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バスクの事件と今後のフランス


 領主と、その息子たちが殺された事件は、結局犯人が分からず仕舞いで、神の裁きとして処理されることになった。東条は神など信じていないため、人の手によって行われた密室殺人だと知っているが、如何せん、密室のトリックが分からない以上、反論することもできない。


 しかし良いこともあった。殺人という悲しい結果に終わってしまったが、バスクの街から危険因子の盗賊と領主がいなくなったことで、東条たちは一時の安全を得ることができたのだ。


 東条の護衛なしのジャンヌ一人の状況でも安全であるうちに、東条は現代日本へと戻ることに決めた。彼にはやらねばならないことがあった。


 東条は倉庫を後にし、大学の別館へと向かう。別館の方へと向かう理由は、フランスの歴史学について詳しい教授がいる場所だからである。


「ここかな……」


 東条は大学の別館へとたどり着き、目当ての教授の研究室の前に立つ。壁には研究成果が張り出されているが、この教授は特に中世フランス史に詳しいのだと紹介されていた。


「そんなところで何をしている……」


 東条は背後から突然声を掛けられる。振り向くと教授が立っていた。眼鏡に白衣、それに天然パーマはいつもと変わらない風貌だった。


「君はジャンヌ・ダルクの質問で頓珍漢な回答をした学生だな」

「そうです」

「今日は何をしに来た?」

「ジャンヌ・ダルクに関して質問を」

「……研究室の中に入れ。質問に答えてやろう」


 教授の勧めに従い、東条は研究室の中に入る。東条が適当な席に座ると、教授も傍の席に腰かけた。


「君の名前はなんだったかな?」

「東条です」

「私は桜井だ。桜井でも、教授でも、好きに呼べばいい」


 桜井は機嫌良さげに一冊の本を取り出す。タイトルにはジャンヌ・ダルクの伝説と記されていた。


「で、聞きたいこととは何だ?」

「ジャンヌはどんな人間でしたか?」


 東条はジャンヌと共に救世の旅へと出発した。これにより彼女が反逆者として殺される歴史が変化したのではないかと淡い希望を抱いていた。


「ジャンヌ? まるで知人を呼ぶようだな。まぁ、良い。ジャンヌ・ダルクは邪教信仰で処刑された女性だ。これは授業で説明した通りだ」

「処刑された理由は? フランスの王太子に敵対したからですか?」

「いや、王太子と敵対した記述は残っていない」


 東条は机の下でガッツポーズを作る。旅に出る前と後で、確かに歴史は変化していたのだ。成果があったことを喜びながら、彼は次の質問を投げかける。


「ジャンヌはなぜ処刑されたんですか?」

「分からない。邪教を信仰していたため殺害されたことしか分かっていない。だが有名な事件が一つ残っている」

「それは……」

「バスクの街の神の裁き事件。ジャンヌ・ダルクが神に祈り、悪辣な領主を神の裁きで誅したという事件だ。この事件の後から処刑されるまで、ジャンヌ・ダルクの歴史については何も分かっていない。もし判明すれば、世界レベルの大発見だ」

「ちなみにバスクの街は領主が殺された後どうなったんですか?」

「傍にあるヴォークルールの領主、ベルトランが統治し、街の人たちは幸せに暮らしたそうだ」


 東条はバスクの街に明るい未来が待っていることを喜びつつも、ベルトランという名前を思い出していた。


 ヴォークルールの領主、ベルトランは、ジャンヌの歴史を語る上で欠かせない人物であった。本来の歴史ならベルトランにジャンヌの予言を聞かせることで、それが巡りに巡って王太子の元に届き、謁見するまでに至ったのである。


「今日は時間を取ってもらって、ありがとうございました」

「フランス史に興味のある学生は歓迎だ。いつでも来ていいぞ」


 東条は一礼して、研究室を後にする。桜井は終始機嫌良さげに、彼の走り去る姿を見つめていた。


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