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杜坂東の事情 作者:おかつ
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第4話 前編

――あんな事があって、一週間が経った。
俺達は、文化祭の準備やら劇の練習やらで結構忙しかった。台本は、あれから色々考えて2日で作成し、真梨恵を含む学年全員に配り終えた。当然、学年全員の中には、現在自宅謹慎中の銀河も含まれている。だが銀河の家は俺や真梨恵の家からは結構離れた場所にある為、銀河の家の向かいのマンションに住んでいる新見先生に頼んで持って行ってもらった。聞くところによると、そのマンションは高級マンションだそうだ。……新見先生って何者なんだろうか。
そして昨日、銀河から連絡があった。『校長先生からの許可がおりたから、明日から学校に行ける』との事だった。自宅謹慎が1週間程度で助かった。劇も皆で合わせる余裕が結構ある。
「おはよう! 今日から松伏さん復活だよねー!」
「よう真梨恵。久々に会うな。1週間だもんな、あれから」
「うん! あー、楽しみだなー、松伏さんに会うの!」
嬉しそうにそう言う真梨恵に、俺も嬉しくなり、笑いながら「そうだな」と返事した。
銀河が本当は女である事が判明してから、真梨恵の銀河に対する呼び方が松伏『君』から松伏『さん』に変わった。しかも真梨恵は、最初からなんのためらいもなく「松伏さん」と呼ぶようになったのだ。その適応能力は大したものだ。
そんな事を考えながら歩いていると、1週間ほど誰もいなかった『アイツ』の定位置に、『アイツ』がいた。
「あ! 松伏さーん! おっはよー!」
真梨恵がそう叫びながら『アイツ』に駆け寄る。
『アイツ』はその声に振り向き、真梨恵と俺に挨拶する。その様子は相変わら……ず?
「……ちょっと待て、銀河、その、制服……」
俺は銀河の着ている制服を見て動揺した。真梨恵も制服に気が付いたようで、「あー!」と口を開いた。
「松伏さん、女の子の制服になったんだねー! すごーい! 可愛いー!」
「あ、あまりそう言われると、少々照れるのだが……」
銀河は少し恥ずかしそうに俯いた。
まさか、女子制服を着てくるとは思わなかった。いや、本来は女なのだから違和感はないし、そもそも風紀がどうのこうのという点では良いのかもしれないが……。
「……というか佐藤。あまりじろじろ見るんじゃない」
「えっあっ! わ、悪い! なんか、今まで男子制服だったから、想像してなかったっていうか……!」
ついじっと見てしまっていたようで、銀河の言葉に俺は慌ててそう返した。
銀河はハアと一つため息をついて続けた。
「……新見先生が、『青ひげ』の台本を持ってくる時に、一緒に女子の制服も持ってきてくれたんだ。また学校に戻ってきた時に着れるようにと。俺……コホン。私的には男子制服のままでも良かったのだが、新見先生、あんなヤクザみたいな顔でも一応風紀委員の顧問だからな」
「あー……そういやそうだったな。新見先生あれで風紀委員顧問だもんなー」
そんな事を話していると。
「……ヤクザみたいな顔で悪かったなぁお前等」
「うぉっ!?」
すぐ横で声が聞こえてきた。声がする方を向くと、そこには新見先生が立っていた。
「あっ……すみません、聞こえてたんですか」
「バッチリな。っていうかだ。松伏お前最近俺に対して冷たくねえか?」
「気の所為です」
「そう言いながら目を逸らすな松伏!」
新見先生の渾身のツッコミだったが、銀河はいつもの表情で無視していた。
その後、真梨恵が「あれ?」と別方向を見ながら口を開いた。
「ん? どうした真梨恵?」
「あれ……。なんか、見た事ない人がいる。ほら、あの人」
真梨恵がそう言って指をさす。その場にいた全員が真梨恵の指さす方を見る。
――黒く長い髪に、丸メガネをかけた着物の女性が歩いているのが見えた。
この先にはうちの学校しかないはずだ。……けどあんな先生いたか?
女性はそのまま俺達の前を通り過ぎ、坂を登って行った。結構美人だったな。
「なあ、新見先生、あの人は?」
俺がそう聞くと、新見先生は「ああ」と返事をした。
「3年のクラスの新しい担任だよ。確か、京都から来たって言ってたな」
「京都!?」
俺も銀河も真梨恵も驚いて叫ぶ。新見先生は「お前等息ピッタリだな」と言って続けた。
「そうだ。京都のお嬢様学校からこの学校に転任してきた。何でも校長の親戚なんだと」
「へー……それでわざわざ……」
「ああ。お前等仲良くしてやれよ? あの先生、ああ見えて生徒と遊ぶの好きみたいだからな」
「ああ、はい……」
そう返事しながら、俺は先程あの先生が登って行った坂を見た。


教室に行くと、教室でも新しい担任の噂で盛り上がっていた。
「どんな担任かな?」「優しい先生だといいなー」「男? 女?」……等、大体そんな感じだ。
だが、3年の学級委員長である来仙翠が、俺の隣にいる銀河を見て「あっ」と口を開いた。
その瞬間、その場にいる全員の視線が銀河に向けられた。暫く沈黙が流れたが、その後星羅が「おー!」と口を開き、こちらに向かって歩いてきた。
「おっはよー光銀こうぎんコンビ! ねえ聞いたー? 新しい担任来るんだってよー!」
「……光銀コンビ?」
「そう! 光輝の『光』と、銀河の『銀』で、光銀コンビ。どうコレ! 超イケるっしょ!」
星羅のテンションに周りもだんだんほだされたのか、徐々にいつもの如く話し始めた。
俺は少々星羅のテンションに押され気味だったが、銀河は相変わらずハアとため息を吐くだけだ。
「てかてかー、銀河女子の制服に変わったんだねー! 超似合ってんじゃん!」
「どうも……。というか、おれっ……私、もう『銀河』という名前じゃないからそのコンビ名使えないぞ」
「ハ!?」
星羅とともに、俺も驚いた。
「お前名前変更したの!?」
「ああ。母からの提案でな。これから女として生きるなら名前も女らしく、って事で、変えてもらった。だから、これから私の事は『紀和子』と呼んでくれ」
銀河、改め『紀和子』は、丁寧に黒板に漢字とふりがなを書きながら言った。
……今日は朝から色んな事があり過ぎるな。そんな事を考えていると、教室の扉から廊下を覗いていた男子生徒が、こちらを向いて言った。
「おい! お前ら席つけ! 先生きた!」
その声に、皆慌てて自分の席につく。俺も自分の席についた。
紀和子は慌てる様子もなく、黒板に書いた自分の名前を消し、いつもの表情で席についた。その直後、教室の扉が再び開かれ、今朝見かけた着物の女性が入ってきた。
女性は黒板に自分の名前を書くと、こちらを向いて自己紹介を始めた。
「はじめまして。うちは霊界堂彩音いいます。ここの校長先生からの指名で、今日からこの学年の担任を務める事になりました。元々は京都出身やさかい、京ことばが通じん事もあるかもしれへんけど、これから頑張ろうおもいます。よろしゅう、お願いしますえ」
すげー……本物の京ことばだ。『霊界堂』って珍しい苗字だな。なんて思いながら、俺は自己紹介を聞いていた。
ふと、霊界堂先生と目が合った。慌てて目を逸らそうとしたが、何故か目が逸らせない。
霊界堂先生と目が合ったまま見つめていると、フッと霊界堂先生が微笑んだ。
……凄い、美人。だけど、何だ。何処か違和感がある、ような。
だがやはりずっと目を合わせる事が出来なくて、俺は目線を逸らすように下を向いた。


「違和感? 何故だ?」
その日の昼休み。俺は紀和子とともに支援クラスにいた。今朝の霊界堂先生に違和感を感じた話をすると、紀和子がそう聞いてきた。
「いや、わかんねえんだけどさ。なんかちょっとこう……なんていうか、なんか違和感があったんだよな」
「私は全くそんな事感じなかったけどな……。丑満時、お前は?」
紀和子が真梨恵に聞くと、真梨恵は考えるような仕草をし「違和感じゃないんだけど」と答え始めた。
「違和感じゃないんだけどね、なんだか……嫌な予感がしたの」
「嫌な予感?」
「うん。いや、気の所為かもしんないけどね」
「……気の所為だと良いんだがな」
紀和子がそう言いながら天井を見上げた。
だがその後、いつもの如く教室の隅っこに体育座りをしている由乃が反応した。
「……霊界堂」
「ん? 柳崎さん、もしかして何か知ってるの?」
真梨恵が由乃にそう聞くと、由乃は一つ頷いて続けた。
「確か、京都でも有名な陰陽師の家系。除霊失敗確率……確か、0%」
「0!? 失敗した事ないって事か!?」
俺がそう聞くと、由乃は頷いた。
――除霊に失敗したことがない。
そんな陰陽師の家系にいる霊界堂先生が、何故うちの学校に来たのだろう。
そんな事を考えていると、瀧太郎が近づいてきて言った。
「霊界堂家なら、僕も聞いた事があります」
「後藤もか?」
「はい。ただ……、あまり良い噂を聞かない所で」
「それは、どういう事だ?」
紀和子がそう聞くと、瀧太郎は「理由は分かりませんが」と続けた。
「ただ、これは実際に霊界堂家に除霊を頼んだ知り合いから聞いたんですが、霊界堂家に除霊を頼むと、以降確かに何も起こらないらしいんです。……『数日間』は」
「『数日間』は?」
「ええ。ただ数日経って、その知り合いの妹さんが、突然亡くなった、って」
「ハア!? ちょっと待て瀧太郎、それって除霊出来てねえって事じゃねえの!? それでなんで除霊失敗確率0%なんだよ!?」
瀧太郎の話に俺がそう聞くと、瀧太郎は「そこまでは僕にも」と申し訳なさそうに返した。
――除霊は失敗している。なのに除霊失敗確率0%。一体どういうことなのだろうか。
霊界堂家は謎が多すぎる。俺はそう考えながら、「霊界堂ねえ」と呟いた。


その日の放課後、俺・紀和子・真梨恵の3人は『坂杜様』に会いに行った。
『坂杜様』に霊界堂家の事を聞くと、『坂杜様』は「ふむ」と暫く考え、その後口を開いた。
「もしかすると、少々無茶な方法で除霊をしておるのかもしれぬな」
「無茶な方法って?」
真梨恵がそう聞くと、『坂杜様』は「あくまで憶測だが」と答えた。
「例えば、ただただ願いをかなえて欲しくてこの世に残っておる、他人に危害を与えたりしない様な良心的な『霊』がおったとする。だが、そういう『霊』を、願いをかなえさせる前に除霊しようとすれば、当然その『霊』は抵抗する。そうしておる内に次第に力を失いかける『霊』は、その場から一時的に撤退するのだ。それを除霊成功したと勘違いしたが故、成功したと依頼主に告げる。だがな、一時撤退した『霊』は無理矢理除霊されそうになった事に憤りを感じ……そうして」
「あっわかった! 『悪いユーレイさんになっちゃう』!」
『坂杜様』の話の途中で真梨恵がそう言うと、『坂杜様』は「御名答」と返した。
その言葉に、紀和子が「待て」と何処か怯えた表情で口を開いた。
「その、霊界堂家の一人がこの学校に来た。そして今のこの学校には『霊』が至る所にいる……という事は」
「何だと!?」
紀和子の言葉に、『坂杜様』が珍しく声を荒げた。
「今、霊界堂家の一人がこの学校に来たと申したか!? まずい……それは非常にまずいぞ……! 今のこの学校の現状を考えてまずい事になる……。 下手すれば『悪霊』が驚異的な速さで増えるぞ!」
「って、事は、つまり」
「……この学校から、『犠牲者』が出る可能性がある」
その言葉を聞き、顔が青ざめた。真梨恵も紀和子も青ざめた顔をしている。
――この学校から、『犠牲者』が出る。
『悪霊』が増えて行ってしまえば、流石の俺達でも手に負えない可能性がある。霊界堂先生がまだ除霊をしていなければいいのだが。
そんな事を考えていると真梨恵が「あっ!」と指差した。
真梨恵が指差した方を全員が見る。

―― 一人で、音楽室に向かっている霊界堂先生が、見えた。

「『坂杜様』!」
「間違いない、除霊する心算だ。追うぞ!」
俺達は急いで、音楽室に向かう霊界堂先生の後を追った。


【第4話 後編へ続く】
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