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十剣の魔導師  作者: 名瀬
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第10話 「非力」

防衛軍の会議室に、こんな小話が舞い込んできた。


「トムニカ戦士育成学校で、ウチの兵士がやられたんだってね。」

会議も終盤、そろそろお開きかという所で、一人の魔導師が口を開いた。

「・・・・・・自分も聞き及んでおります。確か一年生だとか・・・・・・。」

彼の言葉に、中佐である剣士も同調する。

「・・・・・・防衛軍の正規兵とあろう者が、情けない・・・・・・。」

かぶりを振ったのは、元帥であるファルフォン。

前線に出て指揮を執る戦闘狂だが、普段はいたって冷静だ。

「怪物、なのかもしれませんよ。」

終始笑顔の魔術師、ノゼア大将。

防衛軍内で最強の魔法使いという呼び声が高い。

「自分も、一度見てみたいですね。

一体どんな高校生なのか・・・・・・。」

「出世の早いコルト君でも、すぐに抜かれちゃうかもね。」

「・・・・・・ノゼア大将、自分にもプライドがあります。」

コルト中佐、異例の早さで出世した、若手注目株の剣士。

「何にせよ、強い者が出るというのは喜ばしいことだ。」

そう思い直したファルフォンの顔にも笑みが浮かぶ。


・・・・・・兵士学校を出た多くの卒業生は防衛軍に所属する。

争いが多発するこの魔法世界で、兵士はいくら居ても足りないほど。

「三年後が楽しみだ」と口角を上げ、会議はそこで終了となった。

(ちなみに勇者パーティは〝冒険者〟〝傭兵〟というくくりだ。)


土曜日。

ミラはカガミから、住所地図と共に渡された紙束に目をやっていた。

題字にはこう記されている。


〝小学生のための初級魔法〟

〝中学生のための中級魔法〟

〝日常生活で役立つ魔法集〟


・・・・・・つまりハウツー資料だ。

どうやらこれらは、入門書などから抜粋コピーしたものらしい。


「・・・・・・。」

正直、ありがたかったが、それと同時に、悔しさもあった。

(一から学ぶというのは、なかなか精神的にも辛いな・・・・・・。)

乱れる気持ちを抑え、ロボ子が見守るトレーニングルームで、

弱々しい魔法が四六時中、光を放ち続けた。


同じく土曜日。

自室でくつろいでいたイズは、姉が帰宅した事に気がついた。

(姉妹二人で暮らしている。)

扉を開けると、玄関で突っ伏す姉の姿があった。


「お姉ちゃん、大丈夫?」

「イズー、私を部屋まで連れてってぇ・・・・・・。」

甘えるその姿は、どこからどう見ても妹にしか見えない。


姉をベッドまで運んだところで、

イズは伝言を頼まれていたのを思い出した。


「お姉ちゃん、カガミさんが何かお話があるんだって。

時間が出来たら研究所に来てほしいって。」

「・・・・・・カガミィ・・・・・・?」

気だるそうにうつ伏せから仰向けになるユズ。


「用件は?」

「・・・・・・さぁ?」

「さぁ、って・・・・・・。」

「言葉だけでは伝えられないって言ってたけど。」

「・・・・・・そう・・・・・・。」

興味を失ったのか、顔を壁側に向けた。

「わかった、時間が出来たら、行く・・・・・・。」

「ん、そうして。」

本当にわかってもらえたのか、イズは不安に思ったが、

姉の疲れた顔を見てると、それ以上は何も言えなかった。


勇者パーティが姉以外全員死んでしまった事を、

イズはカガミから伝言と共に伝えられていた。

そして、その日から姉は家に戻らない日が続いた。

まるで自分を責めるかのように。

自分を苦しめるかのように、ユズは戦闘を繰り返していた。


「・・・・・・ロードさん・・・・・・。」

挿絵(By みてみん)

こんな時、あの人なら、姉をきつく叱ってくれただろう。

そして、姉も反省する事が出来たはずだ。

「・・・・・・私には、そんな事、できないよ・・・・・・。」

自分の不甲斐なさを胸に仕舞い、イズは自室へと戻った。


日曜日。

優しい顔の大男が、森の中で特訓をしていた。

その男、ゼファーは、牛丼カフェでのやり取りを思い出していた。


(・・・・・・あの時、自分に本物の力があったなら、

あんなに悔しい思いはしなかっただろう・・・・・・。)


一年主席に目も向けられなかったあの時。

彼の目の奥に、小さな闘志が燃え始めた。


彼はCクラスが自分には妥当だと思っていたし、

これから三年間も、平凡に過ごすのだと考えていた。

(・・・・・・考えが甘い。

自分は、軍人になろうとしているのだぞ・・・・・・。)

悔しい、そう感じる自分もまた悔しい。

未熟な自らを鞭打ち、彼は一人、森の中で魔法を纏う。


特に防御力・魔法防御力が優れている彼は、

魔法を放つよりも、魔法による肉体強化に適正があった。


その身で大きな石へ体当たりするが、ヒビすら入らず。

(・・・・・・負けない。自分は、もっと上へ・・・・・・。)

決意を新たに、彼は高みへ目指すことを誓った。


そして。

それはリオンにとっても同じだった。


兄レオンを尊敬し、いつか兄と共に戦いたいと思っていた。

でも・・・・・・今は違う。

兄を超えたい、天国の兄を驚かせるようなガンナーになりたい。

それは、兄が死んだと聞かされた翌日に、自身で決意したものだ。


(強く・・・・・・ならなきゃ・・・・・・。)

もう何時間も訓練を続け、足元も覚束無い。

フラフラと銃を構え、すっかり弱くなった魔法弾を的に撃ち込む。


牛丼カフェの一件があったからじゃない。

彼女は、自分の非力さを自覚していた。

(こんな事じゃ、ミラにだって到底追いつけない・・・・・・。)


入学早々、あの一件は、彼女を大きく動揺させた。

兄に届かないのは年齢のせいだと、彼女は少なからず考えていたからだ。

でも違った。

強い人間は・・・・・・強くあろうとする人間は、

私よりもずっと、努力をしている・・・・・・。


今まで使っていた〝妹〟という言い訳を切り捨て、

リオンは自らを奮い立たせる。

(弱いなんて、言わせない・・・・・・私は、強くなる。

強くなって強くなって・・・・・・絶対、お兄ちゃんを超えるんだ・・・・・・。)


すっかり暗くなった空の下、

リオンは身体が動かなくなるまで特訓を続けた。

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