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歪められた信仰


 ジャンヌが村の皆を集め終わった頃には、食料と肥料が山のように積みあがっていた。突然光と共に現れては積まれていく食料と肥料に、村人たちは呆然とした表情を浮かべるしかなかった。


「ジャンヌ、この箱の中身はなんだい?」


 ジャックが不安げに訊ねる。他の者たちも同じことを聞きたいのか、彼女の答えを待つ。


「食料です。こちらを食べてみてください」


 ジャンヌは段ボールから缶詰を取り出すと、村人に配り始めた。村人全員に行き渡ったことを確認すると、缶詰の開け方を説明する。


「これは食料だ! 食料が入っている!」

「しかも食べたことがないほどに旨い!」


 村人たちが嬉々とした声で叫ぶ。畑が燃やされ、明日からどうやって生きていけばいいのか途方に暮れていた彼らにとって、この食料は値千金の天からの恵みであった。


「こっちの肥料とやらは何に使うんです?」

「畑の御薬――畑に撒くと実りが良く効果があるそうです」

「それは素晴らしい。この食料だけではいつか限界がきますしね」


 村人たちの目に希望の光が戻り、自然と笑顔を浮かべるようになっていた。


「しかし、これだけの食料や肥料は、いったいどこから?」


 村人の一人が訊ねた。彼が口にする桃の缶詰は王侯貴族ですら滅多に食べることができない甘味料がふんだんに使われていた。これほどまでに豪華な食事をどこから用意したのか、彼が興味を持つのも自然なことだった。


「東条さんです。東条さんが持ってきてくれたのです」

「東条さんとはあのっ!」

「ええ。天上に住まう神が、我らの前に人の姿を借りて降臨してくださったのです」

「おおっ!」


 ジャンヌは東条が人の姿をした神だと信じていた。光と共に現れ、光と共に消えたかと思えば、村を襲った盗賊をたった一人で追い返す力を持ち、さらには畑を燃やされ、食事に困った我らを助けるために、食料と肥料を届けてくれたのだ。


「すまなかった、ジャンヌ。俺たちは今までお前のことを信じていなかった」


 ジャンヌは村人たちに東条という神が現れたと言い広めていた。だが信じたのは父親のジャックくらいで、他の者は誰一人として彼女の言葉を信じていなかった。というのも、この時代、少女が神と出会ったと語るのは珍しい話ではなかったからだ。自分を特別視したい少女の可愛い嘘だと誰もが思っていた。


「しかしこんな光景を見せられては信じるしかないな」


 光と共に現れる食料を見てしまってはさすがの村人たちも信じるしかなかった。


「皆さんが謝る必要はありません。正直、私も東条さんが目の前に現れるまではフランスの王太子こそが神の定めたフランスの王だと信じていましたから」


 ジャンヌはイングランドとフランスの戦争が終わることこそ平和への道だと信じていた。そのためにはフランスの王太子がイングランドを飲み込み、世界の覇者となるべきだとさえ考えていた。


「しかし私は悟りました。はたして人間の王が世界の覇者となり、平和が訪れるのかと」

「それは……」


 村人の誰もが押し黙る。彼らは心の奥底で気づいていたのだ。支配者が変わったとしても戦火の炎はきっと止まらないと。


「だからこそ私は考えました。人間が王になるから駄目なのです。神が王となれば、世界に平和が訪れるはずなのです」

「おおっ」


 村人たちは感嘆の声をあげる様を見て、ジャンヌは決心した。必ずや、東条を世界の覇者へと成り上がらせてみせると。


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