2-17:未熟なる者達
ヒュペリオン魔術学院南門。
西門に続き、この南門にも敵が姿を見せる。
「敵が来たぞっ」
その知らせに、生徒達の士気は上がる。
南門に配置されているのは火術を扱う赤の寮の生徒達である。その内の約半数
が壁の上の通路に、残りは門の後ろで待機していた。
「今だ、撃てっ」
壁の上に配置された生徒による、火球の一斉射撃。
「全員散れっ」
盗賊よりもやや後方にいた敵の魔術師が指示を飛ばす。そして、それと同時に
放たれた魔術が火球とぶつかる。
「風術師だっ」
広範囲に及ぶ風の魔術。
攻撃とは呼べない程度の威力しか無い魔術が、ほぼ全ての火球を消し去った。
「馬鹿な……」
生徒達は、自分達の攻撃があっさりと打ち消されたことに動揺する。
無秩序に放たれた火球は、それぞれの術者の魔力が干渉しているせいで非常に
不安定。そもそも術者の技量も未熟なのだから、当然の結果とも言える。
「相手は戦闘を知らない素人。恐れることは無い」
対する敵の動きは統率の取れたもの。
「魔術師に注意しろ。盗賊は近づけさせなければ……」
一番前に立っていた男子生徒が声を上げるが、高速で飛来した何かが頬を掠め
て、その言葉を遮った。
「馬鹿っ。下がれ。敵は弓を使ってる」
他の生徒に引っ張られ、その男子生徒は後ろへ下がる。
「矢なんて撃ち落せば良いんだ」
「もうやってるよっ」
次々と放たれる矢。それを撃ち落そうと放たれる火球。
矢と火球がぶつかれば、火球は砕け、矢は失速して地面へと落ちる。
「どうして一本の矢と相殺なんだ。威力はこっちの方が遥かに上なのに」
明らかに動揺している生徒達。
本来なら矢を燃やしつつ、斜線上にいる敵も一緒に攻撃できるはずだったのだ
が、実際は敵の矢が燃える事も無く、火球は相殺されている。
数で勝る学院側だが、相手の矢を射る速度は速く、戦況は拮抗している。
魔術を連発すれば疲労し集中力が削られていく。だんだんと魔術の構成に時間
が掛かるようになり、威力も落ちる。
このままの状況が続けば、やがて押し負ける。
生徒達の集中力が切れるのが先か、それとも敵の矢が尽きるのが先か。
「矢が無くなりそうだっ」
盗賊の一人が叫ぶ。
その声を聞いた生徒は僅かに安堵する。だが、次の瞬間にそれは裏切られた。
「これを使え」
やや後ろにいた敵の魔術師。
途中からは攻撃に参加をせずに、魔術で矢を作っていたのだ。
地面の土や石を地術で細い矢の形にしただけの代物。しかし、矢に込められた
魔力によって、魔術を構成している魔力の流れを乱す事が出来る。
盗賊は一瞬だけ手を止めて矢の束を受け取ると、再び攻撃へと転じる。
「くそっ。あいつらここで矢の補充もしてやがる。」
「魔術で矢を作ってるのか。それで簡単に相殺されてるんだな」
苛立たしげに呟く生徒。
このままではどちらが先に力尽きるのかは明らかである。
「諦めるな。俺達の役目は敵を倒すことじゃない。死力を尽くせっ。」
沈みかけた雰囲気の中で響く、皆を鼓舞する声。
魔術は術者の精神と非常に大きく関わっている。気持ちで負けていては勝つ事
は出来ないだろう。
生徒達はお互い頷きあうと、全力で火球を放ち続けた。
ヒュペリオン魔術学院北門。
ここには黄の寮の生徒、主に地術を得意とする者が集められていた。
「西門に続いて南門でも始まったか……」
叫ぶような指示の声が遠くで僅かに聞こえる。
悲鳴の様な声は聞こえてこない事に、緊張はありつつも僅かに安堵する。
「そろそろこっちにも来るな……」
戦闘がはじまってからずっと、リズが屋上から狙撃する事で、隠れた敵の姿を
晒していく。その攻撃は、最初は西側を中心に行われていたが、北寄りの方にも
撃つようになってきていた。北門からは見えないが、南側にも攻撃は行っていた
だろう。
とにかく、その攻撃のおかげで敵の動きが多少は分かっているのだ。
「西門からの連絡は無いのか。戦況が掴めない」
「無理だ。連絡役の奴らも混乱している。一応中央からの連絡で、突破される事
は無さそうだと……」
初めての実戦に問題は少なからず起こっている。
だが、ここで逃げる選択肢は存在しない。
「俺達は門の外側に布陣する」
生徒に与えられた役目は敵の進入を防ぐ事。本来なら外で戦う必要は無い。
「ただ時間稼ぎをしているだけじゃ駄目だ。俺達の戦いを見せてやろう」
集まった生徒は頷く。例え壁の上に布陣しても、攻める事は難しい。
地術でも遠距離攻撃は可能だが、ここにいる生徒に、素早い動きの盗賊に命中
させる技術は無いだろう。
「出るぞっ」
北門は僅かに開き、その隙間から黄の寮の生徒達が外へ。およそ半分の生徒が
外へ出て門を背に半円を描くように布陣する。残りは門の内側で待機だ。
「ガキ共が出てきやがった。どうする」
「一気に近付いて仕留めちまえ。出てきた奴らを盾にすれば、遠距離からの攻撃
も出来ねぇだろう」
北門へと迫る盗賊は速度を緩める事なく、やり取りを交わす。
生徒が石塊を飛ばして攻撃するが、それを難なく弾きながら盗賊達は迫る。
「こんだけ近付きゃ簡単には魔術を使えねぇだろ」
そう言って盗賊の一人は手にした鉈を振るう。目の前には棒立ちになっている
生徒。だが、その生徒は笑みを浮かべる。
「既に魔術の準備は整っているんだ」
いきなり足元の地面が沈むと、その上の盗賊はバランスを崩す。
「な、なんだ」
突然の事態に困惑し、足をその場で止めてしまった盗賊。
気付けば目の前に土の壁。視線を上へと遣れば先程の生徒がいて、石塊が自分
へと向かっていた。
「しまっ……」
石塊の直撃を受け、強烈な衝撃がその盗賊を襲う。
「良いかっ、敵を分断してから戦え。正面からやり合うな」
辺りに響く指示の声。生徒達は地術で地面を動かし、簡単な迷路を作り出して
いた。
「落ち着けっ。この程度の壁なら上れるだろ。時間を与えなければ簡単には地形
を変える事なんて出来やしないんだ」
徐々に盗賊の動きが良くなってくるが、生徒は何とか耐える。
広い範囲は無理でも、正面に壁を出す位なら簡単にこなす者もいる。敵を分断
し、そこに石塊を撃ち込んで牽制する。
「ちっ……雑魚の癖にしつこいな。相手にするだけ時間の無駄か」
そのまま門へと向かって駆け出す。門の正面は真っ直ぐと地面が沈み、完全に
道となっている為に、身を低くして全力で駆ける盗賊を止めるのは難しい。
「馬鹿がっ。何を先走ってやがる」
それを見ていた仲間の一人が舌打ちする。
門の向こうには、まだ生徒が待機している。正面へ真っ直ぐと道が伸びている
為に、そこを走るものは格好の的になるのだ。
中にまだ生徒が居る事を考えなかったその盗賊は、石塊の雨に曝される。
「くそおっ……」
いくつもの石塊がぶつかる衝撃に、身体をよろめかせながらも何とか後ろへと
下がる。
「全員引けっ」
後方で動かずに居た敵の魔術師は声を張り上げると、盗賊達は迷い無いの動き
で素早く逃げ始める。
「退くのか……」
安心した様に呟く一人の生徒。だが、それをすぐに別の生徒の声が否定する。
「やばいっ。でかいのが来るぞっ」
高められた強大な魔力。
敵の魔術師の足元から水が湧き出し、渦巻いてゆく。そして水は濁流となり、
門へ向かって押し寄せて来た。
「抑えるんだっ……」
突然の出来事にうろたえつつも、何とか水を防ごうとする生徒達。
外に出ていた生徒は逃げるのがやっと、門の内側の生徒もすぐに壁を作るが、
濁流を防ぎきるだけの強度は無い。
「今だっ」
退いていた盗賊はすかさず反転し、門へと殺到する。
盗賊は足場の悪い泥の上でも素早く動き、止めることが出来ない。
「俺達をコケにしてくれた分のお返しをしてやろうじゃないか」
そうして北門の内側へと敵は侵入する。
二章も二十話位で終わる予定。更新にあまり間が開き過ぎないように気をつけようと思います。
感想とか頂ければ作者は喜びます。多少厳しいものでも多分大丈夫。厳しすぎると
凹みそうですが。
誤字とかの細かい事の指摘でも良いです。自分の実になる物なら何だって歓迎ですよ。
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