第11話 「転科」
そして月曜日がやってきた。
目が覚め、顔を洗い、日課のロードワークに出る。
三十分で家に戻り、地下で魔法訓練。
その後、軽くシャワーを浴び、朝食に有り付く。
朝食と言っても、ロボ子(犬型)に調理技能は無いので、自分で作る。
ベーコンエッグに食パン、ソーセージにミルク。
頻度の高い、同じ食事パターンに飽きを感じつつ、
ロボ子にニュースを読ませる。
(結婚でもすれば作ってもらえるんだろうな・・・・・・。
だが、俺のようないつ死ぬかわからない仕事(?)の奴に、
女もなかなか寄ってこないだろう・・・・・・。
まぁ、軍人だってみんなそうか。はぁ、ハンバーグ食べたい。)
などと軽い気持ちで吐いた心のつぶやきも、
後から自分が十六歳だという事に気が付き、心の中で訂正。
決まった時間にカバンを持って登校する。
学校が始まって、まだ二週目だが、
(・・・・・・すっかり、俺も学生なんだな・・・・・・。)
と、今度は感慨深く、心の中でつぶやいた。
まだ見慣れていない通学路を歩いていくと、
校門付近にちんまりとたたずむ少女の姿があった。
「あ・・・・・・おはよう。」
「おう、おはよう。」
軽く挨拶を交わし、ミラは校内へ入っていく。
すると、ユクールも後ろからついてきた。
(なんだ、俺を待っていたのか。)
それに気付くと、心なしか嬉しい気持ちになった。
(女の子と二人で登校・・・・・・なんか、
本当に甘酸っぱい青春だな。)
そんな事をふと考えたが、
「放課後の訓練場の事なんだけど・・・・・・。」
その台詞を聞いて、自惚れた考えを改めた。
異変に気付いたのは、彼が教室に入った時だった。
しばしの別れを告げ、席に着いた彼は、
未だユクールが傍に居る事に気が付いた。
(朝礼まで、話があるのか?)
そんな事を考えていると、チャイムの音が鳴り響いた。
なおも、ユクールはその場に留まっている。
不審に思ったのは他の生徒も同じで、ちらちらとこちらを伺っている。
「ユクール、教室へ行かなくていいのか?」
「うん、平気。」
平気の意味が理解できないが、まぁ先生が来れば何とかなるだろう。
そして、噂をすれば。
「えー、みんなに一つ、お知らせがある。」
先生がそう言って、壇上へユクールを呼び寄せた。
「戦士Aクラスだったユクールさんだが、
今日からこの魔法Cクラスへの転科が決まった。
みんな、仲良くしてあげてくれ。」
「・・・・・・よろしく。」
変わらずの無表情で、ユクールは素っ気無い挨拶をした。
何が何だか・・・・・・ミラはそんな思いだった。
中には何やらライバル意識のような、熱い視線も混じりつつ、
クラスは概ね、歓迎ムードのようだ。
一時限の間、ミラは授業内容が全く頭に入ってこなかった。
そして休憩時間。
その原因が向こうからこちらの席へとやってきた。
クノ、リオンも集まってきて、隣の席のゼファーも身体を向ける。
「どうして転科したんだ?」
みんなの気持ちを代弁したミラに対し、
「パーティを組むなら、同じクラスの方が都合がいい。」
と極めて淡々とした口調で、ユクールは答えた。
「・・・・・・こっちの方が、面白そうだし。」
そんな台詞も付け加えて。
聞くところによると、
土日の間に転科試験は済ませたようだ。
戦士クラスの選択科目である〝忍術〟は、
彼女の実家にある道場の鍛錬より、どうも質が落ちてしまう。
(実家が〝本物〟であるため、当然といえば当然である。)
既に物理戦闘において主席の彼女は、
魔法にも多少精通しておきたいという気持ちもあるらしく、
それに加え、魔法クラスの選択科目である、
〝諜報術〟にも興味が湧いたとのこと。
「Cクラスになったのは、手を抜いた訳じゃないんだよね?」
リオンの問いにユクールは、
「私は手を抜いたりはしない。」
と、これまた淡々と答えた。
ユクールが魔法Cクラスに転科となった旨は、
廊下の掲示板で他の生徒にも知らされた。
それを見た戦士Aクラスの男子生徒たちは、
嫉妬の炎に燃えていた。
学校サイドとしても、友達のグループが固まってしまう前に、
転科させた方が良いという考えがあったようだ。
昼休みになり、牛丼カフェに集まったメンバーは五人。
もちろん、いつもの四人と、ユクールだ。
ユクールとリオンは何となく不仲な感じがしていたが、
それはどうやらミラの杞憂に終わった模様。
リオンが楽しそうにユクールと談笑していたのだ。
ユクールが授業中に消しゴムを貸してくれた、との事だが、
その話を聞いてミラは、
(簡単な女だな・・・・・・。)
と、失礼な結論に至っていた。
昼食では特に訓練場については触れず、
時間はいよいよ放課後。
待ち合わせのトムニカ像の前に、
仁王立ちの生徒会長の姿があった。
「ふむふむ、全員揃ってるね・・・・・・。
それでは、行くとするか!」
芝居掛かった台詞に苦笑しつつ、四人は訓練場へと足を運んだ。
いよいよレベル1の戦いが、始まる。