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初恋の人に告白しようとしたら決闘することになりました 作者:和久井 透夏

思春期編

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14. 一本の薔薇

 ……もし、子供の頃に異性の親に恋心を抱くことがよくあるというならば、僕の今のこの気持ちも、子供の頃にはよくあるものなのだろうか。

「ロニー、ちょっと聞きたいんだけどさ、母さんと結婚するとか言ってた時、その、メアリーさんに、例の画集みたいな事してみたくなったこと、あった?」
 できるだけ言葉を選びながら、ロニーに尋ねてみる。

「いや、してみたくなったらダメだろ。母親なんだから。なんていうか、アレだよ。別にそういうことしたいんじゃなくて単純に、自分を可愛がってくれる母親を独占したいとか、そんな感じだよ」
 しかしすぐにロニーから母親相手にそれはありえないとの回答が返って来た。
 やっぱり、今の僕のこの感情は普通ではないらしいと思うと、気が重くなる。

「あの時はまだそういうのに目覚める前だったっていうのもあるけど…………まあ、リタさん美人だしな。別に血が繋がってる訳でもないんだし、リタさんがどう思うかは別としても、ヨミがリタさんに対してドキドキするっていうのも、おかしなことではないと思うよ」
 ロニーは言葉を続けながら、どうやら僕の心情を察したらしくフォローを入れてくれたが、リタさんがどう思うかは別として、というのが全てを物語っているような気がした。

「つまりヨミはリタさんのことが好きで、結婚したいとか、そういうことなのか?」
「うん、まあ……」
 アベルが話を纏めるように僕に尋ねる。
 改めて言われると、恥ずかしいというか、落ち着かない。

「やっぱりこんなの変なのかな……」
「いや、変ってことはないだろ。俺の初恋の相手も近所のお姉さんだったし、それが叶うかどうかは別としてもヨミがリタさんを意識しちゃうのも別に変だとか、悪い事じゃないと思うぞ?」
 僕が居た堪れない気持ちになっていると、アベルがすかさず僕の肩を大丈夫だとでもいう風に叩いてくれたが、それでもやはりアベルの言葉にも暗に僕のこの思いは叶いそうに無いという意味が込められている気がする。

「まあ、いつまでもウジウジ悩む位なら、いっそ思いを伝えてみても良いんじゃないか?」
 アベルはそれでふられたら俺とロニーが慰めてやるよと笑うが、僕にとってそれはそんな簡単な問題じゃない。
「もし、それでリタに嫌われたら……」
 口に出して胸が苦しくなった。
 もしそんなこと言ってリタとその後気まずくなったり、嫌われてしまうようなことになったらそれこそきっと後悔する。

「少なくとも、リタさんがそれ位の事でヨミを嫌いになるなんて事は無いと俺は思うけどな、リタさんヨミに甘いし。それに、もしかしたら上手くいく可能性も無くも無いかもしれないだろ」
 横からロニーが僕の頬をつついて来る。

「さっきから二人の言いようだと暗にふられて来いと言っている気がするんだけど」
「リタさんは本当に自分より強い相手じゃないと結婚なんて無理っていうのは結構有名な話だからな~、実際に地位も金もありそうな男や、そこそこ強くて顔もいい男からの求婚も平然と蹴散らしてるんだぞ?」
 アベルが諭すように言うが、僕はその噂を流している人もその噂を流した意図も知っている。

 だからこそ、その噂が真実だと知っている。
 そして、今まで幾度と無くリタがその求婚者達と戦っている所を見たことがあるから知っている。
 リタさんは、一般的にはそこそこ強いであろう彼等にも相当に手加減していることを。
 普段だとしばらく手を抜いて戦い、時間をかけて『いい勝負』を演出しているが、食事前や他に用事があって急いでいる時等は表面上の態度は変わらないものの、いつも瞬殺しているからすぐ解る。

 僕が全力で挑んだ所で、万に一つもリタには敵わないことは火を見るよりも明らかだった。

「どうせ決闘した所でリタさんには誰も敵わないんだから、そんなことはどうでもいいんだよ。それよりもヨミはせっかくリタさんと小さい頃から一緒に住んでるんだから、それを生かしつつ庶民的にリタさんに迫ったらいいと思うんだよ。それでリタさんがヨミを意識し始めた所で告白したら多少は成功率も上がるんじゃないか?」
 ロニーが腕を組みながら提案する。

「庶民的に迫るって、例えば?」
「プレゼントとかどうだろう。それもあからさまに好意が伝わるような物とか」
 僕が尋ねれば、ロニーが少し考えた後答える。

「あからさまに好意が伝わるプレゼントか……婚約指輪とか?」
「あからさま過ぎるだろ。それじゃ告白だ。もっとこう定番みたいな…………花とかどうだ?花言葉とかそういうの女は好きだろ?」
 いきなり告白するのではなく、その前に少しずつ小出しに今までとは違う意味の好意を伝える事が大切なのだと横からアベルがしたり顔で言う。
 いつの間にかアベルもすっかり乗り気になっている。

「ずっと好きでしたとか、男としてみてください、みたいな意味のある花を贈るってこと?リタは気付くかなぁ」
「じゃあその花を意味ありげに定期的に贈ったら、そのうち意味を聞いてくるか調べるかするんじゃないか?」
「それなら意味を聞かれても適当に言葉濁して、リタさんが自主的に調べて意味に気づく方が効果高そうだな」
 僕が渋るように言えば、アベルとロニーが次々に案を出して話を進める。

「二人ともなんでそんなに乗り気なのさ」
 僕が妙に協力的な二人を訝ると、なんか面白そうだし。との答えが返って来た。
「別に好きって言われて悪い気する奴なんていないと思うんだけどな」
 アベルはそう呟いたが、それは純粋な好意だけの話ではないのかとは思ったけど、これ以上追求しても墓穴を掘りそうなのでやめておいた。


 結局僕はアベル達の案を採用してリタさんに花を贈る事にした。
 考えてみれば、ロニーの言うリタさんに庶民的に迫るというのだって、要は僕が最初にやろうとしたことと変わらないし、今度は協力者がいる分、少しだけ心強くもあった。

 花を贈るに際して協力を仰ぐことになった花屋の娘のマリーは、アベルの話どおりテキパキとした快活な子だった。
 リタさんに花を贈りたいと相談すれば、
「噂にたがわぬマザコンぶりだな、少年!」
と茶化されたが、それでもこの花にはどんな花言葉があるのかとか、贈り物ならこの花が良いんじゃないか等、丁寧に相談に乗ってくれた。

 色々と迷ったが、僕はリタさんに毎日薔薇を一本ずつ贈る事にした。
 薔薇の花言葉は愛であり、恐らく一番知名度が高い花言葉であろうというのが選んだ理由だった。
 また、贈る薔薇の本数や色、形によっても花言葉の意味は変わるそうなので、『愛の告白』という意味を持つ赤い蕾の薔薇を『あなたしかいない』という意味で一本ずつ、しばらく毎日贈ってみることにした。

 そして頃合を見てリタさんに告白する。
 確かにちょっとロマンチックかもしれないと思いつつ、僕は薔薇を片手に意気揚々と家路に着いた。

 しかし、家に着けばリタさんの姿は無く、代わりに深刻そうな顔のローザさんがいた。
 ローザさんに話を聞いてみた所、魔王城に人間の勇者達が乗り込んできて交戦状態になり、リタさんやリックさんもその戦いに招集されたらしい。
「お姉さまはすぐに戻るからよろしくとヨミ君のことを頼まれましたの。詳しくはわかりませんが、どうも事態はとても緊迫しているようですわ」

 今までもリタさんが家を空けることは何度かあった。
 リタさんは適当に話をはぐらかして教えてくれなかったが、リックさんの話によれば、王都で魔王軍の定例会議や王都に迫った勇者達を倒しに行ったりしていたそうだ。

 それでも大抵の場合、日帰りか長くても数日でリタさんは帰ってくるので僕もあまりそのことに関して深く考えることは無かった。
 深刻そうなローザさんの話を聞いても、今回だってきっとすぐにリタさんは帰ってくるに違いないと思っていた。

 だけどリタさんは、僕の贈ろうとした薔薇が咲いて、すっかり枯れてしまってもまだ帰ってこなかった。
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