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  HOLY QNIGHT 作者:AKIRA
序曲『理由』‐3‐

 車を止め、外に出ると初春で冷える空気が肌にはりつくようだった。

「もう寒いのも終わって欲しいっすよね。暦じゃ春だっていうのに」

 テーピングを巻いた両手を息で暖める成瀬。私も、そうね、と言いながらトランクから銀のアタッシュケースを二つ取り出す。成瀬も自分の武器である鞭を持つ。

「じゃ、行きましょうか?」

「うっす」

 私たちは準備を整えると、依頼の場所に向かう。
 夜の闇も濃くなってきた人の気配のしないビルの谷間。
 二人の退魔士が歩いていく。


 ◆  ◆  ◆


 そろそろ面接も終わりに差し掛かり、滞りなく終われそうなので俺も安心した。

「そうだ。あなたの実力も見たいからちょっと付き合って?」

 不意に依頼主の水華月みかづき 夏美なつみがそんな事を言ってきた。
 俺を見る彼女の態度は微笑を浮かべながら挑発しているようだった。

「別に良いですよ。俺もランクだけで判断して欲しくないし」

 俺は舐められるのは好きじゃない。
 自分でも判っているが、自分は少し世間を知らない。この職業には恵まれた家庭に生まれ、力をつけるのにも苦労をしなかった。
 だが努力をしなかった訳じゃない。俺の家系は名を知られるような名家ではないが、一応俺でも家督として『成瀬』の名を背負っている。柄じゃないが恥じないようにやってきたつもりだ。それを舐められたらいい気分じゃない。
 俺はグイっと体を前に出して受けて立つ姿勢をとった。

「そう? それじゃあ早速やってみる? このテナント屋上もあるの。そこでね」

 そう言って彼女は立ち上がると、こっちよ、と俺を上に招く。後に続いて階段を上って行くと、そこは腰より少し高い手すりに囲まれていて、広さとしてはボクシングのリングよりいくらか広い感じの広さだった。手合わせをするくらいなら十分だろう。
 彼女は案内した後、一度中に戻っていった。見送ると俺は手荷物から自分の武器である鞭を取り出した。縄状の鞭で、所謂『牛追い鞭』という物。手で持つ所は鋼鉄で出来ていて、縄は実家の神社で結われている処女の髪の毛や耐刃繊維が編み込まれて出来ている。
 彼女は、良い武器ね、なんて言いながら戻って来て、足元に二つアタッシュケースを置く。

「? 早く準備してくださいよ」

「あ、いいわよ。あなたがそれ程の相手であれば、武器を使うわ」

 こちらを見つめ微笑む彼女は、アタッシュケースから武器を取り出す様子が無い。少しイラッとして鞭を叩きつける。
 俺にもプライドはある。それを踏みにじられたようだった。それでも彼女は余裕だと言うように立っている。

「…じゃあ、行きますよ」

 不意打ちに近いような初撃。開始の合図もなく繰り出した上から降りかかるような鞭での打撃だったが、そこに彼女の姿は無く、アタッシュケースの間に鞭を打ちつけただけだった。
 角の方に彼女を見つける。彼女は腕を組んで立っていた。かなり余裕そうな顔をしている。

「もう。いきなり攻撃してくるなんて。びっくりしたじゃない」

「む。言いますね。難無く避けたくせに」

 と言いながら連続で攻撃を仕掛けていく。横薙ぎに放つ鞭を飛びかわされる。それを見て鞭をすばやく引き戻し、彼女に向け突くような直線的な一撃を放つ。
 その一撃は、空中で『死に体』になっている彼女に向かっていく。これなら避けられないと思った。
 だが、それも不発に終わった。彼女は体を強引に捻り、足でその攻撃を蹴り払う。そのまま床に両手両足を着き着地する。

「ふぅ。危ない危ない。油断はしてなかったんだけどね」

 なんて笑って言いながらこちらを見る。その仕草は、

「…猫」

 予想がつかないかわされ方。普通の人間ならきっとあんなかわし方は出来ないだろう。
 だが今相手にしているのは---

「やっぱりA+は違うんすね」

 目の前にいるのは今の自分よりずっと上の存在。ランクA+、水華月夏美。
 彼女は立ち上がり、すばやく元居た場所に戻るとアタッシュケースを手に取る。

「じゃあそろそろコッチの番ね」

 メガネの奥の彼女の眼が怪しく微笑む。俺は迎え撃つため態勢を整えた。


 ◆  ◆  ◆


 しばらく歩いていくと標識に寄りかかって鼻歌を歌っている制服姿の少女がいた。
 その歌声を聞こえる者は私たち以外に居ない。こちらに気付いた少女は標識から体を離すと、こちらに話しかけてきた。

「こんばんは。わたしが、ワカルの?」

 それは簡潔な問い。私はその問いに問い返す。

「それはどういう意味? あなたの存在が? それともあなたが『善』か、『悪』か?」

「さあ? 私にもわからない。何が良くて、何が悪いかも…」

 少女は私の問いに答える。
 でも問いに対しての答えがおかしい。私自身問いに対して問いで答えるというテストでバツになる事をしたのだ。人の事を言えた立場ではない。
 少女はブツブツと独り言を喋っている。

「…結構重症ね。成瀬君」

「…そうっすね」

 私たちは少女を見ながら話す。
 そしてしばらくすると異変が現れてきた。それを見て私たちは戦闘態勢をとる。
 少女の周りにある物が空中に浮かび上がり、少女の上空を旋回している。

「そうだ。あなた達を殺せば何かわかるかな?」

 こちらを見る少女の眼は狂気に染まる。私はそんな少女を見つめていた。
 少女は、いけ、と言って人差し指をこちらに向けると、空中を旋回するゴミ箱やコンクリートのブロックが私たちめがけて向かってきた。

やっとこさバトる。
きっとチョイてんぱる。俺。


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