第9話 「確信」
クノとユクールは地面にへたり込んでいた。
あれから再び二度、召喚獣が召喚された。
大地の巨人〝タイタン〟に加え、
炎の魔人〝イフリート〟、氷の女王〝シヴァ〟。
合計一分半の戦闘であったが、それでも疲労の色は隠せない。
そして、その実戦により、実力の差がハッキリと表面化していた。
「ミラ君・・・・・・貴方、一体何者なの・・・・・・?」
戦闘が終わって開口一番、会長はそんな事を聞いてきた。
おそらくそれは、ここに居る全員が思ったことだろう。
会長によると、召喚にも強弱の設定が可能で、
今までの召喚獣はレベル4相当に弱体化させて召喚したもの。
それでも、一般の魔物と比べれば最上位に値する強さで、
ましてや、高校一年生が手に負える相手ではない。
魔物も種族によって危険度のランク分けがされている。
強いA~E弱い。
(魔物を統べる魔神はSランクに設定されている。)
今回はAランク相当だったと言えよう。
立っているのは二人。
だが、会長はひざに手をつき、息を切らしている。
(連続召喚によるところもあるのだろう。)
三人の注目が集まり、ミラは肩をすくめた。
「・・・・・・俺は、逃げ回っていただけですから。」
事実、ミラは召喚獣に対して、攻撃という攻撃はしていない。
そう、〝攻撃は〟していない。
召喚獣から繰り出される攻撃をことごとく無効化していたのだ。
(主に、クノを守るという場面が多かった。)
それは、ユズの妹である会長に戦闘スタイルを見られたくない、
という彼の思惑があったのだが、何やら逆に注目されてしまったらしい。
「・・・・・・やっぱり、強い・・・・・・。」
一年主席は、一年最下位に向けてつぶやいた。
自分の実力に落胆すると共に、自分の目は間違ってなかったと、
ほのかに笑みを浮かべた。
(が、やはり表情には出ていない。)
一方クノは、少し熱っぽい視線を向けていた。
(つり橋効果というやつだろう。)
一高校生のクノがこのレベルの実戦を行うのは初めての事。
余計に恐怖していた所で、何度も敵の攻撃から守ってもらえた。
彼に依存してしまいそうな気持ちと、
自分も頑張らなきゃ、という気持ちが半々だった。
彼は戦士に比べ、魔法使いの方に素質がある。
なのにどうして、彼はこんなに〝強い〟のだろう。
(一年生とは思えない・・・・・・。
ううん、現役軍人にだって、こんな真似、なかなか出来ない・・・・・・。)
敵の攻撃を予測し、十の力は使わず五の力で回避する。
攻撃出来る場面でも、冷静に仲間に目をやり、危なければ助けに入る。
(まるで、遊んでいるかのよう・・・・・・。
それか、何かを試している?みんなの・・・・・・いえ、自分の能力を・・・・・・?)
イズは彼の事で頭がいっぱいになっていた。
ミラ自身は、一種の手ごたえを感じていた。
(パワーでは元の身体に比べて、だいぶと劣るな・・・・・・。
技術面でもそうだ、使えた技が使えない、身体が技に追いついていない。
・・・・・・だが、回避面では問題ない。当たり前だが、やはり身体が軽い。)
冷静に自己分析をし、自分に足りないものを探す。
(・・・・・・この身軽さは、維持するべきだ。
その上で、身体能力の強化を図る。
単なる筋力ではなく、出来れば魔法の力を使って・・・・・・。
せっかく前には無かった素質を手に入れたんだ。
これを使わない手はない・・・・・・。)
ミラが考えをまとめた頃には、会長が我に返り、ユクールも立ち上がっていた。
「うーん、とりあえず召喚獣はここまで。
そろそろ怪我人が出ちゃうかもしれないし。
とりあえず、前衛二人、後衛二人という基本パターンで、
私は良いと思うんだけれど、どうかな?」
「私は、会長の考えに異議はありません。」
「わ、私・・・・・・も・・・・・・っ。」
「ええ、俺もそれで構わないです。」
パーティとしての考えがまとまった所で、
お互いの連絡先を交換し、この日はお開きとなった。
月曜にはいよいよ、レベル1の模擬戦が始まる。
会長に訓練場の予約申請を入れてもらい、学校を後にする。
(ユクールが二人で予約していた申請に、四人と修正を加えた。)
土日は英気を養おう。
そう考えたのは、どうやら会長だけのようで、
一年生は各々、自主トレに励んだ。
「・・・・・・ただいま。」
高校生の一人暮らしには、余りにも立派な一軒家。
その玄関の前で、一頭の、いや、一体のドーベルマンが待機していた。
「おかえりなさいませ、ロード様。」
ミラが扉を開け、ドーベルマンも後に続く。
「ロボ子、何か異常は?」
「異常、ありません。」
「そうか、じゃあニュースを頭から教えてくれ。」
「承知しました。本日、ロード様が出掛けられてからの報道は・・・・・・。」
ミラがロボ子と呼ぶこの犬は、その名の通り、ロボットだ。
とは言っても、百パーセント機械で出来てる訳ではなく、
およそ七十パーセントが魔法によって構築されている。
(ミラがロボ子と呼ぶのは、犬の声が女性であったからだ。)
ロボ子は、この世に二体しか居ない〝カガミが作った〟ロボットの内の一体。
(一体はカガミが所有している。)
ロボットという言葉自体は存在しているが、
ここまで精密に作られたモノは他にない。
見た目だけで言えば、本物の犬にしか見えないだろう。
ロボ子の存在は、勇者パーティと、製作者のカガミしか知らないのだ。
(彼がロードであった時から、自宅でロボ子を所有していた。)
「・・・・・・しかし、お前は驚かなかったのか?」
ロボ子がニュースを伝え終えた後、ミラがふと問い掛けた。
「俺が違う姿をしている事に。」
一言目では質問の意図が掴めなかったが、二言目でロボ子は理解した。
「カガミ様に事前に伝えられておりましたので。
それに、ロード様の事は仕草や言動で、すぐに主だと気付きました。」
「へぇ・・・・・・。」
たぶん強がりだろうな、とミラは思ったが口には出さないでおいた。
ロボ子は変に人間っぽいところがある。
余計な事を言って、拗ねられては面倒だ。
そんな事を考えながら、ミラは地下のトレーニングルームへと向かった。