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おなじくくりのやつ

これは木春菊の花詞

作者:棔いち哉
 あ、今日も乗ってきた。

 若者って言っていいくらいの、スーツのにーちゃん。この駅で乗って来て、前世、牛かなんかなの?って勢いでドアの中に突っ込んで来て、で満員電車なのにそこで鞄をごそごそし始めてヘッドフォン取り出して音楽聞きだしちゃう。
 電車が揺れて誰かがその人にあたると聞えよがしに舌打ちをする。そして次の駅に着いた時は降りるお客様が降りやすいようご協力を、しない。

 そこ動くと死ぬの?っていう。企業戦士ってそんなのとも戦うの?

 こいつしみじみ嫌いなんだよなーホント。周りの人もうんざりしてるから、きっと同じ気持ち。
 あたしの斜め後ろのさー、さっきおばあちゃんに席譲った金髪の外人のにーちゃんを見習えっつーの「ごめんねお兄さんお礼、こんなのしかないんだけど」「え、俺黒飴全然好きっすよ」だって。かわいすぎる。しかも日本語うめえ。

 このにーちゃんもたまに乗ってくる女の子とその日の晩御飯の話とかしてて謎だ。幼馴染とかなのかな。

 あ、また舌打ちした。
 しょうがねーっつの電車と乙女心は揺れるもんなの。ね?

 あたしも乗るドア変えればいいんだけどね。こいついつも同じドアだし。でもここが一番降りる駅の階段に近いからしょうがない。利便性を取ります。

 もうあれだ、かわいそうな人なの。このひと。常時舌打ちしちゃう不治の病に侵されてるの。多分。そう思ってやりすごそう。

 そうこうしてるあいだに駅着きました。

 解放感ぱない!空気おーいしーい!と思ってたらドン!とぶつかられた。タラタラ歩いているつもりはなかったので、ん?とそちらを見るとあたしを睨んで舌打ちして急いで去っていくヘッドフォン。

 知ってる知ってる。ここで降りるんだもんね。

 あーもー二日目!あいつ終わらない二日目に苦しんでるかわいそうな人なの!
 あいつの!あだ名!今日から二日目!
 男だけど!
 改札でタッチし損ねてダサい感じに閉じ込められるがいい、二日目!

 ※※※※※

 爽やかな月曜に苛々はいけない。なんか、おもしろい事思い浮かべて幸せになろう。

 出町先生の、後頭部から前方へ毛を持ってくる斬新な手法を取った縦バーコードはげ……うちのおにいが彼女さんと電話する時超ごろにゃんしてるアホみたいな声……あれさー、いつ「聞こえてるよ」ってカミングアウトしようかな妹は複雑です。あとは……

「ちよちゃん」

 ぽんとあたしの肩を叩いたのは、見知った、でも久々に会う美少女。

「小町!久しぶり―会いたかった!」
 いやあ相変わらず可愛いなーおい。
「もうだいじょぶなの?」
「てか金曜から来てたからね。あんたこそ大丈夫なの?」
「うん、金曜はね、おさぼり」
「顔の割に悪よのう」
「えへへ」

 いつもと変わらない電車、いつもと変わらない同級生。あたしは小町の左手に視線を落とす。小指には蝶々結びに結ばれた赤いリボン。
 それは地面に垂らされて、彼女が歩いてきたであろう道のほうから伸びている。ものすごい長さで終わりが見えない。だけど誰もそれを気にしない。

「ねー……小町」
「なに?ちよちゃん」
「あんた、彼氏、出来た?」
「ええーなんでわかったのー?ちよちゃんて、エスパー?」

 どうやらそのようなんだよ。小町。

 ※※※※※

 春休みも終わりという所でなんと人生初のインフルエンザにかかった。
 かーさんに連れられて病院なんて小学生以来ですよ。いやー死ぬかと思った。瀕死なのに鼻になんか凄い棒さされてこれ脳味噌採取されるんじゃって怯えてたらそれが検査だったらしく「インフルエンザですねー」って。

 さむいなーさむいなーって淳二ばりにうなされた挙句うなされる元気もなくなったけど苺食べさせてもらって、おにいがポカリ買って来てくれてとしてもらったおかげで熱下がってきて、アイス持って来てくれたおにいの小指を見たら赤いリボンが結んであった。

「乙女かよ」
 って突っ込んだら
「何言ってんのお前」

 って返されて

「小指にリボンなんて結んじゃって彼女に『俺がプレゼントだよ』の練習かやめなよ寒いよ」って途切れ途切れになりながらそう伝えた。

 だっておにいの彼女さんはおにいにはもったいない超出来た人だからさ。逃したらあかーん!って思ったの、妹的には。したらおにい自分の右手の小指見てて。「そっちじゃなくて左」何すっとぼけてんだかこいつはっておにいの顔を見てたら、顔がどんどん青くなっていって、枕元にあったあたしの薬袋を鷲掴みにして、中身をザラザラ出して「ちがう、タミフルじゃない、これもタミフルじゃない」って唱えた後、薬一覧を持って慌てて部屋を出て行った。

 しばらくしたらおにいがかーさん連れてやって来て「千代子、何が見えるの」「お前、ここにリボンが見えるのか」って真剣な顔で覗き込まれて、あ、これ熱で幻覚ってのを見てるんだって察した。

 こんなにくっきり見えるのかーと思いながらも「見える」って言ったら病院連れてかれるんだろうな、布団から出たくないと思って「あのね、だるいから寝たいの」って目を閉じた。暗闇の外側で「起きてまだ変だったら病院行こう」とか「俺ついてるからかーさんちょっと寝なよ。で薬も調べとく」「ありがとう千秋」とかそういう声が聞こえていたのはなんとなく覚えてる。

 起きたらさっきより随分楽になってて、あたしが寝てるシングルベッドの下で夢とタブレット端末抱いて寝るおにいがいたけど相変わらず小指にリボンがくっついたままだった。
 しかし久々に行った病院での鼻検査がトラウマになったのでしばらく病院は遠慮したい。

 なので心配そうにしているおにいとかーさんと、あと帰って来たとーさんの前で何にも見えていないフリをした。リボンの件はそもそも覚えていないふりをした。

 その後体は全快したんだけど出席停止扱いで暇なのであのリボンはなんなのかちょっと調べてみる事にした。自由研究なんて約六年振りですよ。実に面白い。とか思いながらあの音が頭の中で流れだしちゃったりして。

 まずあれはあたし以外に見る事は出来ない。しかし見えてもそれに触る事は出来なかった。質感とかリボンそのものなのに、触ろうとするとそこに手ごたえはない。
 そしてどうやらそれは恋人同士の間で結ばれているものっぽかった。

 何で判明したかというと恥ずかしながらうちのかーさんととーさんの小指同士の赤いリボンは繋がっていて、で、おにいのリボンはいつも遠距離恋愛中の彼女さんが住んでるほうへ、伸びていたからだ。

 因みに隣の家の本八幡さんご夫妻は結ばれてなかった……挨拶しづらい。
 いやでもご高齢だしそんなもん?

 あと、リボンは赤以外もある。白だ。同じように小指に結んであるけど、こっちは長く垂れ下がってない。結局解らなくて何なんだろうなーと思いながら出席オッケーになったから金曜、学校に行ったらあっさり判明した。

 片思いのしるしだった。

 ダウンしてたから始業式出てないけどクラスは持ち上がりだから特にドキドキもなく普通に新しい教室行って「お、インフルー」「あのさアウトフルエンザとかあるのかな」「インフレ、デフレだからデフルエンザじゃね?」「頭いい」とかそんなノリでクラスメイツと歓談しつつも町屋くんと行徳さんのリボンが赤で結ばれてることに気付き、変な声出そうになるのを我慢している時の事だった。

「お、ちょこ生き返った」

 知ってる声が聞こえて「死んでないわ」と振り返ったあたしの目に飛び込んできたのは白いものでぐるぐる巻きになった何かだった。思わず「うえっ!?」っと変な声出た。

「え、何?俺なんかへん??」

 変てゆーかなんつーか、顔見えない。

 男子の制服を着たそれは、顔の部分には白いリボンがぐるぐる巻きになっていた。ミイラみたいに。「うーん」と、あいまいに返事をしながらあたしは教室を見回し、廊下に出て辺りを見回し、その白いリボンたちがどこから来たものなのかをあらかた確認してからものすごく納得した。

「はいはい後藤いつも通りイケメン」
 そう、後藤はイケメンで性格もよくモテるやつだ。
 しかし去年他校の彼女に振られて「しばらく恋愛はいい……来年受験だし……」という宣言を友達の間で行い、その内容は全校に広まったはずなんだけど
「それでも私悲しみを癒したい!」みたいなイケイケタイプの女子たちがバレンタインに押し寄せて来そうだったので先手を打って
「ていうかもう本当にそういう感じ全然ないから来られると逆に嫌いになりそう」
 と、普通なら顰蹙買いそうな事を言っても日頃の行いがいいのでなおモテるイケメンだ。

 マンガかおまえは。

 そんな訳で後藤に思いを寄せる子は悶々とした日々を過ごしているんだけど、あたしが知っている悶々としている何人かの小指にはその白いリボンがあって、それが後藤に巻き付いていた。

 まさか「彼氏は年上じゃないと嫌」と言ってた戸越さんまで後藤が好きだったというのには驚いた。

 その日は「ねーインフル抜けてないんじゃないの」などと心配されつつ学校内を練り歩いて更に観察したところ、どうやら白いリボンは巻き付くべき片思いの相手が近くにいないと伸びないらしい。見える所、とか声が聞こえる所だ。そして巻き付くのは相手の一番好きな所っぽい。

 あたしも入谷さんの太もも好きだから解るよ!三宮くん!

 あと多分片思いの相手の事、好きになればなるほどその白いリボンは長くなって沢山相手に巻き付くんだと思う。
 見た所、そんな感じ。

「で、彼氏どんな人なん?」
「えとねー、かわいくて、かっこいいんだあ」

 微笑む小町のかわいさは三割増し。ドンマイ佐藤くん聞き耳を立てるな、辛くなるぞ。

 最初は結構面白いなと思ったけど見えるのちょっと厄介だと思えてきた。
 日曜に渋谷行ったらハチ公前待ち合わせカップルばっかりで赤いリボンピーンなってて、映画の赤外線センサーの罠みたいになっててちょっとびっくりしたし。

 普段何も考えず話してたけど人の片思いの相手と普通に話していいんだろうか、とか付き合ってるの内緒っぽいのを知らないふりしなくちゃ、とか気使いますわこれ……。

 病院行けば治るのかな。いや絶対治らない。

 どうしようかなーと思いながらお弁当のミートボール美味しいと思いながらだらだらしてたら、パーカーのフードをぐいっとひっぱられた。
 こんな事するやつは一人しかいない。

「ごめんむぎ。忘れた」

 あたしは椅子に座ったまま背中をそらして、そいつの顔を見上げる。ちょっと無表情気味の男子生徒。

「マジか、朝言えよ。あと(つむぎ)だっつーの」

 隣のクラスの清水紬は少し怒ったようにそう言って、そのへんの椅子を寄せてあたしの隣に座った。

「つか忘れるってどういう事」
「やー、色々あって。ていうかむぎだって先週のやつ」
「だってお前来ないと思ってたから」
「明日買ってきます、明日」

 紬は高校一年の時クラスが一緒だった。たまたま隣の席で、たまたま二人共月曜日にジャンプ持って来て朝読んでて、意気投合してお小遣い厳しいから第一と第三は紬、第二と第四はあたし、第五があったら折半でジャンプ買って回し読もう、みたいな事になって二年でクラスが別れてもその習慣は続き、三年になっても継続するようだ。

「ねーむぎ、クラスかわいい子いた?」
「男クラ、持ち上がりっていうね」
「でっすよねー。ねー小町あとでぎゅってしていい?」
「いーけどどしたの?」
「あてつけやめろ、あと伝染(うつ)るからやめろ」
「むぎくん、ちよちゃんなおったんだよ?」
「アホが伝染るんすよ、こまっさん」

 と、まあこんな感じにジャンプ以外にしょうもないやりとりも出来る奴で。

「なーなー、むぎちょこー」
「まとめて呼ぶな、後藤」
「あ、いい事考えた!俺入るとさ、ガトー・ムギチョコで高級感増すんじゃないこれ?」
「後藤お前ホント顔と頭反比例してるよなー」
「出たよ理系」「帰れ理系」「代わりに模試受けろ理系」「見せつけんな理系」「爆ぜろ理系」
「いじめじゃね?これいじめじゃね?」

 なじみの友達に若干激しめにいじられてちょっと悲しそうな、そんな紬をあたしはまじまじと見つめる。

「何?」

 細くて長いその小指には先の見えない白いリボンが結んであって、

「何でもない」

 そしてあたしの小指には何色のリボンも結ばれては、いないのだ。

 ※※※※※

 紬とはずっと友達だった。

 一年の時はマンガの貸し借りとかして、外でクラスの子達と遊ぶ時とかはなんとなく同じかたまりにいた。つきあってる?って友達に聞かれたことがあるから仲は悪くないと思う。好きなの?って聞かれた事もある。

 嫌いじゃないけどそれが恋かと言われたら違ったような気がする。何よりつきあったりしたりしてこの関係が変な感じに崩れるのが嫌だった。一年生の終わりくらいにはそういうの何組か見てたから。

 進級して二年生になってクラスが分かれて、教室を見回せば目に入るところに紬の姿が見えないのはやっぱりちょっとさびしかったけど男クラにわざわざ紬に会いに行くのもな、って感じで。 

 まあ、月曜日には昼休みにジャンプ読みに来るし、すれ違ったらてきとーに挨拶したり雑談したりするし、めったにないけど帰りが一緒になれば駅まで歩いたりもして、別にそれでよかったのだ。

 三年生になって一年経って卒業すればもっと離れるのはわかってたのに、なんだかそんな気がしないで同じ距離で友達でいられる気がしていた。きっとこれがなければ今だってそう思ってた。

 金曜に登校する途中に紬の後姿を見つけて駆け寄ろうとした時、小指のその白に気付いてしまった。その時はまだ何を意味するか解ってなかったから普通に話せた。昼休みに校内を歩き回って見物して調子に乗ってたのに段々それが楽しくなくなっていった。

 原因はなんとなくわかっていて、今日の昼にものすごくよく、わかった。
 あたしはあたしのリボンが形を成さない位だけど、ほんのすこしだけ紬のことが好きだったんだ。

 冷たい布団の中で寝返りを打つ。眠れないのでなんとなくスマホでインターネット。

 スクロールしても、どの言葉もあたしの中に入ってこない。気が散る。
 自覚したらなんだか坂道を自転車で一気に駆け降りる時のあの勢いで紬のことが気になってくる。アルバムを引っ張り出して写真の中の紬を追った。親睦合宿、遠足、文化祭、クリスマス会、球技大会。

 二年のやつはクラスが違うからあまりない。ウォーリーを探せより真剣に紬を探して、見つけた時は飛びあがりたいくらい嬉しかった。やっぱり一年の時より大人っぽい。
 更にプリントしてないデジカメの、スマホの中の紬は更に大人に見えた。

 今日、どうだったっけ。

 とりあえずいつも通りカレーパン食べてた。

 今日の、少し前の、ずっと前の紬を思い出そうとするとなんだか胸がぐうっと苦しくなる。抑える左手にリボンは、ない。それがまたあたしの胸をひどく締め付けた。

 ※※※※※

 ―――ね、眠い。

 結局一睡も出来なくて、朝になってしまった。徹夜で満員電車きくなー。あー。頭に響きます二日目の舌打ち。もうなんかふらふらだ。苛々もしない。

 今日のあたしは優しいのだ二日目よ。と、二日目を横目でちらっと見たら目を疑うような光景がそこに。スマホを持つやつの左手の小指に白い、リボンが。

 おまえがか?
 あと、サウスポーなんだね。

 ツッコミどころがいっぱいあってまじまじと二日目を観察してしまったら気付かれて睨まれた。でも苛々するほど元気はなかった。

 何かショックだった。まさか二日目に負けるとは。だって二日目だよ?
 でもあれか、こんな状態より更に苦しいのか。そりゃ、そういう態度に出てもしょうがないかも。でも他の人はそれを我慢しながら普通の生活を送っている訳だからさー二日目。

 ああもう二日目の事は考えるのやめよう。

 でも、やめたら頭に浮かぶ事なんて一つな訳で。

 アルバム見ながら紬の事考えててふわふわしてたら何で好きって気付いたのかって原因を思い出してしまったのだ。

 紬は、誰かの事が好き。

 とりあえずうちのクラスじゃない。多分紬のクラスでもない(と、思いたい)。
 誰なんだろう。後輩とか?卒業した先輩かもしれない。競技会で会う他校の子とか、電車で会う人とかもう考えればきりがない。
 あー、暗いのは性に合わないの。考えるの、やめる。逆に良かったじゃん。紬の事すごい好きになる前にそれが無意味なことだってわかって。もう、これ考えるのやめ。

 ※※※※※

「熱ないねー、でも顔色悪い、帰る?」
「や、午後体育なんで見学します」
「オッケ」

 徹夜はよくなかった。もうやめよう。椅子に座ったままぐるぐる回り、保健室の天井を見上げる。

「本当に大丈夫かよ、お前」

 天井とあたしの間に割って入ってきたのは紬だ。良かったとかごまかしたけれどまったくよくなかったらしい。昼休みに紬がジャンプ借りに来てしょうもない事話しているうちに膝の力がぬけて座り込んでしまった。ちょっと騒ぎになって皆が大丈夫?とか声をかけてくれるのに返してたら「とりま保健室」とか言って、有無を言わさずおんぶされてここへ連行されてしまった。

 昼休みだから結構人が廊下にいて、見られて恥ずかしいやら紬が近すぎるやらもう、どうにかなりそうだった。

「だいじょぶだって」
「ふらふらじゃん」
「ちょこちゃん帰り、誰かと帰りなよー?」
「じゃあ、俺送ってくんで大丈夫す」

 ああもう先生、余計なこと言わないでよ。

 教室に戻るときもおんぶされそうになったので全力で拒否した。なんだか気まずくて紬の後ろを少し離れて歩く。

「清水先輩」

 その声に紬が反応した。駆け寄ってきたのは可愛い女の子で、校章が青だから二年生だ。

「今日の練習メニューなんですけど」「あ、俺今日部活行かないわ」「そうなんですか」みたいな話をしている二人を、あたしは少し速足で追い抜かした。その子の小指の白いリボンは、紬の首に三重くらい巻き付いている。

 わかるよ、紬の声って少し低めで喋り方が優しいよね。
 見た事あるかもしれないけれど授業中は眼鏡なんだよ。
 そんで物を考えてる時はすごい器用にペンをくるくる回すんだけど、たまに失敗して盛大にペン飛ばすんだよ。

 今そんな格好つけてるけど、修学旅行で帰りの空港のコンビニまでジャンプ待てなくね?って話になって朝五時に一緒にホテル抜け出したらバレてお説教されてる途中に「先生……ジャンプが、見たいです」って言い出して先生を吹きださせるようなやつなんだよ。先生と一緒に学年主任に怒られてたね。

 あの子の目には紬がどう見えてるんだろ。どうしたらそんなに紬の事好きになれるんだろう。部活のときはもっと違うのかな。

 少し羨ましい。

 足音が近づいてきて、前に回り込まれてしまった。紬だ。びっくりして立ち止まる。

「おい何先行ってんだよ」
「ばれたか」
「ばれるわ」
 今度は隣り合って二人で歩きだした。
「……かわいい子だね。マネージャー?」
「そう、まあ人気はある」

 羨ましい、なんて思えるのは紬のリボンの先があの子じゃなかったからだ。
 安心してる。
 ああ、自分がこんな嫌なやつだなんて思ってなかったよ。

 ※※※※※

 屋上で寝転がって掌を太陽にすかして見た所で緑色の血管が見えるだけで、あたしの小指にリボンが現れる事はない。

 あのあと「帰り迎えに来るから待ってろよ」って言われた時アホみたいにどきどきしたし、体育は隣のクラスと合同だから見学中にサッカーコートを駆け回る紬をずっと見てしまった。教室に戻る途中で紬の声が聞こえるとむずむずしてしまう。

 でもこれは恋ではなくて。

 なんなんだろう。子供が好きなおもちゃを取られたくないって癇癪を起こす、みたいな事なのかな。そうなのかも。だってさっきのあたしすごいドロドロして嫌な奴だった。

 他の子はもっときれいに誰かの事を好きなんだろうな。きっと。
 いいなあ。
 そういう風に、紬を好きになりたかったよ。

「待ってろって言っただろ。何で屋上にいるんだよ」
「あったでしょジャンプ。あともう大丈夫って手紙」
「あったけど。てか持ってるけど」
「しばらく帰りたくないからほっといて」

 なんつう可愛くない返事。いきなり現れた紬は「あ、そう」と言いながらあたしの隣に座った。

「何」
「いやまだ全部読んでないし明日持ってくるのめんどくさいし」

 紬がゆっくりと紙をめくる音や野球部の掛け声、合唱部のコーラスよりあたしの心臓の音が一番大きい。

「何かあったん?」

 そう聞いてくる紬の声はそんなに大きくなかったけれど、よく聞こえた。
 優しい紬。
 友達のために部活休んでここまでしてくれるいいやつ。きっと紬の片思いの相手も、いい子なんだろうな。
 紬の思いが報われて、幸せになってほしい。

「ねえ、紬」
「ん」
「あたし全然駄目なの解ってるんだけどさ」
「……駄目じゃねーよ。いやダメだけど、駄目になっちゃいかんとこは駄目じゃねーよ」
「そう?」
「そう」
「あのね、好きなの」
「は?」
「紬が、好きなの」

 最低だ。紬に好きな人がいるのわかってて、あたしにこんな事言う資格がないのわかってて、言った。でも我慢できない。やなの。誰かのものになって欲しくないの。

 頑張るから、性格悪いところ直すから、もっとちゃんと好きになれるようになるから、やり方わかんないけど。愛するより愛されるほうが幸せらしいよ。あたしにしたほうがお得だよ。

「うわなんで泣いてんの」

 彼女がいるのに告白する子とか、すぐ泣く子とか何なんだろうって思ってたけどこういう事なんだね。困るよね。ごめんね。でも自分じゃどうにもならないの。

「……つむぎ、すき」
 パーカーの袖で涙をごしごし拭ってたら、ハンカチ貸してくれた。いいにおい。
「千代子」
「うん」
「俺もお前の事、好きだ」
「うん?」

 乗り換えはえーよ。

「いい、よそんな急に答えださなくて、落ちづいてからで。わかっ、てるから」
 いやでも優しいからか。こんなしゃくりあげて泣いてたらそりゃ、そう言うしかないのかも。いい奴だし。

「え、何言ってんのお前?」
「紬、他に……好きな人いるって知っでるもん。気ぃ使わなくていいよ」
「は?いねーよ」「いる」「お前なんなの」「つむぎこそなんかそんなバカ」「バカって!」 

 そんな言い争いをしてたら抱きしめられた。全方向から紬のにおいがして、力が抜ける。

「何勘違いしてるか知らんけど」
 紬はものすごくどきどきしてて、熱を出したみたいにあつい。
「俺が好きなのはずっと、千代子なんだけど」
「……ほんとに?」
「嘘言ってどーすんの」
 あたしは左手を見ようとして、やめた。
「ねえ紬」
「なに」

 見えるそれより紬の言葉を、熱を、強く抱きしめてくれる事が本当のことだと思いたかったから。

「あのね、すき」

 これ以上どきどきしたらきっと死んじゃうから、世のリボンつきの人は本当に大変だな。 
 そんな事を考えながらあたしはゆっくりと目を、閉じた。

 ※※※※※

「ねーホントにあたしのこと好きなの?」
「しつけーしそういう事聞いてくる女ウゼーっていってたの自分だろ」
「そういう子とあたしの事情は違うんだけど」

 泣いたせいでふらふらしながら帰って寝て起きたら赤も白もリボンは全く見えなくなっていた。やっぱり薬の副作用だったのかな。うーん。そして紬のリボン。うーん。

「………やっぱまだなんか変お前」
「うるさい」

 白リボンの観察結果が間違ってたのかもしれないし。ああそう。そうだといいなあ……。

 そんな感じで付き合う事になったんだけど受験生だし部活あるので、平日朝にいつもより早い電車で学校の最寄り駅まで来て、ちょっと一緒にいる事にした。
 駅前の、これ確かペデストリアンデッキって言うんだよね。絶対センターでないけど覚えてる。の、端っこによって車とか人とか眺めながら二人でいつもみたいに話してるだけなのに、なんか楽しい。

「つ、つむりん!あんた、あたしという女がありながら!」

 突然聞えたその声に振り返ったら、スーツのきりっとしたお姉さんがいた。紬もやべって顔してる。え、何これ。

「ねーちゃんマジバカじゃねーの外だよ?ここ。そんで何してんのこんなとこで」
 あ、お姉さん。確かに似てる似てる。仲いいなー。配置換えでここの近くのオフィスに。へー。「ねー彼女?」「そうだけど」だって。うわー照れるわ。あ、挨拶しなきゃ。えーと何て言えばいいんだろ。

「あれ織絵ちゃん」

「あ!どもお久し振りです先輩。今日からお世話になります」
 何か新しい人来た。タイミング失った。

「弟さん?似てるね」
「ねー受験生なのに生意気にも彼女ちゃんがいるんですよー」

 ―――――あ。

「「……………」」

 あたしも驚いてますよ。二日目よ。

「先輩どーしたんですかー」
「いや、別に」

 って。あ、リボン云々なしにしてももうモロバレじゃない二日目よ。顔デレデレだったね。

 解りやすいタイプなんだね。

 そんなに慌てなくていいって。もうあの電車乗らないから。でも態度は改めたほうがいいよ二日目。そんなチクったりしないから安心しなよ二日目。あれここであたしニコニコしてるの逆効果なのかな。でもこういう時どんな顔していいかわからないしなー。

 ま、あの、色々あったけど、何か幸先いい新学期になりそうです。はい。

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