戦争は終わり、事件が始まる
シノンの街に戻った東条はジャンヌと合流するために鍛冶屋へと向かう。ドローンを飛ばし終えた彼女が店先でレオンと共に待っているはずだった。
「東条さん!」
ジャンヌが東条へと駆け寄る。彼女の表情はドローンにより大勝を遂げた聖女の顔ではなく、何かに苦しむ悲痛に歪んだ顔だった。
「ジャンヌ、何かあったのか?」
「それが……レオンさんが……」
「レオンがどうしたんだ?」
ジャンヌが答えを返すまでもなく、工房から姿を現したレオンを見てすべてを悟る。彼の腕にはレオンそっくりの娘の死体が抱かれていた。
「レオンの娘か?」
「はい。私の娘です……」
「金は用意したはずだろ。それがなぜ?」
「金ですか……そんなモノ意味がなかったんですよ」
「どういうことだ?」
「娘は妻が殺された日には既に殺されていたんですよ」
レオンが口にした通り、彼の腕に抱かれていた娘の死体は身体の一部が時間の経過により腐敗していた。死体が放つ腐敗臭と周囲を舞う蝿は彼女が死んでいると告げていた。
「犯人は弟か?」
「でしょうね。冷静に考えれば当然でした。弟が娘の面倒を見れるはずがありませんから」
母親を殺され、泣きじゃくる子供をあやしたりするような男ではないことを、レオンは知っていたはずだった。だが肉親だからこそ信じたかった。その期待は裏切られてしまった。
「娘はまるでゴミでも捨てるように、街の裏路地に捨てられていました。例え弟でも許せない!」
レオンの声には怨嗟が籠り、今にでも弟のラオンを殺しそうな表情を浮かべていた。
「おい、あんたがレオンかい?」
レオンが突然男から声をかけられる。男はどこにでもいそうな若い青年だ。レオンの知り合いかとも思ったが、レオン本人は不審な表情を浮かべており、とても知り合いには見えない。
「俺は街で商人をしているクライスってもんだが、ラオンってあんたの弟だろ」
「そうだが……」
「悲しいだろうが聞いてくれ。あんたの弟が殺された」
クライスがそう告げると、レオンは腕から娘の死体を零れ落した。彼の表情は禍々しく歪んでいた。