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その2 そのとき僕は
 最近の僕は、少しずつラーメン生活から脱却している。もちろん健康のためだ。
 今日は帰宅早々、実家のおふくろが置いて行った切干大根で味噌汁を作ってみた。
 何分煮ればいいのかわからないから、鍋の中を確かめながら作業をしていたのに、見た目では頃合いがわからない。
 味噌汁はグツグツ沸いているのに、大根が思うようにならない。
 火を止めて、ハシでそれをつまんでみる。

 縄を短く切ったみたいだ…それにまだ堅そうだ( ̄ー ̄;

 さてどうしたものか?大根とはこんなに煮えないものなのか?
 僕は何気に切干大根の入っていた袋に目をやると、何やら説明書きの表示がしてあるのに気付いて愕然とした。

“はじめに、本品を水でもどし…”

ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!! 

 しょっぱなの、たったこれだけの説明書きで、自分の愚かな間違いが露呈した。
 水にもどすなんて作業、そんなの生まれてこのかた経験がない。
「あ〜ぁ、失敗だ…仕方ないや。ラーメン食べるしかないな」
 僕は味噌汁の入った鍋は放置して、自慢のラーメン棚から今日の一品をチョイスする。
 そしてお湯を沸かそうとしていたその時、僕のケータイにいずみからの電話が。。

「もしもし。いずみどうしたの?今日はうちに来る日じゃなかったっけ?」
「うん…そのことで電話したの。行けない理由ができちゃって…」
 明らかにいつものいずみではないことが、ケータイごしからでもすぐわかる。
「卓くん…落ち着いて聞いてね。あのね、あの英之がね…」
「是枝くんがどうかしたのかい?」
「うん……死んじゃったの」

「(・_・)...は?」

「だから英之が死んじゃったの」

Σ( ̄□ ̄;えええっ?!

「どういうこと?別に病気じゃなかったよね?もしかして事故?」
 数秒のためらいの後、いずみはその原因をハッキリと口にした。
「英之は…会社で人に刺されちゃったの。。なんか女の人にらしい」
「なんだって!?刺されたって…誰に?」
「だから女の人」
「じゃなくて、その女の人の名前とかわかるの?」
「まだ詳しいことはちょっとわかんない…ひょっとしたら英之の浮気相手だったかも」
「そんなまさか…」
「でも人殺しはいけないよね」
 意外にも、いずみが淡々としゃべっているのに驚いた僕。
「どんな理由があっても殺人は許されない。で、その犯人は逃げてるの?」
「ううん。すぐに捕まったみたいだよ」
「捕まった?逃げなかったんだ?」
「だから詳しいことは私もよく知らないの」
「あ、ごめん。。ゆりかさんは…ママはどう?取り乱してない?大丈夫かな?」
「そんなんじゃないよ。その逆」
「逆?」
「怖いくらいに落ち着いてるの。でも何を話しかけても上の空で…」
「いずみ、それは落ち着いてるんじゃなくて、ママはショックを通り越してしまったんじゃないかな?」
「…私にはなんとも言えないけど」

 行きたい!今すぐゆりかさんのそばに行って、何かしてあげたい!
 でも今の僕はそんな立場にないんだ。。

「是枝くんのご遺体は…今そこに?」
「ないよ。英之は今、しゅ…手動解剖?とか言ったっけ?」
「手法解剖だろ」
「うん、それそれ。今はまだそっちの方に行ってるから」
「そうなんだ。向こうの身内の人にはもう連絡したの?」
「うん。これからみんな来るみたい」
「そっか…なら僕が今そっちに行くのはやっぱりマズイね。元亭主が元妻のそばに行くなんて、変に誤解されるだけだし」
 電話の向こうで少しの間をおいて、いずみが返事をした。
「うん。そうだね…そうだよね」
「ごめん、いずみ。正式な葬儀の参列には必ず行くから」
「うん。じゃあその時待ってる。必ず来てね」

 いずみと通話の後、ものの1分経つか経たないうちに再び着信があった。
「森田、驚かないで聞けよ。本社で大変なことが起きた!」
 小松部長からだ。
「本社の是枝本部長が刺されて亡くなられたんだ」
「は、はぁ…」
 部長は僕のリアクションに不満だったようだ。
「何で驚かない?これは殺人事件なんだぞ!」
「部長が驚くなって…」
「そんなことに素直にならなくていい!とにかく是枝本部長は、以前俺の部下だったし、お前とも同僚だったから縁が深い」
「そうですね…」
「たぶん葬儀は社葬になるだろう。そのつもりで支度をしておけ」
「は、はい」
「森田、お前ひょっとして知ってたな?」
「え?…あ、はい。実は今ちょっと前に知り合いから。。」
「何だ、そうだったのか…じゃあ是枝本部長を刺した女も誰か聞いたんだな」
「えっ?」
「なら良かった。さすがの俺もお前には言いにくかったんだ。数年前の一件のこともあるしな」
「えっ?一体何のことです?」
「あのときの慰安旅行でのスキャンダルのことだ。お前が思い出したくない気持ちもわかるから、言いたくなかったんだ」

 僕は不思議でたまらなかった。何で今、小松部長がそんな過去の話を持ち出すのか。
「すみません。僕あの…意味がわかりませんが…(^_^;)」
 小松部長は明らかに機嫌が悪くなった。
「何だよ!お前、知り合いとやらに聞いたんじゃないのか?」
「聞きましたけど…」
「なら意味がわかるじゃないか!わざとらしいボケをするな!」
「はぁ・・・」
「しかし理由が全くわからん。なぜ三木綾乃は是枝本部長を刺す必要があったのか…」

「工エエェΣ( ̄□ ̄;ェエエ工!?」
                    (続く)
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