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初恋の人に告白しようとしたら決闘することになりました 作者:和久井 透夏

思春期編

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26. 大好き

 前々から強いとは思っていた。

 でもいざ向き合ってみると、その強さは僕が今まで戦ってきたどんな求婚者達とも次元が違っていた。
 それでもいきなり瞬殺されない辺り、リタさんなりに手加減はしてくれているのだろう。
 しかし、毎回惨敗は免れない。

 リタは毎回僕の怪我を治しながら、こんなに弱いのなら良いとこのお嬢さんと結婚なんて無理だから諦めろと言ってくる。
 少なくとも今の僕に対するリタの評価はその程度だ。

「いいえ、絶対に諦めません」

 僕はもう何度目か解らないこのリタとのやり取りを今日も繰り返す。

 リタに稽古をつけてもらうようになってから一週間後には、僕はなんとなくコツが掴めて来て普通にじっとして集中できる状態なら強化魔法をかけてもらったときのような状態を再現できるようになった。
 しかし、僕の電撃は魔法のように一度発動させてしまえばその効果が一定期間続くような便利な物ではなく、強化された状態を維持するのにもそれなりに集中力を必要とした。

 リタからの凶悪な攻撃網をかいくぐり、強化状態を維持したまま戦闘をすると言うのは至難の業だった。
 一ヶ月経った今でも僕は、せいぜいリタの周囲を守っている魔術障壁に触れる程度の事しか出来ない。
 そしてその障壁を壊せた試しはなく、またその障壁にかまっている隙にあらゆる方向から集中砲火を受けることになる。

 魔法の発動にはその時の精神状態が強く影響して、動揺すると思ったように力が発揮できない物だと昔リタに魔法を教わっていた時に聞いたことがある。
 だったら、何かリタが動揺するようなことを言えば、一時的にでもリタの攻撃の手は緩まるかとも思ったが、リタが何を言ったらそこまで動揺するのかも良くわからなかった。

 最近だと僕が好きな人がいると言った時は随分と動揺していたが、それは単にまだまだ子供だと思っていたのにいつの間にか色気づいて驚いたというだけだろう。

 魔族は種族によって成長に差がありすぎるので、人間のように何歳から成人、というような風習は無い。
 体が成長して大体人間の十五歳位の見た目になった辺りから大人。というかなり曖昧な考え方だ。
 男も女も子供を作れるようになるのが大体それ位だかららしい。
 急に大人びてきたロニーがモテて、ロニーよりも年上だけど声変わりもしていないアベルが女の子達からスルーされるのはそれが原因だろう。

 それでも社会的には精神的に大人として成熟するのは五十歳位からと言われているので貴族の家督を受け継いだりする時もそれ以下の年齢だと後見人が付いたりするらしい。
 つまり、上流階級の人達程年齢を重視する傾向にあり、貴族であるリタからしたら体は出来上がっていても十六歳の僕なんてただの子供なのだ。

 だけどリタはそんな年齢の事は言及せず、僕が結婚したい相手がいると言えばちゃんと話を聞いてくれたし、僕にそんな貴族のご令嬢なんて諦めろと言う時も僕の戦闘力しか問題にしない。
 僕の年齢の事は何も言わないのかと尋ねれば、
「それは先方が決めることで、私がどうこう言う事じゃないよ。両親が健在なら跡継ぎでも家督継ぐまでにはまだ猶予はあるだろうし」
という答えが返って来た。

 リタは頭ごなしに否定なんてせず、僕の意見を尊重して、出来る限り精一杯の応援をしてくれる。
 僕に諦めろと言うのだって、そうやって僕に発破をかけているのだろう。
 きっとそれはリタの親心であり、優しさだ。

 だけどその優しさを向けられる度に僕の胸は苦しくなる。
 好きで、好きで、大好きで、リタから向けられる優しさが心地よくて、嫌でしょうがなかった。
 リタと過ごす毎日が幸せで、温かくて、もしこれが一生続くならば僕は他に何も要らない。

 だから、それを邪魔するような物があるのなら、たとえその相手がリタでも僕は、そう思ったとき、パチリ、と何かがはじけるような小さな音がした。

 気持ちが高揚する。

 僕はリタにすぐに帰るので先に戻っていてくれとだけ伝えると、なるべく普通の速度で走ってその場を離れ、リタの姿が見えなくなったところで一気に走るスピードを上げた。
 体が軽い。いつもよりもずっと早く走っているのに、周りの風景の一つ一つを鮮明に感じ取れる。

 木々の間を縫うように跳びまわり、適当に頑丈そうな岩を見つけたのでそのまま殴りつけてみれば、それはまるで焼き菓子のように簡単に砕け散った。
 魔法の扱いはその時の精神状態が大きく影響するとは聞いていたが、どうやら僕の電撃にも同じような事が言えるらしい。

 何としてでも目の前の相手を倒そうと強く思ったとき、それにためらいがなくなった時、僕の強化魔法は完成するのだ。

 満足して電撃の操作をやめた瞬間、僕は急に酷い倦怠感に襲われた。
 あんまり調子に乗って動き回ると、後の返しが辛いので、これは早めに決着をつけないといけなそうだ。
 重い体をひきずって、そんな事を考えながら家路についた僕の心は軽かった。



 翌日の決闘は僕の期待した通りの試合運びとなった。
 僕の拳はいつものように魔術障壁で防がれてしまったものの、今回リタはその勢いを殺しきることが出来ず、後ろの木に激突した。
 やりすぎてしまったかと慌てて駆け寄ろうとすれば、リタは大丈夫だと僕を制した。

「一体どうしたのですか、随分と動きが良くなったではありませんか」
 リタが平静を装って言うが、リタが僕の前でそんな言葉遣いをするのはいつも余裕がない時だ。
 勝手に僕の口元が釣り上がるのを感じる。
 嬉しくなってぼくはペラペラと強化魔法の事をリタに話したが、リタの反応はそうですか、と酷くそっけない物だった。

 しかし次の瞬間、僕達のいる場所に無数の光の球が現れた。
 初めて見る物だったけれど、それが僕を攻撃するための物であることは解った。
 目の前に今まで見たことも無いような不敵な笑みを浮かべているリタがいた。

 どうやら僕はこの人を本気にさせてしまったようだ。

 だけど腕力だけでなく動体視力等も一緒に強化されている今の僕には、それらの光の球の動きは遅く、簡単に避けることができた。
 僕が避けた先にあった木に当たった光の球は爆発して、僕の手が回りきらないような大木の木を倒す。
 一つ一つは僕の拳位の大きさなのに威力が大きすぎる。しかも数が明らかにおかしい。
 しかも避けたら他の物にぶつからない限り僕を追いかけてくる。

 直後、僕は適当に走り回って光の球を集めた後、リタに向かって突進した。
 リタならすかさず障壁を張ってこの光の球を防ぐだろうから、僕は直前で回避すれば良いだけだ。

 それなのに、目の前のリタの顔は強張っていた。まるで死を覚悟したような顔をして逃げるでもなくその場に留まって動こうとしなかった。
 理由なんて考えている暇はなかったけどリタがこの光の球を防ぐ気も逃げる気も無さそうだと言うことだけが直感的に解った。

 それならそれで、好都合だ。

 僕は勢いに任せて正面から抱きつくようにリタを抱えると、近くにあった頑丈そうな岩に回り込んだ。
 これであの光の球も防げるだろうと油断した僕は直後、岩を完全に砕いた後もまだ残っていたらしい光の球をいくつか背中に貰ってしまった。

 まだ痛みはほとんど感じないが、後で大変なことになりそうだ。

 衝撃でリタにのしかかるような形で倒れ込んだ僕を、リタが慌てて抱き起こした。
「ヨミ!? 何をしているのですか!」
 見れば泣きそうな顔でオロオロしているリタがいる。

 リタが僕の背中に手を伸ばしてきたので、すかさず僕はそれを掴んだ。
 やっと捕まえた。どうしようもなく嬉しくて勝手に顔が緩んでしまうが、まだ終わってない。

「リタ、今魔法使えますか?」
 気付かれないように電撃を流しながらリタに言えば、
「何言っているの、それより早く怪我の手当てを……」
と、少し怒ったようにリタは僕に手をつかまれたまま僕の背中に手を回した。

 そして絶望的な顔をして固まったリタを見て、僕はまるでイタズラを成功したような気分になった。
 嬉しくてまた電撃による魔法の発動妨害のことを説明すれば、
「そんなことより早く手を離しなさい。かなり酷い事になっているじゃないですか背中!」
と焦ったようにリタが声を上げた。

「嫌です」
 僕はリタの言葉を遮った。
 今はそんなことどうでもいい。もっと大事なことがあるはずだ。

「その前に、負けを認めてください。僕の勝ちだと宣言してください。魔法の使えない状態の貴方が、今の僕に敵うはずがないでしょう」
 リタの手を掴んだまま地面に押し倒す。
 この状態になれば、リタが自力で僕を押しのけるなんて出来ないだろう。

 なのに、リタはまるで認めないとでも言いたげな、僕を叱るような目で見てくる。
 解っているのだろうか。
 今の僕ならこのままリタを……

 この期に及んでリタがどうしても僕の事を認めてくれないのなら、と、僕の唇がリタに触れそうになった瞬間、
「そうですね、私の完敗です。強くなりましたね、ヨミ」
とリタが言った。
 つまり、僕の事を認めてくれたということだろうか。

 やっと、やっとだ。

 僕は早速自分とリタの身体を起こして、向かい合うように座った。
「ありがとうございますリタ。では早速ですが僕と結婚してください」
「へ?」
 本当にリタは自分が僕の言っていた好きな人だとは全く考えていなかったようで、間の抜けた声が聞こえてきた。

「……私、でいいの?」
「リタがいいんです!」
 遠慮がちにリタが聞いてくるので、力一杯僕は言い返す。
 やっと伝わった。

 しかしリタは驚いた顔をしたまま黙ってしまった。
「やっぱり、僕じゃダメですか……?」
 それは、僕がリタにとってはただの子供だから?
 根本的にタイプじゃないので生理的に無理と言われたらどうしよう。
 そんな思いが急に湧いてきて一気に背筋が冷えた。

「そんなことない、すごく嬉しい。ただ、ヨミが好きなのは他の女の子だと思ってたから」
 だけどリタは首を横に振って、僕に笑いかけてくれた。
「僕が好きなのはずっとリタだけです! じゃあ、僕と結婚してくれるんですか!?」
「う、うん、これからよろしくね」
 リタの言葉に確信が欲しくて聞き返せば、リタはまた少し驚いていたけれど、そう返してくれた。

 これからよろしく、ということはつまり……

 まさかこんなにすんなりと受け入れてもらえるなんて思ってなくて、どうしようもなく嬉しくて気が付けば視界が歪んで前が見えない。
 不意にリタに引き寄せられて抱きしめられた。

「私もヨミが大好き」

 僕の背中に手を回そうとして、怪我の事を思い出してやめたらしいリタはよしよしと僕の頭を撫でてきた。
 そんな仕草も嬉しくて、大好きで、僕はリタを抱きしめ返す。

「僕の方がリタの事好きです」
「私も負けてないと思うけどな~」
 どこかで聞いたことあるようなやり取りだったけれど、今の僕達の好きの意味はきっと同じなんだと思う。
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