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河童
作:カトラス


 私は美容整形外科医である。
 都会とはいえないが、そこそこ大きな街で開業していて、
自分で言うのもなんだが、医者としての技術は優れていると思っている。
 その証拠に美しくなりたいと思っておられる客、いや患者がひっきりなしに来院してくる。
 ”目を二重にしたいの〜、鼻を高くして欲しいわ〜、皺をとって!、ほくろを除去して!
と云う顔面整形依頼や、胸を大きくしたいの〜、お腹の脂肪をとって”
と体の整形等、患者の依頼は様々だ。
 そうして私は、患者の美に対する欲求を解消してやるべく毎日、美容手術にあけくれる。
 患者は、ほとんどが女性だが、最近では男性患者もしばしば来院してくる。
 そんな、忙しい日々を送っていたある日。
 奇妙な男性患者が医院に訪れた。
 男性患者といっても、大人の患者ではなく、少年だった。
 私は、子供に美容整形する気はさらさら無かったが、開業して依頼初めての子供患者なので、
”どういった相談なのか?”と興味が湧いたので話だけでも聞こうと思い、少年を美容相談室に入れた。

 少年は相談室に入ると軽くお辞儀をした。
 少年は、年のころは十四、五歳に見えて、いがぐり頭でスポーツ刈りをしていた。
 背はそれほど高くなく、ひどくやせていた。
 顔の特徴は目がくぼんでいて、ほほがこけている。
 口はとがっていて、例えていったら”河童”に似ていた。
 私は”河童”じゃなく少年に聞いてみた。
「今日はどういった事でここにきたのかな〜?」
「……」
 少年は黙って下をむいている。
「うん? どうしたのかな〜」
 もう一度私が喋りかけると、少年はいきなり泣き出した。
「実は先生、僕は学校で顔の事でいじめられているんです。クラスのみんなが僕の顔を見て、
”河童、河童”と言っていじめるのです」
 私は少年の深刻な話にもかかわらず、最近のガキ達はうまく言いやがると思って少し可笑しくなった。
少年は嗚咽しながら、更に続けた。
「ここにきたのも、もういじめられるのが御免で、先生に整形してほしいと思いきたのです」
「そうですか、そういったことなら、引き受けない訳にはいかないですね。
それで、具体的にどうして欲しいのかな? アイドルみたいな顔にしようか」
 私は少年に少しでも泣き止んでもらおうと思い冗談っぽく言ってみた。
 少年は私の気持ちを汲み取ってか少し笑ったように見えた。
 そして、具体的にどう整形したいか言ってきた。
「僕は……僕はアイドルみたいな顔にして欲しいわけじゃないんですよ!
僕は本当の”河童”になりたいのです。
そして”河童”になって、僕をいじめた奴に復讐したいのです」
 私は少年の言った事に対して耳を疑った。
 今までに自分から醜い姿になりたいと言ってきた患者など、勿論一人もいないからだ。
「”河童”になりたいって! 僕そんな事できるわけがないじゃないか、仮にできたとしても、
私は医療免許剥奪されてしまうよ」
「先生、今仮に出来るといいましたね。先生お願いします。僕を”河童”にしてください。
この事は絶対に誰にも言いませんので! 先生、どうか……どうかぁ〜お願いしまーす」
 少年はまた、激しく泣き出すと私に”河童”にしてくれと哀願してきた。
「僕〜、そんな事言われても、先生困ってしまうよ〜 いくら頼まれてもダメなものはダメなんだ」
「そうですか! 僕がこんなにお願いしてもダメなのですね。
それなら僕にも考えがありますよ せ・ん・せ・い!」
 さっきまで泣いていた少年は、こんどはいやらしい笑みをうかべてわたしにそう言った。
「考えてなんなんだ!」
「実はね〜 先生、僕にはお姉ちゃんがいてね。この前ここで胸の美容整形をしたんですよね」
「それが、どうしたんだ!」
 私は少年が何を言いたいのか推し量っていた。
「つい最近、僕はネットである物を偶然みつけたんですよ! 
ある物とは先生が麻酔で眠らせた僕のお姉ちゃんを犯してるビデオなんですが……」
 しまったと私は思った。
 少年の言ってる事が事実だからだ。
 私には盗撮の性癖があって、時々、麻酔で眠らせた患者を悪戯してはビデオカメラで撮影していたからだ。
 少年は私の額から流れる冷や汗を見逃さなかった。
 少年はニヤニヤしながら言った。
「先生、僕を”河童にしてくれますよね! 
まぁ〜 出来ないと言ったら、先生の秘密をみんなに漏らすだけですけど……」
「わかった。君の勝ちだ。ひきうけるよ」
 私は気づくと少年にそう言っていた。
「でも、今日は無理だ。あいにく整形の予約がいっぱいでね!
出来れば週末の金曜日の夜に手術するというのではダメかい?
恐らく二、三時間で終わるような手術じゃないからね」
「やっていただけるなら、それで結構です」
 少年は金曜日の夜にまた来ますといって帰っていった。
私の良心は、例え少年に脅されたとしても、あんな約束するんじゃなかったと思ったが、
もう一つの悪い心は何故かワクワクしていた。
 なぜなら、いつも美しいものばかり整形するのには少々飽きていた自分がいたからだった。
 それに、やらないと少年に秘密をもらされて、いままで築きあげてきた全てを失いかねないからだ。
 そうして、私はやるからには完璧を求める主義なので”河童”についての知識と、
手術に使う機材と材料を週末にむけて準備した。

 週末の手術の日がおとずれた。少年は夜の十時すぎに医院にやってきた。
 私の顔を見ると、少年はお願いしますと頭をさげた。
 少年はここに来る前に自宅に遺書をかいてきたそうだ。
「先生、もし手術が失敗しても安心ですね」と少年は言った。
 私は少年を安心させるべく、
「私はこう見えても、名医だ! 失敗などしないから安心しなさい。
でも、やるからにはとことんリアルに”河童”を再現するからね!覚悟はいいね」
 少年は小声で「はい」とだけ言うと、手術台に裸になって寝転んだ。私は少年に全身麻酔をかけると整形手術にとりかかった。まずは一番難しい部分から作業に取り掛かかる。それは、”河童”の一番の特徴の頭部の皿からだった。少年の頭の毛を全部剃った私は、頭皮にメスを入れた。やかんの蓋のように頭皮を円形に切り取ったら、白い少年の頭蓋骨が現れた。慎重に頭蓋骨を脳手術用電動ノコで切れ目をいれる。少しでも脳を傷つけたら手術はそこで終わってしまう。三時間ぐらいかけてようやく頭蓋骨の切除が成功した。
 頭皮と同じように円形に切り取った頭蓋骨を取り外すと、小量の脳髄液がこぼれでた。私は少しあせったが、これぐらいの量では命に別状はないだろう。幸いにも少年のバイタルも安定している。
 少年の頭骨の上にはピンク色した脳髄の半球が露出していた。そこに事前に用意したチタン製の皿を取り付ける。この皿は切り取った頭蓋骨の代わりになるものであった為、頑丈なチタンにしたのだった。
 そうして切除した時よりも簡単に皿が出来上がった。
 次は顔の手術にとりかかる。元々、少年がいくら”河童”に、似ているといっても、
それは所詮、人間の域をでないもである。
 私は、少年の顔のほとんどをいじらないといけなかった。
 目元から整形を行った。目元にメスを入れて目つきが細長くなるようにした。次はほほ骨を削る。
顔の表情がもっとこけてみえるようにしないといけないからだ。口元にシリコンをいれて口をとんがらせ、
皮膚には緑色したワニ皮を移植した。
 その他もろもろを整形したら、およそ人間とは思えないおぞましい”河童”の顔が完成した。
 次は体部分の整形に移った。少年の手足にひれをつけないといけない。
 ハンマーで少年の手足の骨をくだいて、平べったくした。
 ベロンベロンになった手足に砕いた骨を細工して鋭利な爪を作製した。
 それから、体全体に顔と同じワニ皮を移植した。体全体が緑色になってまさに”河童”そのものだ。
 最後に海亀の甲羅を背骨にフック代わりに取り付けて完全なる”河童”が完成した。
 私は夢中になって手術をしたため時間を忘れていたが、
手術時間はゆうに二十時間を越えるものになっていた。
 後は少年がいや”河童”が、麻酔から目覚めるの待つばかりだった。

 手術時間と同じくらい待っただろうか、ようやく月曜日の早朝近くになって”河童”が目覚めた。
私のことを確認すると”河童”はぎこちない言葉を発した。
「だうも、あるがとうございます」
 脳をいじった為に言語がうまく話せないのだろうと私は思った。
「ぜんせい、頭がずくずき痛いどす」
 私は”河童”に全身鏡を見てみるように促した。
 鏡を見る”河童”見た瞬間聞いたこともないような奇声をあげた。
「グェ〜グエ〜」
 奇声を上げると"河童”は手術室の窓をかち割って、外の世界に飛び出した。
 恐らくあの”河童”は長くは生きれないだろう。しかし、一体どこに行くというのだ。
 私は手術の疲れが出た為、今日は診療を休むことにして寝た。
 気が付くと、次の日の朝になっていた。さすがに今日は診療を休むわけにはいかないので、
診療の準備をしながら、朝食をとった。
 私は、何気にテレビをつけた。すると、この街の事がニュースで騒がれていた。
 ニュースではアナウンサーが興奮して原稿を読んでいた。
「昨日の正午すぎにかけて、少年が五人殺害されてます。犯行は残忍そのもので――
被害者はいずれも鋭利な刃物のようなもので、バラバラにされてます」
 私には、犯人がわかっている。”河童”が復讐を成し遂げたのだ。
「目撃証言によりますと、人間に似た生物が少年を殺害した後、近所の池に――
目下、自衛隊員によって池の水抜きが行われている模様です」
 ニュース映像にはこの街の小さい池が映し出されていた。
 私はすぐに”河童”は捕まるだろうと思ったが、私の予想とは裏腹に”河童”は発見されなかった。

 それから二週間後、いまだに”河童”は捕まっていない。
 テレビでもあれ以来連日、事件を取り上げているが新しい情報は無かった。
 私は”河童”の消息が気になっていたが、どうすることも出来ないでいた。
 そんな時、私が医院に一人で、仕事が終わってくつろいでいると、
 ガシャーンと窓ガラスが割れて”河童”が現れた。
 ”河童”はひどく弱っていた。頭の皿は斜めに曲がってしまっていて、
頭蓋骨が外からでも確認できた。甲羅もそこらじゅう割れている。
 そしてたどたどしく言った。
「ぜえせい、頭がいといですよ〜 元の体ぬもどすてくらさいです」
「ごめんよ! もう私の力では元にもどせないんだよ〜」
 私は正直に”河童”に言った。
 ”河童”は私の言葉を聞いて一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに憎悪むき出しの表情になって言った。
「よすも〜こんな体ぬしやがって! こうなったとら、お前ぬせきぬんを取ってもらうぞ!」
 そうして”河童”は私に飛び掛って来た。
 私のこめかみに"河童”のするどい爪が食い込む。
 遠のく意識の中で私は思った。

 お前が”河童”になりたいといったんじゃないか!







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