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ニシンの戦いと予言


 必要な情報を仕入れた東条は中世フランスへと戻っていた。戻った時にはまだ日は明るく、領民たちの活気の声が聞こえてきた。


「戻ってこられたのですね、東条さん」


 ジャンヌはバスクの街を去るための準備、馬に水や枯草をやり、荷馬車の中に荷物を詰め込んだりをしていた。


「早速街を出ようか。ここから一番近い町だと……」

「ヴォークルールにあるペタリナですね。ちょうど長老さんも、バスクの領主が亡くなったことをベルトランさんに報告するために、ペタリナへ向かうそうですよ」

「なら一つ伝言を頼んでおくか」


 東条は荷馬車を引いて長老の姿を探す。彼は広場の中央で大勢の人たちに囲まれていた。


「聖女様と東条様。もう街を出られるのですか?」

「ああ」

「それは残念です。もっとゆっくりしてくださっても」

「悪いな。俺たちも旅の目的があるんだ」

「そうでしたね。それならば仕方ありません」


 長老は残念そうな表情を浮かべながらも、引き留めようとはしなかった。彼はジャンヌがフランスを救うために旅をしていることを知っていたからだ。


「あんたに一つ頼みがある」

「なんでしょうか?」

「ヴォークルールの領主ベルトランに伝言を頼めないだろうか。伝言の内容は聖女の予言だ」


 聖女の予言という言葉に、バスクの街の領民たちがざわめき始める。何を予言するのか心待ちにする視線を、東条たちに向けていた。


「オルレアンの近くでの戦闘についてだ」

「我がフランス・スコットランド同盟軍と、イングランド軍との戦いですね」

「その戦いは、これから数日の間に、決着がつく。さらに言うなら、フランス・スコットランド同盟軍が敗北する」

「本当ですか!」

「しかもただ敗北するだけではない。五百名近い戦死者を出す惨敗だ。この予言をベルトランに伝えてくれ」

「分かりました。必ず伝えます」


 フランス・スコットランド同盟軍と、イングランド軍との戦いは、運んでいた物資の中にニシンが含まれており、敗走するときにばら撒かれたことから、ニシンの戦いとも呼ばれていた。


 ニシンの戦いは歴史の数ある戦闘の中でも小さな戦いの一つでしかないが、ジャンヌ・ダルクが予言により結果を言い当てたことで、彼女の名を一躍フランス全土に響かせ、聖女の立場へと押し上げたことで有名な戦いだった。


 長老の口からベルトランへ、そしてベルトランからフランス王太子へ、この予言が届けば、ジャンヌはフランス王太子と謁見する権利を得ることができる。


「東条様、あなたはやはり……」

「ん? 俺がどうかしたのか?」

「いえ、なんでもありません。これからの旅路、あなたたちの幸福を願っています」

「ありがとう。バスクの街の皆が幸せに生きられることは俺が保証してやる」


 東条たちはバスクの街を後にする。彼らが街を去るまでの間、街の人たちは皆笑顔で手を振り続けていた。その姿は教祖を崇める信者のようでもあった。


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