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あ~る珈琲 -バイト店員渡辺くんの日常  作者: 渡辺くん
第一章 あ~る珈琲潜入記
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押しかけ手伝い一日目

 翌日、宣言通り授業を終えた後、僕は【あ〜る珈琲】の扉を開けた。

 店内は昨日よりも若干客の入りが多いようだ。それでも全体に静かな印象なのは、あまり大声で話すような客が居ないからか。心地良いまったり感を共有しているような感じ。せっかくいい雰囲気なのだから、それをわざわざ壊したいとは思わないものな。


「失礼します。遅くなりました」

 店長に目を留め、ぺこりと会釈する。

「ありがとう、お疲れ様。じゃあこっちに来てくれるかな?」

 促されて着いて行くと、昨日目覚めた部屋の前を通り、その奥にある三畳ほどの小部屋へ通される。細長いロッカーが三つ並び、その脇には細長い姿見。それから丸椅子が一つ置いてあるだけだ。


「このロッカーを使ってもらっていいからね。荷物はこの中に入れて、鍵は自分で管理して下さい。エプロンは中に入ってるから、それを使って。支度が出来たら指示するので、お店の方に来て下さい。それじゃ私は先に行ってるからね」

 手短に指示を出し、店長はお店に戻って行く。一人で切り盛りしているお店に、長い時間客だけ置いておくわけにはいかないもんな。


 僕は店長から言われたロッカーの扉を開けようとしてふと気付く。ちょうど目線の高さぐらいのとこに付箋が貼られており、『ワタナベ君』と書いてある。無理やりお願いしたのに、ちゃんと準備をしておいてくれたんだな、と思ってちょっと嬉しくなる。

 中を開けてみるとハンガーが二つ掛かっていて、その一つにエプロンが下げられている。色は店長と同じ茶褐色だが、こちらは長方形の布を腰に巻き付けて長い紐で縛る、一般的なカフェエプロンという感じ。脛の下ぐらいまでの長さがある。手早くそれを身に着けて、荷物を入れた後お店へ戻る。


 店内の客は、先ほどより一組増えたぐらいか。店長の手際はやはり素晴らしい。サイフォンの世話をしつつ小皿へナッツを入れ、別の客からオーダーを受けている。


挿絵(By みてみん)


「店長、戻りました。まずはこちらの食器を洗いますか? それとも他にもやる事があれば指示ください」

「ありがとう。じゃあ、そこにあるのは少し水洗いしてから食洗機へ。あとは食洗機が使えないのだから、悪いけど手洗いしてくれるかな」

「はい、分かりました」

 指示を受け、手早く慎重に水洗いして食洗機へ入れる。しかし僕は食洗機の使い方など知らない。飲食店のバイトなど初めての経験だし、実家にも食洗機などなかった。

 どうしようか考えたが、店長からの指示は入れるところまでだったし、忙しそうな店長の邪魔をして使い方を聞くのもはばかられる。食洗機に入れたのと同じ器具や食器は他にもあるのを見て取り、先に食洗機NGのカップなどをスポンジで手洗いしていく。


 それからはひたすらその繰り返しだ。少しだけ店長の手が空いた時、食洗機の使い方も習った。食洗機と手洗いを交互に駆使し、とにかく洗う洗う洗う。

 正直一人で切り盛りしている店であるという認識から、舐めていたと言わざるを得ない。本当に店長はこの仕事量を一人でこなしていたのか? 並ぶほどの大繁盛、とまではいかないが、時間帯に関係なく次々に客が現れる。


 時間帯に関係ないのは、喫茶店にしては珍しく、フード系のメニューが極端に少ないからかも知れない。一般的な喫茶店であればお昼時はランチを提供するし、パスタやらハンバーグやら、色々出しているお店は多い。

 でもこの店は珈琲の品揃えに反比例して、フードと言えばトースト三種類とコーヒーゼリーとケーキぐらいのもの。客から苦情は出ないのであろうか?


 何度も「休憩しておいで」だの、「もう上がっていいよ」だの、「遅くなるから」だのと言って来る店長に、「大丈夫です」を繰り返し、結局閉店時間まで手伝い続けた。夕方から約五時間立ちっぱなしだったので、さすがに結構疲れているかも。しかし店長はそれ以前からずっと立仕事だし、一人でやっているのだから尚更大変なのではないか? 食事なんかはどうしているのだ? まさか店に出ている間ずっと何も食べずにいるのか?


 そんな事を考えながら、ようやく洗い物を終えて吐息をついた時、店の前に出してあった黒い板の看板を中に入れた店長と目が合った。

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