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戦災と絶望


 ドンレミ村の村人たち全員の力を活用し、近くの川や井戸の水を炎に投げ込んでいく。盗賊に襲われたせいで怪我をしている者も大勢いるにも関わらず、誰もが手を抜かず、全力で消火活動をしたおかげで、炎を完全に消し去ることができた。


「炎は消え去ったが、それでも酷い状況は変わらないな」


 まずは人だ。盗賊たちによって、村の働き手である男たちは大勢殺されたし、家事を担っていた女たちは家族を失った悲しみや、襲われた恐怖で心を閉ざしている者も多い。労働力が激減したことはドンレミ村にとって死活問題だった。


「東条さん、お父様を探したいのですが……」

「そうだな。ぜひそうしよう」


 焼けた家々を回り、ジャンヌの父親、ジャックを探す。だがジャックの姿はどこにも見つからない。


「まさかお父様は……」

「死んではいないさ。死体も見つからないしな」

「そうですね……」


 ジャンヌは悲し気に俯く。東条の言葉は気休めでしかない。もし死体が建物の中にある場合や、炎で燃やされてしまった場合は見つからないのも当然だと彼女は気づいていたのだ。


「ジャンヌ!」


 もう駄目かと諦めそうになっていた頃、聞き慣れたジャックの声が響いた。背後には数名の武装した男たちを連れている。


「お父様、今までどこに?」

「隣村に応援をお願いしていたんだ。どうやら状況を見るに、不要だったようだが」


 ジャンヌは東条が盗賊を追い払ったと説明する。それを聞いたジャックと背後にいた男たちは驚愕の声を漏らした。


「この村を救っていただき、ありがとうございました」

「気にするな。困った時はお互いさまだ。それに大変なのはこれからだしな」

「ですね」


 壊すよりも治す方が何倍も難しい。ドンレミ村を元の状態に戻すには、多くの月日を要するだろう。


「家は燃えてしまったようだが、これから大丈夫なのか?」

「住居の心配はあまりしていないんです。なにせ大勢の人が死にましたから。幸いと云っていいのか、家の空きもたくさんありますから」

「なるほど。元の家はどうするんだ?」

「修繕します。思い出がたくさん詰まった家ですから」

「そうだな……」


 東条にとってもジャンヌの家は思いでの場所だった。できるなら元に戻ってほしい、そう願っていた。


「家の心配がいらないのは分かった。次は食料だ。蓄えはあるのか?」

「……正直ほとんどありませんね。畑も大部分を燃やされてしまいましたから、明日から何を食べていけばいいのか困り果てています」


 肉や魚を食べることもできるが、麦ほどに大きな食料にはならないため、村人全員の食料にはほど足りない。


「神は我らに飢えて死ねと仰っているのでしょうか?」


 ジャックは天を見上げる。それは神に祈るだけでなく、彼の目尻から溢れ出る涙が零れ落ちないようにするためでもあった。


「……何とかしてやる」

「東条さん、さすがにあなたでも……」

「男に二言はない。待っていろ。当分食うのに困らないよう食料を用意する」


 東条はジャックにそう宣言する。彼の瞳には決意の炎が灯っていた。


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