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バカ息子の説得


「お前、名前は?」


 東条が領主の息子を見下ろしながら、そう訊ねた。


「グリフ……」

「グリフか。良い名前だな。ではグリフ、あんたに訊ねる。おおよその予想は付いているが、俺を殺しに来た理由は何だ?」

「知らない。酔っていて覚えていない」

「へぇ~、酔っていたか。その割に顔はシラフのままだな」

「僕は酒に強いから……」

「ふぅ……」


 東条はため息を吐く。普通に問いただすだけではグリフが領主に命じられて殺しにやってきたと自白することはないだろう。


 なら尋問できるかというとそういう訳にもいかない。相手は貴族の嫡子である。もし危害でも加えようモノなら重罪人として殺されても文句は言えなくなる。どうすべきか東条は思案を巡らせ、一つの結論に至った。


「グリフ、あんたが俺を殺していないと言い張り続けるつもりだということは理解した。あんたはこれからもそう言い続ければ良い」

「それは僕に殺す意思がないと納得してもらえたと思っていいのかな?」

「いいや。逆だ。あんたの自白があるかないかは関係ないということだ」

「どういうことだい?」

「俺の目的は領主から命を狙われるのを防ぐことにある。だから俺はこれから領主に命を狙われたと言い広めるつもりだ」

「父上が君を殺そうとしたなんて誰も信じないよ」

「そうかな? ここに鎧を着た領主の息子がいるんだ。しかも外には防犯ブザーで集まった大勢の街の人たち。状況はできあがっているんだ」


 今の光景をバスクの町の人たちが目撃すれば、領主に対する大きな疑念を抱くだろう。そんな疑念を抱いた状態で、もし東条が殺されるようなことがあれば、犯人の疑いは領主へと向く。つまり領主は疑いの目を向けられているだけで、東条を殺せないのだ。


「や、やめてくれ。そんな噂が広まったら僕は家を追放される」


 グリフは顔をしわくちゃにしながら泣き始める。貴族の家を追い出された者は傭兵になるしかない。グリフは気弱な自分が傭兵として生きていくことは不可能だと自覚していた。


「家を追放されるのも自業自得だろ」

「僕は父上の命令に従っただけなんだ! 僕は悪くない」


 グリフは床に両手を叩き付けて、自分の正当性を主張するが、その言葉を東条は待っていたのだ。


「ありがとう。その一言が聞きたかった」


 東条はポケットからスマホを取り出す。あらかじめ録音をオンにしておいたスマホには、ばっちりとグリフの自白が記録されていた。音声を再生すると、グリフの表情は青ざめていく。


「なんだそれは!」

「これは携帯電話という俺の故郷の道具だ。声を記録しておくことができる」

「ば、馬鹿な……」

「これで堂々と領主を追求できる。金をどれだけ搾り取れるか今から楽しみだ」

「ま、待ってくれ。僕が悪かった。僕が悪かったから、家族には迷惑をかけないでくれ。ただでさえ僕は父上から嫌われ、兄上たちからも馬鹿にされているんだ。こんな大失敗、取り返しがつかない」

「なら父親を説得して、俺を殺そうとする計画を止めさせろ」

「わ、分かった。必ず止める」

「もう一度刺客が来ることがあれば、俺はすべてをぶちまける。分かったな?」

「はいっ!」


 東条は殺される心配がなくなり、肩の荷が下りたと、自室へと戻る。ジャンヌは一人廊下で、冷たい視線をグリフに向け続けていた。


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