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第二話・ガッコーにて

俺は、無敵だ!

人の心が読めるんだぞ?

他人には出来ない事が出来るんだ!


突如、俺の退屈を吹き飛ばしてくれた銀色のブレスレット。

「人付き合い」に完全なる自信を持った俺。

ブレスレットには小さな十字架がくっついていて、

眺めるだけでもなんだかニヤニヤしてしまう。

今の俺には、こんな非現実的な事を夢だと思う余地もなかった。

まあ現実なんだけど・・・。俺はただ学校へ向かい、

友達の「声」を聞きたい一心だった。


まあやっぱ学生なんだし、思春期なんだし。


聞きたい事は、色々ありまして♪



「――ぉっはよぉ。」

ふだん通りに挨拶できた。いつもと何ら変わらない俺を演じられた。

ありえない事とはいえ、あまり動揺を見せたら怪しいしな。

「あ。悠ちゃんオハヨー」

「よ。斉藤」

俺に一番に声を掛けてきたのは、不本意だが

小学校からのダチである斉藤だ。ケケケ。こいつの心も覗き見てやる。

「斉藤なんて他人行儀じゃーん。小学校んときのあだ名、

 『いっくん』でいいよーん♪」

俺は怪訝そうな顔を晒した。

「・・・今更そんな呼び方ハズいっての。

 俺のクールなキャラに合わんだろう」

「クールだってよ!?ギャハハ!!」

俺は斉藤の横の自分の机に鞄をドサッと置くと、

体を斉藤とその仲間達の方へ向け、

机にひじをついて足を組んだ。

俺なりのオトナ風おしゃべりスタイル。

「そんな笑うとこじゃねぇだろ・・・」

あぁクソ、喋ってる声と混ざって

斉藤の心の声が聞こえんわ!静かにしろ愚民どもめ!

表面上は見事に平静を装っていたが(多分)

俺は周りのうるさい人間にこれまでに無いくらい

うっとうしさを感じた。ここで皆を

どうにかして静かにさせる手段・・・何か無いか!!?

何か、何か、何か!


「――なぁちょっと!!!」


(何だよ)


皆の心の声が一致団結。注がれる視線。

まるで俺を新しく動物園にやってきた

パンダかのように、見る、見る、見る。


うわぁ・・・何言ってんだろ俺。

斉藤を「いっくん」と呼ぶより恥ずかしい状況。

「なぁちょっと!」という言語を駆使できるほどいいネタは

ないんだけどな・・・・。どうします脳みそ司令部。


「ちょ、さ、斉藤、ションベン行かねぇ?」


(え・・・そんなにトイレ行きたかったのか悠貴。)

聞こえました斉藤クン。あなたの心の声。

思ったより純粋というかバカなようで。連れション相手を

あなた一人に限定したことに対しても突っ込んでないし。

よかったよかった。とりあえず(?)危機回避。静かなトコにもいけるし。

あー。なんか「ついに!」って感じ?


じょぼぼぼぼ・・・。


うわぁ、公の場に晒せない音だぁ。

そう。今トイレです。二人とも喋らず自分のおトイレに夢中。

この状況で何らかの話題を振らなければ・・・

わざわざこの静かな状況まで持ち込んだ意味が無い。

うーん。話題話題・・・あーもう、ヒトと話すのって、

こんなに難しいことだったのか。

「なー悠貴ぃー」

・・・お。予想外の展開。向こうから切り出してくれるとは。

「何?」

「今日なんか怪しくね?お前」

あ・・・あぁ・・・バレてしまった。

隠せていたと思ってた俺のあたふたは、チャックの見えてる

着ぐるみみたいな状態だったらしい。

「そうか・・・?俺、怪しい?」

「うんうん。あ・・・まさか、彼女でもできた?」

おぉっ!この手の話題に突入!いいペースじゃねーの?

「いや、てめー。そうやって他人ばっか煽ってんじゃねえよ。

 自分はどーなのよ、自分はー」

「えぇ・・・俺?」

さーぁ聞いてやろう覗いてやろう斉藤クンの胸中を!

( 『俺、英語担当の三島センセーがスキなんだ!』

 なんてスカッと言えたらなぁ!誰だ、教師と生徒なんて邪魔な

 立場作ったんは!)」

・・・え?今。何?え?三島?マジですか斉藤クン。

あのロリータ若作りババァに萌え?もうあのヒトかれこれ40代ですが。


「俺はやっぱ2年のマドンナ上田 莉子チャンかなぁ♪」

あ、今ウソ言ったね。

「・・・」

俺はまさに「絶句・・・」って感じの表情を作って見せた。

「どした?悠貴。黙りこくって」

あんたの感性にびっくりしてんのよ。

「んー。何でもない」

俺は用を足すとズボンを上げ、グッとベルトを締めた。

「あ、お前も莉子ちゃん好きなのー?

(先生は渡さねぇぜ♪)」

いらねぇよ。莉子はまだしもアレ好きになるならゴキブリ掴むほうが

まだマシだ。てか表に出てる声の方もウざい展開になってるし。

あー。対処に困るぞコレは。

「何言ってんだよ・・・俺は由衣ちゃん一筋だっての」

「ギャハハ!一回別れたくせにぃ!!

(ブハハハ!いつ思い返してもダセェ別れ方!悠貴ダセェ!)」

「は。ははははは」

あらムカつく。俺の作った笑顔はひきつっていますか?

まぁ、冗談でも女にカエル突きつけたら泣くわな。別れもするわな。

あの時は俺小学生みたいだったぞ。超後悔してんだけど。



――「やる気起きねー・・・」


斉藤クンの心の声を存分に聞いてトイレから戻った俺は、

机に突っ伏して小さく呟いた。やる気無いのはいつもだが、

今日は特にだ。過去の古傷をナイフでえぐられたし。

このまま寝ときたい俺は、その重いまぶたをゆっくり降ろした。


しかし寝れない。というか寝させてくれない。

俺の睡眠を妨害する者は必ずしも現れる。


「悠貴ー。どーした?」

同じクラスの伊藤だ・・・。ダルイんだよ。寝かせろよ。

「寝ようとしてた。」

俺はストレートに述べた。

「ふーん。あ、そーいえばさ、昨日メールしたんだけど。

 お前返事よこしてねーだろ!

(マジ早く返せよな。ケータイなんて常に

 身の回りに置いとくもんだろが。ケータイ何に使ってんだよ)」

だってお前のメール、読むのも返すのもメンどいんだもん。


「俺の彼女、今日めちゃカワイイ形したクッキー作って

持ってきてくれたんだ!さすが料理部だよな///」


とか。俺そんなノロケに対応するほど優しくないんで。

てか伊藤クンの心の声、黒い黒い。ダークネス。

しかも寝ようとしてたっつってんのにスルー?

ふーん、って。淡白な反応だわ。

「ゴメンゴメン。昨日の何時ごろ?」

「8時」

不機嫌そーな顔で返事する伊藤クン。

「あー。俺その頃風呂入ってたわ」

「おいホントかよ(笑)

(テキトーなウソついてんじゃねぇよ)」

あー。ばれてたのね。当たり前か。

確かにテキトーだし。

「あー。じゃあもういいですよ。今夜もまたメールするから。

 絶対返事返せよなぁー。ったく。」

なんだよ、ったく。って。怒らないでよ。

「多分風呂入ってっから無理ー」

「安心しろ。夜中まで送りつけてやるから」

「うぜぇよ(笑)」

マジでうざいです。もう寝かせてね。


再び机に突っ伏しながら、ふと思う。


俺は突然現れたにーさんからもらった(試着中?)

ブレスレットでヒトの心が読めるようになった。

「人付き合い」には大きな自信を持つことができたんだ。


けれど何か、モヤモヤして離れないことがある。


他人の本音を聞くことによって、嬉しいことばかりではなくなる。


なにせ、「ウソも方便」が通用しなくなるんだ。

周りの人間が、俺を全く気遣っていないように思えてしまう。


ヒトの本音が聞こえるコトで、時に顔を出す、この

むしゃくしゃした気持ちを押さえることができるだろうか。


ヒトの心を読むことができるのは、いい事なのか。

俺はまぶたを閉じると、寝たふりをしながら

それを改めて考えていた。


このブレスレットが、本当にいいモノなのかを。







プロローグに誤字発見です。
悠貴くんの料理のレパートリーは
3種類です。申し訳ありませんm(__)m

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