正義のヒーロー
時計の針は零時を回り、昼間には大勢の人で賑わっていたオフィス街にも、夜の静けさが漂っていた。思いのほか肌寒い秋の夜風がビルの屋上で吹き荒れ、絶賛残業中の俊哉の体から熱を奪っていく。
身を縮こまらせた俊哉の耳に、突如甲高い悲鳴が飛び込んできた。
俊哉は驚いて顔を上げた。女性の叫び声だ。その声のただならぬ気配に、俊哉は咄嗟に屋上から声の聞こえた方に身を乗り出した。夕方のニュースで報道されていた、近隣の集団暴行事件。「まさか…」とは思いつつも、彼はそれを思い出していた。
「あっ!?」
眼下に広がる、薄明かりの蛍光灯に映し出された光景に、俊哉は目を丸くした。暗がりにいたのは、倒れ込んだ女性とそれを囲む4~5人の男たち。そして、その周りには、あの泣く子も黙る正義のヒーロー…。
「助けて!!イッセンマン!!」
「なんだテメエらはァ!?」
男たちが吠えた。ヒーローが彼らに向かって、雄々しく声を張り上げた。
「イッセン=レッド!」
「イッセン=ブルー!」
「イッセン=イエロー!」
「イッセン=ホワイト!」
「あれは…まさか、噂のイッセンマン!?」
俊哉はあんぐりと口を開けた。数メートル下の路地裏で、今日本を騒がせている正義の戦隊ヒーロー達が、次々と決めポーズを取っていた。
「…イッセン=アカプルコ!」
「イッセン=アラベスク・ターク!」
「イッセン=インディゴ!」
「ちょ…ちょっと…」
「イッセン=バーミ・エアー!」
「イッセン=ポンパドール!」
「待て!…待ってくれ!ちょ…」
「イッセン=マルコ・ポーロ!」
「イッセン=ナポリ!」
「イッセン=ウェッジウッド!」
「イッセン=ウェッジウッド・ブルー!」
「全部青じゃねーか!」
「兄貴…!囲まれてますぜ!」
「ま、まさか…お前ら全員やるつもりか!?イ、イッセンマン!?」
「安心しろ。今日は基本の187万5000色員達だけだ。それに、正確に言うと我々はイッセンロッピャクナナジュウナナマンだ。本気を出せばもっと増える」
「う…うわあああああああああ!!」
人気のない路地裏に、今度は暴漢達の悲鳴が響き渡った。巨大な正義の色の波に飲み込まれていく、集団暴行事件の犯人達。今日も人知れず、この社会から悪が成敗されていく様子を、俊哉は正直見分けることが出来ずにいた…。