1-2:最初の目的地
ケイオスとリズの二人は近くの小屋の中へと入った。ここは二人が暮らしてい
る小屋である。
テーブルの上へ地図を広げ、二人は向かい合って座った。
「まず私達がいるのはここね」
地図に描かれているのはガーデンと呼ばれるこの世界の地図。その中央付近に
ある山をリズは指差している。
「そして目的地はここよ」
今度はそこから上の方。今居る場所から北の地点を指し示した。
「フォルトスか。道理でなかなか見つからない訳だ」
二人が居る場所はグランディアと呼ばれる山。
グランディアはエスティア王国領の南東部にあり、目的地であるフォルトスは
エスティア王国領の北東部。隣国であるブランディル商国との国境にある。
「どうやらスラム地域を纏め上げているみたい。簡単には会わせてくれないかも
しれないわよ」
フォルトスにはスラムと呼ばれる治安の悪い地域がある。ブランディル商国と
の交易で栄えたこの都市では貧富の差が激しく、貧しい者達が集まって出来たの
がスラムだ。
数年前からはブランディル商国内で紛争が起き、多くの難民が流れ込んできた
為に、スラムは更に荒れたと言われている。
「フォルトスのスラムを纏めるなんてな」
スラムには盗賊などの犯罪者も多く、それらを従えるのは容易ではない。
「どうするの。ここからだと行くだけでも大変だと思うけど」
距離的にはエスティア王国を縦断するようなものだ。歩きだと半月程かかって
しまうだろう。
「リズの力があれば一日で着くだろう」
ケイオスの言葉に、リズはあまり乗り気ではない表情を見せる。
「あれはあまり好きじゃないのよね。あなたの望みなら協力するけど」
「頼む。どうしても彼に会う必要があると思うから」
ケイオスの真摯な態度に、リズは笑顔で応じた。
「出発は明日の朝にしましょうか。そうすれば日が暮れる頃には着くと思うわ」
「分かった。今日は夕食を食べたら早めに休もうか」
翌朝の出発は早い。
夕食の準備、と言っても殆どが保存食であるが、地図を片付けテーブルの上に
並べていく。
「食料がもう残り少ないな。フォルトスに行くついでに補充しないと」
二人の住む小屋は、グランディア山頂にある湖の湖畔にある。
水に困る事は無いのだが、湖には生物の気配は無く、周囲に食料となるような
ものは無いのだ。
「私がいない間に随分と食べていたみたいね。まだ4、5日くらいは持つかなと
思っていたんだけど」
基本的に食料の調達はリズがやっているので、こういう事には厳しかった。
「フリードとの訓練で体力を消耗するから仕方ないだろう。決めてあった量だけ
じゃ体が持たない」
ケイオスも悪いとは思いつつも、体からの要求には逆らえなかったのだ。
「別に構わないんだけどね。明日の分の食料は残っているのかしら」
「大丈夫だ。それくらいの余裕はあるよ」
そう言ってケイオスは椅子に座る。
テーブルの上には少し早めの夕食。やはりリズが決めている量より多かった。
「これくらいの量を基準にして計算するようにしないと駄目かしら」
余程の空腹だったのか、勢い良く夕食を平らげていくケイオスを、リズは苦笑
を浮かべながら眺めていた。
翌朝。まだ夜が明けたばかりで、山の上の空気は冷たく清々しい。
「荷物の用意は大丈夫かしら」
「大丈夫。今日の分の食料と、買い物用の資金は持った。他に必要な荷物は特に
無いだろ」
リズは頷いて、精神統一を始める。
これから大きな魔術を使うのだ。魔術を発動する為には、術者の強いイメージ
が必要となる。形の無い魔力というモノを、形あるモノへと変化させるのだ。
「小僧。出掛けるのか」
後ろから声を掛けてきたのは銀狼。朝陽に照らされた毛並みは、まるで黄金の
様に輝いて見える。
「フリードか。これからはちょっと忙しくなる。ここの守りは任せるからな」
ケイオスは湖の方、その中央に霞んで見える巨大な塔へと目を向ける。
湖は特別大きい訳ではなく、塔までの距離もそれほど離れていない。塔の姿が
霞んで見えるのは魔術によって隠されているからだ。
「貴様に言われなくても分かっている。ここはリズにとっても重要な場所。命を
賭してでも守って見せるさ。ここまで来れる人間などいないとは思うがな」
「そうだな」
二人はリズから少し離れた所で話していた。
やがてリズの周りの空気が揺らぎ、渦巻いていく。
「リズに何かあったら貴様を噛み殺してやるからな。覚悟をしておけよ」
銀狼の眼は本気だったが、ケイオスに全く動じた様子は無い。
「リズに何かあるような状況なら俺も助かってないだろ」
その冷静な返しに、銀狼も納得したらしい。
「確かにそうだ。我がわざわざ手を下すまでも無いか」
リズの方を見れば、渦巻く風は更に強くなり、体の輪郭は薄らいでいく。
風が巨大な竜巻となってリズの姿を隠した。
「それじゃあ行って来るか」
次の瞬間には竜巻が霧散し、何事も無かったように辺りは静かになる。
そこにリズの姿は無く、純白のドラゴンが立っていた。
朝陽に照らされたその姿からは、神々しささえも感じられた。
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