わたしはトイレの花子さん
ホラーだけどコワクナイヨー。
わたしは花子。
校舎三階の女子トイレ、三番目の個室にいる可憐な少女。
おいそこ、引き籠っているとか言うな。
便座がシャワー式になってから、一度も誰にも使わせていない。
それ以来ずっと使用中にしているんだ。
だって考えてもみてよ。
誰が座ったかも判らない便座。いくらティッシュで拭いてもアルコール除菌してもなんか気持ち悪いじゃない。そこにこのぷっくりとした桃のようなピンクですべすべのわたしのおしりが乗るのよ。
それにね、座ったときに前の人の臭いが残っていたり、便座が温かかったり。そんなところに座るのが気持ち悪くて気持ち悪くて。
もう前の人のモノが残っていた時なんて最悪! 見てはいけないものを見てしまった気分。たとえそれが欠片だとしても便座にこびりついたモノだとしてもよ。
あとね、トイレで吐くのもやめてほしい。
あの酸っぱい臭い。それはトイレの臭いとはまた違ういつもは存在しない胃をきゅるるってさせるツンとした臭い。
それと変な色のベタベタ。いくら流してもこびりついて離れないのよ。
その上よ、はみ出してそのままにしていることだってあるのよ。わたしの部屋を汚してタダで済むと思っているのかしら。
そうそう、前なんか夜中に副校長が入ってきた時には参ったわ。
なに考えてんのよあのハゲオヤジ。ここは女子トイレよ。
それにいきなり便座にほおずりするとかキモいにも程があるわ。
だからカツラを便器に落として流してやった時は思ったよりすっきりしたなあ。トイレでスッキリするのに別の方法もあるんだってあの時気付いた。それにあの慌てよう、今でも笑える。
ああ、シャワー式トイレって、気持ちいんでしょうね。
え、わたし? 使ったことあったけど、その時は水びたしになっちゃって。
ほらわたし幽霊でしょ。水なんて通り抜けちゃうのよね。
こればかりはがっかり。超残念って感じ。
一度は体験してみたかったんだけどね。
直接触れないなら誰が座っても関係ないんじゃないかって?
なに言ってんのよ、触れようが触れまいがきたないものに乗るのって嫌なものでしょ? そういうところが解んないなんて乙女心というか幽霊心が解ってないのね。
そうそう、この間生徒たちが話していたのが聞こえたんだけど、わたしと話をして三秒以内に逃げないと呪い殺されるんですって。知ってた?
それがさ、いつ呪い殺されるのかっていうとね、百年後ですって。ばっかじゃないの、百年後なんてだいたい誰が生き残っているっていうのよ。生きている方が呪われてるくらいよ、死神から愛想つかされてるくらいにさ。だいたいわたしだってそこまで待ってらんないわよ。この校舎だってあと百年もつか判らないしね。
ほら、外が見えるよ。個室の壁がはがされてさ、あれ知ってるよ。黄色いの。しょべるかーっていうんでしょ。
子供たちが話していた。
あのおっきい爪でさ、なんでもかんでも搔き壊しちゃうんでしょ。
初めて見たけど、ああこれは確かに陶器の便器も粉々だわ。
一つ目も二つ目ももう砕け散っちゃって。あとはわたしのところだけなのね。
黄色いおっきい爪が迫ってきた。
ちょっといたずらしちゃえ。ほら、最大出力のビデ噴射よ!
あははっ、しょべるかーだってびしゃびしゃ。
びしゃびしゃ。
なによ、こぼれる水がさ、泣いているみたいじゃない……。
わたしは花子。
校舎三階の女子トイレ、三番目の個室にいる可憐な少女。
もうその場所はない。わたしの居場所。
そしてわたしも……。
「花子さんいらっしゃいますか」