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襲撃者と防犯ブザー


 商談が終わり、料金と交換で武器を引き渡した後、東条は領民たちに武器の使い方を指導した。


 通常の矢であれば半年以上習得に時間が必要だが、弩の場合は数時間あれば狙った的に当てるくらいはできるようになる。夜の帳が落ちた頃には、巧い者なら数百ピエ先でも命中させることができるようになっていた。


 東条たちは領民たちのまとめ役である長老の一室に泊めて貰えることになった。町で一番安い宿屋に泊まったとしても、税金が原因で相変わらずの高価格である。野宿を避けたい東条たちは好意に甘えることにした。


「ここを使ってください」


 階段を登るだけでギシギシと音が鳴る安普請だが、室内はきちんとしたもので、ベッドの布団は清潔だし、ゴミやほこりも落ちていなかった。


 室内をロウソクの胡乱な光が照らし出している。ジャンヌは部屋に設置されたベッドに寝転がり、東条は床に腰掛けていた。


「東条さん、やはり私が床で寝ますよ」

「気にしないでくれ。俺は床で寝ることに慣れている」

「……もし東条さんさえ良ければ、私と一緒のベッドで寝ませんか?」

「忘れているかもしれないが、俺も一応男だぞ。襲われるとは考えないのか?」

「東条さんは信頼できる人ですから」


 ジャンヌの言葉には心からの信頼が含まれていた。その信頼を裏切ることはできないと、東条は彼女の誘いを断った。


「明日は早い。お互い、早く寝よう」

「そうですね……」


 ジャンヌは少しだけ残念そうな声を漏らすと、蝋燭の炎を消した。暗闇が部屋を包み込む。気づくと二人は眠りにつき、寝息だけが部屋の中で響いていた。


 それから数時間眠り、東条が眼を覚ます。外はまだ暗い。窓の隙間から月明かりが射し込んでいる。ジャンヌはまだスヤスヤと寝息を立てていた。


「床で眠ったからか身体が痛いな」


 東条は月を見るために窓を開けると、近くの広場に武装した男が三人立っていることに気づいた。三人とも鎧と剣を身に着けている。


「盗賊か……」


 とも思ったが、兜で顔を隠しているせいではっきりとは言えないが、三人の体格はドンレミ村を襲った盗賊たちの誰とも違った。それに身に着けている鎧はかなり値の張る高級品で、貴族の嫡子でもなければ持てないものだった。


「領主の息子たちなんだろうな」


 盗賊でなければ、この街で武具を所有しているのは領主だけだ。荒稼ぎした東条の金を奪い取るために、襲いに来たのだ。


「面倒だな……」


 東条はどう対処すべきかを思案する。相手は領主の息子たちだ。もし殺してしまえば、間違いなく騒ぎになる。


「殺さずに追い返すなら、あの方法が一番かな」


 東条は思い付いた方法を実行するため、一旦現代へと戻る。いつもの見慣れた倉庫の前に立つ東条は、隣の武器倉庫の中を探る。


「確かあれがあったはずだ」


 武器倉庫の中には武器以外にも非常時の食料や防犯グッズなども置かれていた。その中から防犯ブザーを取り出し、再び中世フランスへと戻る。


「東条さんは起きるのが早いんですね」


 東条がフランスへ戻ると、ジャンヌが瞼を擦って、起き上がろうとしていた。彼が現代へ戻っていた少しの間に、彼女が目を覚ましたのだ。


「あんまり寝付けなくてな。そのおかげで良いこともあった」

「何があったんですか?」

「領主の息子たちが襲ってくることに気づけた」


 東条がそう口にすると、ジャンヌは神妙な面持ちへと変わるが、東条の余裕を含んだ表情を見て、すぐにいつもの面持ちへと変わる。


「時間的にもそろそろかな」


 東条が扉を注視していると、ゆっくりと扉が開いていく。半分くらいまで開いたところで、東条は防犯ブザーの音を鳴らした。


 耳をつんざくような激しい音が建物全体に響き渡る。いや、それだけではない。この音の出所を探りに、町中から人が集まることだろう。


 開こうとしていた扉は急に閉じられ、人が走り去っていく足音が残った。


「逃げましたね」

「領主としては俺を暗殺しようとしたことを知られたくないだろうからな」


 商品を購入し、その商品の代金を回収するために暗殺しようとしたことが広まれば、ただでさえ税金のせいで旅人が訪れないバスクの町が、今まで以上に人を寄せ付けなくなってしまう。領主としては騒ぎになると困るのだ。


「東条さん、物音が聞こえませんでしたか」

「防犯ブザーの音がうるさくて聞こえなかったな」


 東条は防犯ブザーを止めて、耳を澄ませてみる。金属がぶつかるような音が確かに聞こえていた。


 東条は扉を開いて、音の正体を探る。すると襲撃してきた犯人の一人が、廊下に倒れこんでいた。


「急いで逃げようとして、転んでしまったようだな」


 この時代の鎧はとても重く、一度転んでしまうと自力で起き上がることができなかった。そのため誰かに起こしてもらうか、木のような掴まれるものを見つけない限りは、匍匐前進で前に進むしかなかった。つまり鎧と金属がぶつかる音の正体は、床と鎧がぶつかったことによって生み出されたものだったのだ。


「さて、話を聞いてみるか」


 東条は男の兜を剥ぎ取り、刺客の正体を確認する。そこには予想通り、領主の息子の気弱な三男坊の顔があった。


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