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◇はじめに...◇
当物語は恋愛メインですが、背景には“暗の一族”という特殊な世界観があります。
R15程度のオブラートに包んだ性描写を含み、甘ったるい恋愛をベースに微ハードボイルド&ミステリアスを絡めた物語です。
伏線がラストへと繋がっていく過程をじっくりと描いています。

ファーストステップは、主人公のふたりがちゃんとくっついてしまうまで。
セカンドステップは、ラストステップ、延いては最終話へ向けての伏線になっています。
登場人物が多く、視点が変わることも多々あります。
エキストラの一部を除き、伏線&成長の過程を描くものであり、不要な話はありません。

こういう伏線を楽しめない方には、まったりしすぎ等、進展がない、と思われるでしょうし、謎にする必要があるのか等、イライラすることになります。
変哲のない、あるいは軽めの恋愛小説しか楽しめないという方にはお勧めしません。
ほか、注意点として、セカンドステップの結末は歓迎されにくい展開となっています。
かといって、ふたりが別れるとか離れるとかそういうことではありませんので、そこは安心していただけます。

キュートでポップでラヴリーでスウィーティでクール、そしてキス&ハグ!な毒っぽい物語。
楽しんでいただければうれしいです。

* find up … 見つけだす
FirstStep 第1話 Find up -1-
 ドン ―― ッ!
 (からだ)に振動が伝わるほどの音とともに花火が上がり、うわぁーっ、という歓声が屋内の会場にこもった。前方のステージ上は花火の煙が充満し、幕の役割をするかのように人を隠す。
 二千人ほどの観客席は二十代を中心とした人で埋め尽くされ、ステージが終わりを演出しても、余韻(よいん)を楽しんでいるかのように立ち去る人は(まば)らだ。
 やがてステージ上の煙がとれると、観客を見事に一つにした主役たちの姿は消えていた。それを確認した観客は流れるように出口へと向かいだす。

 そのなかで独り、一階席の後部にいた少女は再び座席に腰を下ろした。
 この位置からはせっかくの主役たちの姿も、カラフルチョコでコーティングしたピーナッツにしか見えない。画面越しではなく、直に見てもステージまでは遠すぎる。どんな表情なのかさえつかめない。

 まだ……迎えに来てくれないんだ。

 八掟叶多(はちじょうかなた)はそっとつぶやいた。

 約束。

 おれがやるべきことを見つけられて、それまでおまえの気持ちが変わらなかったら迎えに行ってやる。

 変わることなんてないのに。どんなに幼くても。それくらい……。

 ずっとどこにいるかわからないまま待ち続けて、見つけたのはテレビの中。
 その瞬間、叶多の瞳から涙が零れた。ずっと見たかった端整すぎる顔が、不細工に(ゆが)むほど(にじ)んだ。
 ただでさえ、遠く離れていた存在が余計に遠くなった気がした。

 見つけたんだ、やりたいこと。

 あたしの大好きな人。

 有吏戒斗(ゆうりかいと)は “FATE(フェイト)” という場所にいた。

 デビューから二カ月しか経っていないのに、あっという間にバンド、FATE はその知名度を全国に広げた。戒斗は “戒” というステージネームでベースを担当し、尚且つリーダーとして活動している。

 テレビではじめて目にしてから、一カ月待っても来てくれない。

 一カ月って短いのかな。長いのかな。

 会える方法をずっと探していた。
 そしてたどり着いたのはここ。
 即完売になりそうな気配のチケットを手に入れてやってきたものの、会える方法なんてなかった。

 父、(さとる)は戒斗の居所を知っているはずなのに、戒斗から命ぜられるままに教えてくれない。
 なぜ父は若干(じゃっかん)二十三才 ―― まもなく二十四才の戒斗の命を忠実に守るのか。

 二年前、叶多ははじめてその実情を知った。
 教えてくれたのは十二才年の離れた異母兄である、織志維哲(おりしいさと)だ。

 あまり記憶がないほど叶多が小さい頃、維哲は八掟の家で一緒に暮らしていたけれど、いろんな経緯があっていまは別のところに独りで暮らしている。
 維哲は叶多のことをいつも気にかけていて、度々連絡をしては近況を報告させる。

 戒斗と約束をしたのは五年前。
 十三才という、まるっきり子供だった叶多の想いを、まもなく十九才になる戒斗は所詮、子供の気紛(きまぐ)れだと高を(くく)っていたんだろうか。

 三年後、待っていることに耐えられなくなって維哲に戒斗のことを打ち明けた。

『へぇ、あいつがそう云ったのか』
 電話越しの維哲の声からおもしろがっている様子が(うかが)えた。

「もう戒斗なんて知らないっ! あたしの友だちはカレシいるよ? どうして待つ必要があるのかわかんない!」
『戒斗がそう云うんだから、おまえは黙って待ってろ。嘘を()く奴じゃない』
「……学校の先輩に告白されてるの。付き合っちゃおうかな」
『叶多……』
「だって、おばあちゃんになって迎えに来てもらっても嫌だし」
『立場上、卑怯(ひきょう)なことをできない奴だ。おまえがそいつと付き合ったら、おまえの本音がどこにあろうと、そういう意思だと尊重して戒斗は手を引くぞ』
「……立場上……って何?」
 …………。
 叶多が鋭く言葉をつかむと、維哲は困ったように黙りこんだ。

「お兄ちゃんっ?」
『単純思考のお嬢さま女子高生だって思ってたけど、おまえもやっぱ有吏末裔(まつえい)だよな』
「何それ?!」
『誉めてんだよ。重要ポイントを聞き逃さないところ』
 叶多が攻撃しかけると、維哲は笑いながら感心したように云った。

『あんまり詳しくは話せないけど、戒斗がそういう気持ちを持ってるんなら、おまえもある程度は知ってもいいだろ。おまえ、有吏の家をどう思う?』
「どう思うって……すっごくおっきい!」
『はっ。やっぱ単純な答えだ』
 維哲は鼻で笑った。
「何?!」
『怒るな。戒斗のためにも、おまえはそのくらいでいいんだ。とりあえず、大まかなところだけは教えとく。あとはいずれ、戒斗が話すだろう』

 そう云って維哲が語ったことは、叶多には大まかすぎてよく理解できていない。
 よくわかっていない叶多が説明するとこんな感じだ。

 特殊万世一系の一族の長、有吏という本家を軸に、そう多くないものの全国に散らばった分家。八掟家も分家の一つ。
 何をやっているのかは教えてくれなかったけれど、秘密裡(ひみつり)にやっていることがあるらしく、いわゆる秘密結社のような一族。
 八掟の役割はその名のとおり、八つの(おきて)の番人。その八つの掟というのが何を指すのかも教えてくれなかった。

 叶多はそれまでずっと、普通に近いちょっと裕福な家庭に育っていると思っていた。
 どの程度の地位にいるのかは知らないけれど、父は法務省で働いている。
 思えば、外で仕事を終えて帰ってきた父を訪ねて、普通というよりは異常に客の出入りが激しい。公務員が時間外で働くほど仕事熱心だとは思えない。
 ということは明らかに父は何か別のことをやっている?
 その度に叶多は二階の部屋へと追いだされる。

 三才下の弟、(らい)は最近になって同席することもあるのに。
 この頼も考えてみれば普通じゃない。
 維哲が云うには、有吏家においてそういう教育を受けているらしい。
 へんに物知りで、悟りを(ひら)いたように大人びていて、そのせいか、いつも叶多のことをバカにしたような目で見る。
 よって話がまったく合わない。

 母、千里(ちさと)はすべてを知っているのかどうか、同席することもなくお茶を出したり、リビングでくつろぎつつも、呼ばれればいつでも動けるように待機している。

 有吏家は分家にとって絶対で逆らうことができない。
 戒斗はその有吏家の次男だから、父は若輩であっても戒斗の命に背くことはしないのだ。

 でも、そんなのはどうだっていい。
 あたしは戒斗に会いたい。お(しゃべ)りがしたい。
 誰に向けているかわからない眼差しも声もいらない。


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