覗き穴
俺の友人が住んでいたアパートなんだけどさ、2階で一番端っこの部屋で、家具はついてなかったらしいんだけど、昔の住人が残したっていうタンスがあって、それをずっと使っていたらしいんだ。
隣には誰もいない方の壁にな。
俺も一度見たことがあるんだけどさ、結構年季が入った、いい感じのタンスなんだよ。
なんか、こう。
上等なタンスっていう感じなんだよな。
でも、ひとつわからなかったのは、大家さんがそのタンスは決してその場所から動かしてはいけない。動かすときには、必ず私、ああ大家さんのことね、に言ってくれということだったんだ。
だから、ずっと動かしてなかったらしいんだけど、箪笥と壁の後ろに、いつの間にかできた1cmぐらいの幅の隙間に、鉛筆が入り込んでしまったそうなんだ。
その時は、一人だったし、もう夜遅くだから、友人だけで動かすことにしたらしいんだ。
中のものを全部出して、それで動かそうとすると、軽々動いたんだ。
何がダメだったのかがわからなかったんだけど、壁を見たとき、初めて分かったんだ。
向こうの部屋を見ることができるのぞき穴があったんだ。
直径5cmもない、けっこう小さめの穴だったんだが、それを友人は覗き込んだんだ。
案の定真っ暗だったんだが、目を離す瞬間に、だれかと目があったらしい。
それでもう一度見てみたんだが、だれも向こうにはいない。
鉛筆は手に入ったし、それで穴の向こうを軽くついてみたんだが、べつに手ごたえはなかった。
おかしいな、そう思いながらも、友人はタンスをもとの位置に戻したんだ。
中も同じようにな。
その翌日だよ。
大家さんが、急に倒れて病院へ搬送されたんだ。
だれかから鉛筆で目を刺されたような感じになって、血まみれで倒れていたらしい。