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第三話・人生の分岐点

ブレスレットをにーさんから預かった、次の日。


昨日の一連の出来事があまりに非常識だったため、

俺は手に巻かれたブレスレットがそのままか確認した。


――ある、な。

あって欲しかった気持ちと、無くなって欲しかったという

複雑な気持ちが俺の中に渦巻く。

って、なんで夜も離さず眠るほどコレ大事にしてんだろ、俺。


でもま、当たり前っちゃあ当たり前かな。このブレスレットの力に

他の誰かが気付いちまったら色々面倒だし。

あと、まだ「試着中」だもんな。


俺はいつもどおりテンポ良く朝の支度を済ませた。

渦巻く気持ちを抑えながら。


――今日MDで聞いている音楽は、若者のカリスマ的

存在として注目を浴びている男歌手のアルバム。

やっぱり「無名ながらも聞いて心にグッと来た」とかじゃなくて、

誰もが聞くような流行の歌だ。周りと話を合わせるための

ひとつの材料みたいなもんだ。

自分の「スキな曲」とかいう意志を持って聞いてる訳じゃない。


他の人間もきっとそうなんだろう。周りと波調を合わせようと、

無駄に一生懸命になってるから、個性というモノを見失う。

だからといって自分らしさを強調しすぎたって、

周りの輪からはみ出した人間になるだけなんだ。

ただし、合わせ過ぎもよくない。周りに大体

認識されるくらいのキャラ作りをして、それを貫き通すのが

人間と付き合っていく上でのちょっとしたコツだ。


本当に人付き合いってのは、

相手の心の声が聞こえたって難しい。


――家を出ると、俺の目を潰しに来た朝の日差し。


「・・・まっぶしぃ・・・」

ちょくちょく独り言を呟くクセがある俺。

ちょっとムカついたんで目の前に手をかざしながら

加害者の太陽にガン飛ばした。(直視できねーけど)

(全く、思春期の健全男児の肌を容赦なく攻撃するたぁ・・・)

肌が弱めの俺は、屋根のあるいつもの商店街に

差し掛かるまで、ずっと自分の左手で陰を作っていた。


――(・・・ったく学生は気楽でいーよなぁ)

  

商店街突入早々、聞こえてきたのはそんなまさかの俺への野次。

学生だから皆気楽だって思ってんのかよ?

雑貨屋の吉田さん、その考え180度改めて頂きたい。


マジで、俺達若いからってバカばっかやってる訳じゃねーのにさ。

確かにギャーギャー騒ぐ事もあるけど、その分自立しよーとか

将来どーしよーとか色々考えてんだよ。勉強が出来ないから

話しててもバカっぽい、とかさ、どうでもいいんだ。


要は自身の知る数少ない言語で、どれだけ人間として位の高い

ヒトの心を惹きつけられるか。それが上手い奴を

「世渡り上手」って呼ぶんだよ。

つまり上下関係は学生の頃にも存在してる。

「派手な奴」と「普通な奴」と「地味な奴」。


そんなこと少しも理解できないなんて。

あんたに青春は無かったのかい?吉田さん。


俺は心の中で自分の人生論を語り、

吉田さんをメッタ打ちにしてやった。

しかししかし、丁度良く気分が優れた俺の目に飛び込んで来た、

あの風景。俺はちょっとドキっとした。


「――おはよーう」

今日も昨日のにーさんがあぐらかいて座ってる。

出会い頭、俺を見上げて手を振って来た。

「どーも・・・」

俺は地面にカバンをどさっと落とし、わざと

「ちょっと話しましょう」という状況を作った。

「で、どーでした?ブレスレットお試し期間」

案の定この質問。

「・・・いや、マジで聞こえたんで驚いたんスけど」

俺はブレスレットを外して、

ブラブラさせながらにーさんに見せた。

「アハ、やっぱ?でも何かしんどくないです?精神的に」

「・・・はい。それはもー。頭ン中にガンガン声響くし、

 うるさいし、表に出てる声聞き取りにくいし・・・なにより・・・」

俺はこの言葉を言っていいのかどうかわからなかったもんで、

ちょっと喉のあたりにつっかえさせた。

「なにより?」

でもにーさんが後押ししてくれたから、

もう吐き出さざるを得なくなる。

「人間らしさが気持ち悪いほどよく見えた」

俺が真顔で言うとにーさんはにっこり笑って、

「しんどいですね それは」って返してくれた。


昨日も思ったけど、このにーさん掴めないなぁ・・・

ミステリアス。いやだって心が読めるブレスレット持ってるし。

いきなり消えるし。寝てるし。ってか俺の心の声、

にーさんにも聞こえてんのかなー・・・。


「聞こえてますよーん」

「あ・・・(そうなんだ)」

「はい。僕一回着けちゃったし」

・・・ん?どういうコトだ?一回「着けちゃったら」

どうなる訳?着けてどーにかなるなら俺も同じってコト?

「いやいや、それはお試し品だから大丈夫ですよ」

「お試しと購入の違いって・・・?」

怪訝そうな顔で問う。

「お試しは24時間限りで、お一人様一回専用なんです。

 だからそろそろヒトの声も聞こえなくなってきてるハズ」

・・・そーいや吉田さんを最後に聞いてねぇな。

うまいコトできてんだな。試供品。


「――あと、決定的な違いがあります」

にーさんが珍しく真面目に語り始めた。

「何すか?」

「購入したブレスレットは、一日の間20時間は

 着けていないと・・・」

シリアスシリアス。しかしヒトの心が読める代償なんだ。

相当のモノに決まってる。にーさん。早く言ってくれ。

「着けてないと、どうなるんですか?」

「・・・あなたと信頼関係を結んでいたヒト全てが、

 それまでのあなたとの関係を断ちます」


「・・・え?」

「だから、あなたと信頼関係を結んでいたヒトがぁ・・・」

いや、そーでなくね。

「何ですかぁ?」

「ただのブレスレットが、どうそんな事態を

 都合よく招くことができるんですかね」

俺は、正論を言ってやったと思った。

「・・・ま、実際着けてみなければ分かりますから。

 それに『心が読める』ってのは信じるのに、

 『ヒトとの関係が突然無くなる』事を信じないのは

 今更どうかと思いますし」

正論を投げ返された。のでもう1つ質問してみる。

「関係を断つって事は、それまで仲良かったヒトが

 突然そっけなくなるって事なんですか?」

「そーですそーです。僕も次の日学校行ったら、

 突然皆が僕のこと『シカト』って感じでしたから」

難しい理論だな。この場合なら「関係を断つ」ってのも

色々ある。いくつか挙げるなら・・・


1・仲が大して良くなくなる(修復可能)

2・どうでもいい存在(ほぼシカト、孤立)

3・完全に忘れられる(転校生か?って感じ)


多分このどれか。2が無難だと思うのだが。

「う〜ん、1.5ってトコですかねぇ・・・」

にーさんが俺の心を読んでから言った。

微妙だな、1.5。

「でしょ?受け答えはしてくれるんですけどぉ、

 どこかそっけないんです」

というか、さっきから突っ込んではなかったけど、

にーさんって今の俺みたいにこのブレスレットつけて

楽しんでた時期あったんだ。興味湧くな。ちょっと聞きたい話だ。

そんで20時間着けてなかったから、「関係を断つ」

の意味が身に染みてよくわかったんだろうなー・・・。

「あぁ・・・そのことには触れないで下さいぃ・・・」

何か過去に傷があるようで。


「ま、まぁ・・・購入して頂けるなら、

 その代償にも気をつけてください、ってことです。

 最低20時間の着用はお忘れなく」

・・・ん?

ちょっと頭に引っかかって、ふと思った。

「どうかしましたぁ?」

「これって、購入した場合・・・」

聞きたい気持ちと聞きたくない気持ち。

これの答えによって俺は大分、購入に頭を抱えると思う。


「一生そのままなんですか?」


「・・・」


にーさんが珍しく黙った。

さすがにブレスレットを売りたい身としては、

返答に苦しむ質問のようだ。


「はい、壊れるまでそのままです」


俺は意外な答えにビックリした。

「壊れ・・・る?」

「はい、ブレスレットも形あるモノですから。

 いつかはその効果を消すんです」

俺はへぇと相槌を打った。

んでもう一個重要なことを聞く。

「その寿命は大体どれ位なんですか?」

「んー。短くて50年くらいじゃないですかぁ?」

ご、50年もヒトの本音聞きながら生きるのか・・・

結構ツライなぁ、こりゃ。しかし、マジで悩む。


「真剣に受け止めてくださいよぉ。買うか否かで

 あなたの人生だいぶ変わってきますし」

「・・・それもそーだ」

でも、ヒトの心を読む力は惜しい。

人間、人生の半分はコミュニケーションなのだから。


ヒトの本音を知って、傷付くことはあるのだろうか?

いや、心の声が聞こえるんだから、

それを聞きつつ冷静に会話すれば俺は「嫌われない人間」に

なれるはずだ。いや、こんな力を持てば、必ずなれる。


嫌われなければ俺は、他人の本音を聞いてストレスを

溜めることもそう無いだろう。


――きっとここが俺の、人生最大のの分岐点。

  もう答えは、半分くらい出てるけど。


・・・ここで決めなきゃいつ決めるんだ。

俺はきっと、一番この力を欲しがっていた人間だ!


「・・・買います!」

俺が言うと、にーさんはにっこり笑って言った。

「毎度ありぃ〜。代金は300円でございまぁす」

そしてクロスの付いたブレスレットを、グレーの包装紙に

手際よくラッピングした。


一瞬「金取るの?」って思ったけど、

考えれば当たり前か。しかも心が読める力が

300円なのはかなりお得だと思うなぁ。


「でしょ?代償とかありますからねぇ。

 実際のシルバーアクセと同じくらいの値段です」


俺は早速包装紙からブレスレットを取り出し、

自分の腕に着けた。やっぱなんだか、顔がニヤける。


「にーさん、これ・・・」


・・・いねぇ。

にーさんまた消えてるし。


これでもかっちゅーくらい非常識な状況に囲まれた俺。

心が読めて、でも代償があって、突然消えるにーさんがいて。


これから約50年。

俺はヒトの心の声を聞き続ける事になる。








書くのが遅いんで、

更新も遅めです・・・すみません。

バリバリ書きたいのになー。

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