3-5:教皇との対面
ジードに連れられたケイオスとリズは、速やかに教皇の私室へと案内された。
「お久しぶりです。リセルシア様」
出迎えたのは優しげな女性。歳は四十過ぎと言ったところだろう。優しそうと
言っても、ただ甘いだけでなく芯の通った強さも感じさせる。そんな人物が床に
片膝を着き、頭を下げていた。
「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。それに私達の立場はどちらが上というもの
でもないのだから、畏まる必要なんて無いわ」
リズが言うと、女性は顔を上げて立ち上がる。
「リセルシア様を敬わないのであれば、何を敬えと仰られますか。教国の信仰の
一部は、間違いなく貴女様に向けられていますよ」
「物語は物語であって、私とは違うわ。現教皇である貴女の方がよっぽど信仰を
集めているでしょうに」
そう言って二人はどちらとも無く笑い始めた。
「リセルシア様は変わらないですね」
「ティリアもね。しばらく会ってなかったけれど中身はそのままみたいね」
「言外に老けた、と言われているような気がします」
ティリアの表情は変わらないが、威圧感が違う。
ケイオスは緊張で動けず、ジードは冷や汗が出まくっていた。
「私としては好ましい変化なのだけれども。自分が失ったものというのは惜しく
感じてしまうのかしらね」
その言葉にティリアは僅かに気まずそうにし、部屋には何とも言えない空気が
流れる。
「ところで、そちらの方は……」
話の流れを変える為に、ティリアはケイオスの事を聞いた。
「彼は私の弟子であり、創世の魔術師の一角である執行者の血を引く者」
「ケイオス・アストライアです。ご挨拶が遅れ、申し訳ありませんでした」
リズに促されてケイオスは名乗り、頭を下げた。
「あなたがそうなのね」
執行者の名前を聞いて、ティリアの表情が変わった。
「私はティリア・リーブラ。エルフィズ教国の代表であり、歴史を伝える役目を
背負いし一族です。そして創世の魔術師の方々を補佐する役目も持っています」
ティリアはケイオスを観察するように見ると、再びリズへ視線を向ける。
「リセルシア様。彼の紹介だけが目的な訳ではないですね。何をなさるおつもり
ですか」
「そうね。でも迷惑を掛けるような話では無いわ。私は一人で奥地にあるエルフ
の里へ行ってくる。その間ケイオスの事を頼みたいの」
エルフはエルフィズ教国に古くから住む一族で、ガーデンの成立にも深い関わ
りがあるとされ、一般には伝承の中の存在として知られている。
「その間ケイオスには以前私が回収した子の面倒を見させたいと思うわ」
リズの説明を受け、ティリアがケイオスを見る。
「本当に大丈夫ですか。つまらない事で大切な命を散らされては困るのですが」
問うような視線に、ケイオスは肩を落として答える。
「今回の事はあまり詳しい説明を受けていないので何とも言い難いです。道中で
聞いたのは、リズがエルフの里へ行っている間に、私にしか相手の務まらないで
あろう人物の相手をし、大丈夫そうなら一緒に学院まで連れて帰るという事だけ
ですから」
実際はもっと詳しい説明を聞いているが、ケイオスがあまり記憶していないと
いうだけだった。話を聞いたのは、ドラゴンの姿で上空を高速飛行中のリズの上
に乗りながら。硬く、それなりに揺れる上に、落ちないようにしながら長時間の
移動というのは、怪我による痛みと戦いながらのケイオスには厳し過ぎた。
風圧や寒さなどからはリズの魔術で護って貰っていたが、それでものんびりと
話が出来るような状態ではなかった。
「私が相手をする人物については後で説明して頂くとして、今は休ませて貰って
も良いですか」
ケイオスがそう言うと、今までずっと扉の横で黙っていたジードも驚く。教皇
であるティリアに対してあまりにも失礼な態度だったからだ。
ティリアは気にした様子も無く、思わず声を上げそうになったジードを眼だけ
で抑える。
「どうやら体調が優れないみたいですね」
「話の途中で失礼なのは承知なのですが、これ以上無理をするのも迷惑を掛ける
事に繋がりそうなので」
ケイオスは苦笑いで答える。
「部屋へ案内を頼むわね」
「はい」
ティリアの指示に、ジードが答える。
「リセルシア様はどうなさいますか」
「私に部屋を用意する必要は無いわ。このままエルフの里へ出発するつもり」
ジードは小さく頷くと、ケイオスを連れて部屋を出た。
ティリアは扉が閉まると、深く息を吐く。
「本当に彼で大丈夫なのですか。まだ子供ではないですか」
「私は大丈夫だと思うわよ」
深刻そうなティリアに対し、リズは軽い調子で答える。
「このまま帝国が戦争を大きくすれば、この箱庭にとって大きな被害が出ます。
執行者の力があれば、私達だけが動くよりも被害を抑える事が可能でしょう」
ティリアは迷いながらも続ける。
「ですが、私にはそれが正しいとは思えません」
一人の少年に全てを押し付ける様な真似はしたくない。それがティリアの偽ら
ざる本音だった。
「幸福とは与えられる物ではなく、自らが立ち上がり、掴み取る物だというのが
教国の理念ですから」
滅びを前にした世界で、自らの力でこのガーデンを創り上げた人々への敬意と
感謝を忘れない為の教え。
「あの子は自分の意思で執行者になる道を選んだわ。誰かが心配したところで、
簡単に考えを変えるような事も無いでしょうね。それに役目を押し付けられたと
も思っていないはずよ。逆に自分にやれる事があるのを喜んだくらいだから」
リズは余計な心配だと語る。ティリアもリズの人を見る目は知っているので、
それを疑おうとは思わなかった。
「仮に自らの力に溺れ、道を誤りそうになった時は、私が全力で止めてみせる。
例え命を奪うことになったとしても」
表情は柔らかいまま、リズは確たる意思を持って言った。
「リセルシア様がそう仰るのなら心配は無いのでしょう。我々も全力で彼を支え
ましょう」
リズの覚悟に対し、ティリアは教皇として宣言した。
「私はエルフの集落へ向かうわ。あの子の事を頼んだわよ」
「お気をつけて」
ティリアは頭を下げ、部屋を出て行くリズを見送った。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。
ついったーで読了宣言!
― お薦めレビューを書く ―
※は必須項目です。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。