠慮がちに答えた。
「それなら君に任せるよ。すぐに動いてくれ」
 しかしトリルは動かず、グランから視線を外そうとしない。
「彼らは信用できるんですか」
 トリルはケイオス達に不信感を抱いていた。
 見えない実力。ここへ案内する時も、この地下通路の存在を知っているような
話をしていた。それにケイオスの言う目的も、いまいち要領を得ない。個人的な
復讐と言われた方が、よっぽど分かりやすかった。
「少なくとも私は信じられると思うよ。少なくとも彼は嘘を言っていない」
 きっぱりと断言するグラン。
「君は魔術が使えないから分からないかもしれないが、放たれる魔力には術者の
精神が表れる。感情や、強い想いといったものだ。彼は去り際に、魔力を通して
その意志を私に伝えてきた」
 その時を思い出し、軽く身震いをするグラン。
「私には、彼の言葉を疑うという発想自体思い浮かばなかったよ。彼はもう私の
知っていた少年では無くなっているのかもしれないね」
 グランにとって、親友の息子であるケイオス。
 少年の昔を知る者としては、その変化を喜ぶことは出来なかった。
 ケイオスが動く理由は、憎しみでも、正義感からでもない。もっと違う、何か
巨大なものが、その心の奥底に横たわっている気がしていた。


 スラムを出たケイオス達は、フォルトスの城壁の外側、南西側にある出入り口
の近くにいた。
「これからどうするつもり。彼らが魔術師を集めるのを待つのかしら」
「いいえ、すぐにスティアードへ向かいます。フォボスを倒すまでは、魔術師を
集めてもらっても意味は無いですし」
 スティアードはエスティア王国の王都で、フォルトスの南西に位置している。
「でも今日はもう遅いわよ」
 もう既に夜中と言っても良い時間帯だ。
 スティアードまでだと徒歩で三日程。ドラゴンの姿のリズに乗ったとしても、
二時間近くはかかる。
「夜中だからこそですよ。ドラゴンの姿になっても目立たないでしょう。王都の
近くになると、魔術師への警戒のせいで上空でも見つかるかもしれませんし」
 王都はレティーア湖という湖の湖畔にあり、近くには身を隠せるような場所も
無かった。
「もちろんリズの魔力が消耗していると言うのなら、無理をせず今日は休んで、
明日出発でもかまわないんですが」
 リズは城壁を見上げて、軽く溜息を吐く。
「私なら平気。そんなに急ぎたいなら付き合うわよ」
「急ぎたい訳じゃ……いや、どうなんでしょうね。当然不安は大きいですけど、
嬉しいって気持ちもあるにはありますから。だってようやく始まるんですから」
 見た目では無表情を装っているケイオス。
 地下で会ったグランも全く気付かなかったが、リズからすれば一目瞭然だった
らしい。
「大丈夫ですよ。感情に流されるままに魔術を使うようなことは、絶対にしない
ですから」
 そう言って笑顔を作るケイオスに、リズは若干の不安を覚えていた。
「大丈夫だって言うなら良いんだけど。それじゃあ今から出発するのね」
 黙って頷くケイオス。
 それを見たリズは、ケイオスから少し離れると集中し始める。
「……」
 頭の中にドラゴンの姿を思い浮かべて、それを実体化させていく。
 魔力とは純粋なエネルギー。
 魔術はその質を変化させて引き起こす現象の事。
 魔力を、質量という別のエネルギーに変化させることで、物質を実体化させて
いるように見せているのだ。実際に触れる事も出来るが、魔力を失えばそのまま
消滅してしまう。地下でトリルに見せた左腕のように。
 やがて闇夜に浮かび上がるのは純白のドラゴン。
 月明かりを浴びて輝くその姿は神秘的なものだった。
 ケイオスは少し後悔してからリズに声を掛けた。
「町から離れるまではなるべく低く飛んでくれますか。思ったよりも目立ちそう
な感じなので」
 特にこの辺りはフォルトスへの入り口が近い場所だ。見張りの兵に見つかれば
騒ぎになるだろう。
「それくらい言われなくても分かってるわ。いいから出発するわよ」
 促されてその背に乗るケイオス。
 リズは大きく羽ばたいて浮き上がり、そのまま地面ギリギリの低い位置を滑る
ようにして飛んでいく。
「さすがに朝早くから行動しているだけあって、眠くなってきましたね」
 欠伸を噛み殺しながら言うケイオス。
「確かにあなたに協力するのが私の役目。だけど、うっかり下へと落としちゃう
かもしれないから気をつけてね。そういう事故はいつ起こるかわからないから」
 事故という部分を強調するリズ。明らかな脅迫だと思える。
「分かりました。ちゃんと気を付けるようにしますよ」
 実はリズも結構消耗しているのかもしれない。
 ここで寝てしまったりしたら本当に下へ落とされそうな気がする。ケイオスは
それを想像し、冷たい汗が背中を伝っていった。


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