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カプリッチョシリーズ

新人弁護士カプリッチョ

作者:小宮山蘭子
この作品は『職業小説企画』にエントリーしています。
 大学4年のとき、司法試験を受ける決意をした。
「こんな就職難のご時世に、どっかの企業に入ってOLっつーのもなあ~」なんてぼんやり考えてて、“そうだ、京都に行こう”みたいに、「そうだ、なんか資格とってみよう」って思い立って、「まあ、どうせ勉強するなら、無敵のヤツに挑んでみようかしらん?」みたいになって……
 取っかかりはそんなふうに、すごくいい加減なスタートだったけど……
 で、いざ始めたら、やっぱりとんでもなく難しかったけど……
 どんな時も、大好きだったおじいちゃんの「一度決めたことはやり通せ!」っていう遺言を守ってきた私は、絶対に受かるまでやり続けよう! と、燃えた。そう、「じっちゃんの名にかけて!」……まあ、じっちゃんは、無名です。すみません。
 それから3年、我ながら恐ろしいくらい法律の勉強に集中した。過去の高校や大学の受験勉強なんて比にならないくらい、それはもうめっちゃくっちゃに。がむしゃらに。
 恋も海も山もクリスマスもぶっ飛ばして、お洒落もせずダイエットもせず、なりふり構わず猛勉強して……4回目で受かったの。
 まあまあでしょ? ね?


 でね、それからは1年間の『司法修習生時代』を過ごした。
 司法試験受かったからって、その時点ではまだ何者でもないのね。何者になるかは、修習時代に、裁判所だの検察庁だの法律事務所だの、いろんなとこに配属されて、研修を受けてから自分で決めるの。ほら、学校でも、『教育実習生』だっけ、年に一回ぐらい学校に来てたでしょ? ワクワクしたよねぇー 自分のクラスに来た大学生の実習生を「かっこいい」とか「ブサイク」とか、「やさしい」とか「初々しい」とか、「かっこいい」とか(←二回目)品定めして、いろいろ騒いじゃってさ~
 まあ、ああいう感じ……はあ?
 各配属先で、刑事裁判・民事裁判・弁護・検察・選択修習ってのを2ヶ月ずつお勉強する。毎日大変だったけど、楽しかった。
 夜になったら、同期の人たちと飲み歩いたりしてー もちろん、先輩弁護士さんたちからもたくさんご馳走してもらったりしてー……って、そういう思い出しかないのか、自分。
 だけど、勉強ばっかりしてきた私たちは、やっと一端の大人になれた気がして……まあ、まだ勉強みたいなもんは続いていたけど、社会人デビュー果たせたみたいで、本当に毎日嬉しかった。その一年間は、ちゃあんと国からお給料も出るしね、うん。
 同期の玉岡さんは、「嫁に苦労ばっかりかけてきたけど、やっと家族に楽をさせられる」って、初任給もらって泣いてたなぁ。麗しい夫婦愛、じーんってもらい泣きしてたら……
 ただの鬼嫁らしいっす……
 もらい泣き(再)
 そんな玉岡さんは、司法修習生ではなく教育実習生だったら、校内では『ザビエルはげ』ってあだ名決定! みたいな、笑い的においしい頭してたけど~ いちおう、まだ35歳の人。
 で、最終的に、通称『二回試験』っていう、二度目の司法試験みたいなヤツ受けさせられて、それに受かったら晴れて修習の終了。「しゅうしゅうのしゅうりょう」……早口言葉かっ
 これが案外難しくって、ヒヤヒヤもんだった。でさあ……
 落ちちゃったんだよね……
 いや、私じゃないよ。
 ザビエ……玉岡さん。
 うわーん。
 鬼嫁がどんなことになってるか、想像すると夜も眠れない。

 んなことは、置いといて。(えー)


 そのあと、三択で決めるの。裁判官になるか、検察官になるか、弁護士になるか。
 私は弁護士を選んだ。だって、裁判官に進むなんて、同期の中でもトップクラスの超エリート。検事ってのも、なんかイメージ固くない? ねー 柄じゃないしぃ。
 弁護士しかないもんね。……って、消去法かい。
 大した志もなく、ただ安定と名誉とか、そういうので弁護士になるなんてさ、不純だよね。ごめんなさい、神様。でも、わたし、頑張るもん。だって、だって……
 目指せ、まずは年収3000万! どっかーん!
 でもね、一昔前より弁護士の数が増えたせいか、年収は下がってるみたい。昔は平均2000万とか言ってたのにね、今は、800万ぐらいだって。

 それにね、弁護士って、ドラマなんかで見かけるとやたらカッコいいけど……扱うの『殺人』ばっかじゃないのよぅ。めったに来ないわよぅ~ 荒波が打ち寄せる崖っぷちに立って、被疑者を説得……ないない。そもそも、そんな仕事してたって、大した報酬はもらえないし……いや、ホント。
刑事事件って、神経使う割に弁護士報酬は安いのだ。だから本当に、正義感とか使命感とか公平さとか、そういうの、試されることもありそうなんだー。
 いやこう見えて、私、けっこう情にもろいからさぁ~ 
 有無を言わさず引き受けなきゃならない『国選弁護人』で、“『強盗強姦放火殺人』の被疑者を弁護してちょーだい”って言われても、できないかもー 
 いやだぁ~ 
 ムンクの叫びみたいになってまうー 
 どないしょー 
 そんなん、一生回って来ませんようにぃぃぃ

 だけど、何にしても、民事の方が多くなるのは確実。
 報酬も、刑事事件と違って訴訟額に比例する。訴訟額ってのは、相手に請求したり権利を争ったりするモノ――訴訟の対象となる物の金額のこと。大手企業のクライアント持ってたりすると、訴訟で扱う物件もハンパなく高額になり、おのずと報酬もすごいことに……ああん、うっとり。
 そういうのもあって、どこか企業とか個人(←だいたい金持ち)とかの『顧問弁護士』になるが一番堅いのん。毎月最低でも5万くらいの顧問料も入るしね。つまり、そういう顧問先をいっぱい抱えてたら、“×5万”って金額が、定期的に入ってくんのね。5万、最低ラインだしね。有名弁護士のいる事務所だと、100社とか持ってるとこもあるしね。わーお。
 で、裁判となると、最初に『着手金』、プラス、裁判が全部終わってから『報酬金』をいただきまーす。それ以外に、裁判所に払う訴訟費用とか、交通費や郵便料金みたいな実費とかをお預かりしまーす。用意するのが厳しい人には、ちゃんとフォローする制度もあんのでーす……だから、うふふ、怖がらなくっていいのよ~ 訴訟バージンも、法律チェリーボーイも。あはん。
 まあ、ある程度の基準満たしてたら、弁護士の言い値みたいなときもあるから(って人聞き悪いなぁ。つまり、依頼人の事情を考慮してくれる弁護士もいるってこと)、ご依頼をお考えの方は、良い人にあたることをお祈りします、合掌。
 そうは言っても、当の私はね、がっつり獲るわよぅー おほほほほほ。
 だけど、そういうのはもっともっと先の話。
 最初から自分の事務所を構える人なんていなくって、ほとんどがどこかの法律事務所に入り、経験を積むの。そういう若い弁護士のことを『イソ弁』って言う。ノリ弁じゃないよ、イソ弁ってのは、『居候弁護士』のことだよん。
 私は、65歳の超ベテラン弁護士・広瀬先生と、48歳の中堅バリバリ弁護士・坂田先生のいる『ひろせ法律事務所』のイソ弁になった。修習時代、弁護士修習で2ヶ月お世話になったこの事務所が、たまたま新人募集してたので面接受けたら、うかっちゃった。
「うちも若返りをはからねばー 女の人なら華やかだから、モアベター」
って広瀬先生が言って、その場で決まった。

 事務所で抱えている事件のほとんどは、二人の先生の連名で行われてる。でも、所長の広瀬先生はもう年だから、裁判に出て行くのは、だいたい坂田先生。
 初出勤の日、坂田先生に呼ばれて応接室に行ったら、すでにちょこんとソファに座っていた広瀬先生が、水色のファイルを取り出しながら、
「はーい。これ、君の初仕事―」
って、ニコニコしながら言った。
「うわっ ありがとうございます!」
「いいこー がんばれー」
 って、どこの好々爺だ。

 でも感慨深い~ うるうる~  
 苦節4年、いよいよ、弁護士として本格的なスタートを切るんだ。
 仕事バリバリして、年収3000万目指して、置いてきた恋や海や山やクリスマスを取り戻して堪能して、お洒落もダイエットもやり倒すぞぉぉぉー
 すると、坂田先生が、メガネの奥で切れ長の目をキラーンと輝かせ、
「連名にしとくけど、まずは自分で考えてやってみてごらん、離婚訴訟だよ」
と、含み笑いを浮かべて言った。
 オッサン、なに笑ってんねんっ!と思いつつ、
「離婚ですか……」
って、つぶやきながら、ファイルを開くと……

『依頼人・玉岡睦夫』


 だぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!

「あはは。君、知ってる人でしょ? 奥さんから三行半叩きつけられたらしいよ」

 おーまいがっ ザビエルぅ。
 人生は厳しいのぅ。もらい泣き(再々)

 この弁護士ってのは、そんな人生の荒波を、依頼者と手をつないだり、肩を組んだり、おんぶしたり、時にはお姫様抱っこしたりするような想いで、一緒に乗り越えていくのお仕事だ……と、思ふ。
 正義とか権利とかそういうことを振りかざすのは性に合わないし、照れくさいけどさぁー
 まあ、善悪や悲喜が渦巻く社会の海で(社会の窓じゃないよ……すみません、つまらないこと言って)、ひぃひぃ溺れてる人たちに浮き輪投げたげて、
「つかまっていいよ。とりあえず、話は船の上でね」
って、言ってあげる感じ?
 んでもって、トラブルを攻略するためのアイテムとか、裏技みたいなこととか教えてあげんの。ズルじゃなくって、お上をも黙らせる正々堂々としたステージクリアの方法をね。

 がんばろーぜ、ザビエルはげ。
 さあて、私の人生も、めくるめく法曹カオスの中に~
 これからスタートだ。がんばらなきゃあ~
 じっちゃんの名にかけて。目指せ、3000万! って、しつこい。

 だけどね、いくら初仕事ではりきってるからって、ザビッてる玉岡さんをお姫様抱っこなんか、しないよ?
 あたりまえじゃん。
 オーライ?

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