第一話・朝の幻
通学の為にいつも通る、ここの商店街。
オシャレでもなんでもない、魚屋とか
八百屋とか、偽ブランドの丸分かり
Tシャツ普通に売ってる洋服屋とか
がズラッと立ち並ぶ地味〜な商店街。
ここも都内の一角だと思うと、
なんかため息出てくる。
俺がガキの頃(田舎に住んでた)
東京に抱いてたイメージは、
相当のものだったなぁ。
てか、家が一軒家とかじゃなくて
全部マンションだと思ってた。
なんかビル=家だと思ってた。
まぁここにはオヤジの仕事の
都合で引っ越した訳だが。
実際、東京もたいしたことねー。
ってのが俺の本音。
いつものように足を止めずに歩く、
この通り。ロボットみてぇに、
無心で歩く。いくつか開いてる
店をチラチラ見ながら。
すると、いつもと違う
何かが見えた。
妙にオシャレな露店で、
キャップ被ったカッコいい
兄ちゃんがその横で
あぐらかいて座ってる。
都心に出たらよく見れる
、シルバーアクセの露店だ。
よくもまぁこんな、俺ぐらいしか
若者が通らんとこで・・・
馬鹿か。
とりあえず気になったんで、
話しかけてみる。
「――あのー、おにーさん?」
すると兄ちゃん寝ていたようで、
パッと目覚ましてしばらく間空けて、
大まかに状況を理解したらしい。
そんでのん気に、
「ん?あぁ〜・・・いらっしゃい」
って俺に挨拶した。
客の前で寝といて
いい度胸だな、おい。
「あ・・・すいません。
何をお求めですかぁ?」
は?
何でこいつ、今謝ったんだよ。
とにかく優しい俺は
その謝罪をスルーして、
兄ちゃんに忠告してみた。
「ここ、アクセ買うような若者通りませんよ?」
「え・・・あぁ、俺神出鬼没なんで」
い・・・意味わかんねぇ。
答えになってねーぞ。
しかし完全にこの
天然にーちゃんのペースに
巻き込まれちゃってますよ、俺。
「あ、あの、何でここに露店開いてんですか?」
子供に説明するような
易しい口調で話す俺。
「なんてんですかねぇ。君の退屈そーな声聞こえたんで。
若者を退屈させないのが、俺の仕事なんですよぉ」
・・・・ますます意味が
わかんないなー。大丈夫かな、
このおにーさん。
もしかすっとアレか。詩人かい?
「あの・・・・?」
もうとにかくあなたの
脳みそ解剖したいです。
そう言おうとした矢先、
にーさんの言葉が
俺の出鼻をくじいた。
「――あぁ俺詩人じゃないっすよ。
アナタの心が読めるんです」
・・・・やっぱ詩人さんかぁ。
心に響くステキなフレーズだ。
「だから違いますってばぁ。んー、そうだな・・・」
にーさんはポカンとしている
俺に指差して、いきなり。
「澤田 悠貴くん、でしょ?」
お?
おおお?
「おおおおお?」
訳ワカラン訳ワカラン
訳ワカラン!
なんでこの怪しい男は
俺の名を知っているのだ!
十分以上会話した人間にしか
名乗らない主義なのに!
「ど・・・どこかでお会いしました?」
「いいえ、初めましてぇ。
ってかまだ分かんないんですか?」
にーさんの口調が俺を
馬鹿にするような感じ
だったので、ちょいムカついた。
「あー。じゃあもう試着しちゃってくださいよぉ。
コレ着けたら、意味がよく分かりますってば」
「はぁ・・・・?」
にーさんは着けてた
ブレスレットを取り外して、
俺の目の前に突き出した。
にーさんの痴呆を
自覚させるためにも、仕方なく
そのブレスレットを装着してやった。
呆れ顔とため息を
思いっきりさらけ出す俺。
ハタから見たらものすごい
イヤミちっくな態度だ。
「ほーら、別に何も・・・・」
その時だ。
「!?」
無数の人間の「声」が
聞こえてきた。
通常の、ザワザワした
感じの声じゃなくて、
マイク使ってるみたいな、
頭ン中に響く声だ。
「今日、めちゃくちゃ暑いな・・・・」
「あー。だるー」
「こんな店毎日やってたって
飽きるだけだよなぁ・・・・」
そんな感じの、「人間らしさ」
を象徴したいくつもの声。
俺はハッとして、
にーさんに視線を移した。
「あれ・・・・・?」
さっきから居たはずの
にーさんが居ない。
跡形も無く、消え去っていた。
誰もいないその場所に
立ち尽くしていた俺。
俺はただほくそえんで、
そのブレスレットを
握り締めた。そしてロスした
十分の時間を埋めるべく、
走り出した。
これからの俺の運命を変える、
とある日の、まだ早い朝の出来事。
さっきまで居たアクセ売りの
おにーさんはまた出るのでしょうか。