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あ~る珈琲 -バイト店員渡辺くんの日常  作者: 渡辺くん
第一章 あ~る珈琲潜入記
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小悪魔

「いたたたたっ…… 」

 翌日の昼休み、中庭の芝生に弁当を持ち込んで今しがた食べ終わったのだが、昨日慣れない立ち仕事を五時間ほどやった影響が出て、足にはまだ疲れが残っていた。案の定家に帰るとバタンキューで、予習復習などもする事が出来ないまま意識が無かった。

 足の疲れを解す為、ストレッチを始める。昨日の内に少しでもやっておけば、もうちょっと今日の痛みは緩和されたであろうというのに。そう考えると残念だ。

 まぁ仕方ない。身体が休養を求めていたのだから、それに抗う事など出来なかっただけだ。酔い潰れて寝てしまうよりはよっぽどマシではある。


 そういえば、昨日はメモをする余裕も無かったのを思い出す。鞄の中に入れてあったB6サイズの愛用の手帳を取り出し、早速メモをする。僕はメモを良く取るのがクセになっている。これは五十嵐の影響だ。

 五十嵐曰く「メモは思考のアウトプット。書き表わす事で、自分の思考を再確認する事が出来るし、目で見る事で欠点などにも気付きやすい。思考する上で、物事を同時に二つ以上思い描く事は困難だし、自分の頭の中だけだとそれが余計顕著になる」という事らしい。


 言われてメモを始めてみると、それが事実である事に気付く。メモした時点で自分の思考とは離れた存在となり、過去の自分を客観的に見て修正する事が出来るのだ。

 その時からメモをなるべく日常で取るようになり、今に至る。


 それ以外にも、メモは自分の記録ともなる為、後からその日の行動を振り返ったり、未来日の予定を忘れないようにする事が出来る。ここに書いてあるという安心感がある為、「覚えておく」という労力を使う事なく、その分の思考を別のとこに使えるというのもありがたい。

 なので手帳にはこだわりがあり、無くすと大変な事になる。いつも肌身離さず持ち歩いているものだ。


 手元の手帳には一週間単位のページと、日別ページがある。時系列での行動を週間ページにまず書き、日別ページにはもう少し詳細に記載する。指示された内容や見た情報だけでなく、店長が珈琲を挽いたり淹れたりした際の方法等を、覚えている内に少しでも書いておく。

 ぜひとも店長の淹れた極上の味を、自分で再現出来るようになりたいところだ。


 一心不乱にメモしていると、誰かが近付いて来る気配に目を向ける。

「こんにちは、もうお昼食べたの? 」

 つい先日失恋した相手 ―― 溝口みぞぐち 理恵りえ ―― だった。


「ついさっきね。そっちはこれから? 」

「うん、そうなの。友だちとカフェテラスで待ち合わせ。講義のノートまとめてたら遅くなっちゃって」

 ふふっ、と笑いかけて来る。本人は無意識だろうけど、この小悪魔笑顔に振り回されているのは僕だけではないはずだ。彼女がさっと髪を払うと、とてもいい香りがして来てやばい。

 なんで女の子というものは、こんなにもいい香りがするのだろう。決して香水のように鼻に付く香りではなく、シャンプーの香りとかかも知れない。いかん、本能よ沈まれ。


 僕が心頭滅却していると、すぐ隣に座って手元を覗き込んで来た。うおっっ、近い! まつ毛ながっ!

 彼女のふわふわ揺れる柔らかそうな髪が、すぐ目の前だ。もうちょっとぐらい警戒して欲しい。



「手帳使ってるんだね。なんかデキるビジネスマンみたいでカッコいいね」

 私のはプリクラ用だけど、と彼女が自分の手帳を見せてくれる。キラキラにデコってある手帳らしきモノのページには、たくさんのプリクラが貼られている。ところどころに可愛い丸っこい字で、メモが書いてある。なんか、女の子の部屋を覗いてしまったような背徳感がある。女友達などほとんど居ない為、こういう行動を取られるとどう接したら良いのかがわからない。

 プリクラの一枚に、新歓コンパの時彼女の隣に座っていた彼と、一緒に仲良さげに写っているのを見つけ、少し気持ちが鎮まる。


「バイトの面接どうだった? 」

 あれは社交辞令ではなく、ちゃんと僕との会話を覚えていてくれた事が嬉しい。

「今は見習いって感じ。採用になるかはまだわからないけど、頑張ってるとこ」

「そっか、期待して待ってるよ。また決まったら教えて欲しいから、良かったら連絡先教えて? 」

 好きな子からメアド交換を持ちかけられるなんて! 心の中で雄叫びを上げる。僕はメアドを教えてもらうと、すぐにメールを打ち込んで送った。


 彼女はその後、友達待たせてるから、と行ってしまう。僕は彼女の残り香と、手元の携帯に残るメアドに、夢のような心地を覚えていた。

きっといい香りはヘアコロンですね。

小悪魔は意識してやっている場合もありますよ。騙されないで!

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