真夜中の扉の向こう
友人から聞いた話な。
あくまでも、友人からの話として聞いてくれ。
そいつがな一人で家で寝ていたそうなんだ。
玄関とリビングの間には開き戸で区切られているんだ。
リビングは、まあキッチンもあるし、そこからトイレも風呂場にも行けるようになっている、単なるワンルームマンションだと思ってくれ。
ある夜にな、コツコツコツという、足音によく似た音が聞こえてきたんだそうだ。
それは3歩歩いたら少し止まり、また3歩歩くって感じだったらしい。
どこかの洞窟からきているかのように、遠くから反響しながら聞こえてきたそうなんだ。
でも、単なるワンルームマンションだ。
廊下なんてないところに、突如として洞窟のような感じの廊下ができるなんて思えるか。
扉は運よくしまっていたらしく、その向こうがどんな感じになっているかっていうのは、まったくわからない。
でも、その音は、確実にこっちに迫ってきている。
コツコツコツ、コツコツコツと、同じリズムでな。
それで、友人がな、お前は誰だってその音に聞いたそうなんだ。
大声でな。
するとな、今まで3歩ずつだったのが、コツ、コツ、コツ、コツって感じに、速くなったんだ。
それから扉を開けようと思ったが、それがなぜかできなかったらしい。
鍵なんてないのに、鍵をかけられたかのようにな。
それで、大慌てで携帯電話から、着メロの中にネタとして入れていた般若心経を、音量MAXでその扉のほうに向かって流し始めたそうだ。
さらに、友人自身も、大声で唱え始めたんだ。
数分だか、数時間だかが過ぎたころ、やめてみると、音は止まっていたそうだ。
扉も普通に開くようになっていて、その音の正体は、分からず仕舞いだとさ。