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  HOLY QNIGHT 作者:AKIRA
第三楽章『gear【歯車】』‐5‐
「おまたせ、リンリン…って、あれ?」

 私が人ごみの中から帰ってくると、そこにリンリンの姿は無かった。
 長い時間一人にさせてしまったんだ。怒って帰ってしまったのかもしれない。

「あちゃ~。怒らせちゃったかな。まあ私が悪いからしょうがないね」

 私は頭を掻きながらそんな事を言う。
 そしてつい先ほどの事を思い出した。

 ※  ※  ※

 私が中に入っていった時、そこには倒れている男性が。
 首からは血が出ていて、一目でこの頃この辺りで頻発している連続自殺だと分かった。何故だかこの現実離れしている状況のせいか、変に冷静でいられてしまった。
 周りの人は助けようとせず、ただ傍観しているだけという状況。周りを見てみると、行く気はある人はいるようだけど、行けずに思いとどまっていると言った感じ。多分助けるための術を知らないのだ。
 まあただの一般人が大量出血者の正しい手当てを知ってるわけないし、もしも変な事して状況を悪化させてしまっては元も子もない。そんな事を考えてしまい、誰も動けずにいるのだ。私もその一人だけど…。
 と、その時、リュックを背負っていて、首の辺りで髪を纏めている一人の男の子が男性に駆け寄った。
 そしてリュックからタオルを出し傷口に当てる。

「早く! 救急車!」

 男の子が叫ぶのを見て、私は咄嗟に携帯を取り出す。
 自分でも何でそういう行動を取ったのか分からない。勝手に体が動いたのだ。

「私が呼びます!」

 咄嗟に言った私の言葉に安心したのか、男の子はもう一度男性に顔を向け止血をしてあげてるようだった。
 見た感じ直接傷口をタオルで押さえている簡単な止血方法。押さえているタオルにはどんどんと血が滲んでいく。
 それだけで大丈夫なのだろうかと思った。
 だけど不思議な事に、男性の顔色が良くなってきている気がする。血の気が失せたように青白い感じではなくなり、人本来の肌の色になりつつあった。
 それを見て安心しつつも何処かそれが不可解でならない。どういう理由わけかわからない。
 しばらくして私が呼んだ救急隊員が駆けつける。男の子はその男性を救急隊員に託すと、スッと消えていってしまった。
 私はその子の後を追おうとしたのだが、駆けつけた警察官に呼び止められてしまう。
 何でもここでの状況を聞きたいのだそうだ。仕方なく私は少しの間警察官に状況を説明していて、やっと開放されて出てきた。

 ※  ※  ※

 人だかりのあった場所は、救急車が走り去っていくと人々は少しずついなくなっていった。
 街の人々は警察が現場検証をしているのを横目に歩いていく。それ以外はまるで何事も無かったという感じ。

「私も帰ろっかな? あ~ぁ、明日リンリンに謝らないと…。怒ってないといいけど…」

 そう言って私自身もその人々に混じり、トボトボと家路につく事にした。


 ◆  ◆  ◆


 成瀬と共に男を追いかけ始めて、空はもう暗闇で覆われていた。
 人ごみの中を縫うように歩き、付かず離れずの位置で対象を見失わないようにしていく。
 まだ相手には気付かれてはいないようで警戒している様子は無い。どんどんと人ごみを縫うように歩いている。

「でも最初見たときはビックリしたっすよ」

「私もよ。でも逆にあれだけ堂々としているとわからないものよね」

 隣を歩いている成瀬と話す。
 人ごみから離れ三〇分。対象に特別動きは見られず今に至る。
 今すぐ処理できればいいのだけど、場所が場所だけに迂闊に手は出せない。
 男を追い続けてからずっと機会を窺っている私たち。だけどなかなか人もいなくならない。
 ここまで来たら根競べのようなものだろう。

「『木の葉を隠すなら森に隠せ』でしたっけ? まさにその通りだ」

「そうね。あれが『殺された人と同じ顔』なんて、通り過ぎていく人たちは知らないでしょうし」

 その時、前を行く私たちが追っている男が横の方を向く。
 そのおかげで横からだけど、もう一度相手の顔が見れた。
 やはり同じ顔。

「成瀬君の方が近くで見たからわかるでしょ? あの人と顔が一緒だって」

「はい。俺が助けた人と瓜二つっすもん」

 私たちの前を行く男は、成瀬が言うように、助けた男性と瓜二つだった。
 一般のサラリーマンのスーツ姿だけじゃない。顔や背丈までもだ。双子の兄弟だってそこまで似ているのはほとんど無いだろう。
 第一、もしも双子だとしたらあの時助けようとしているはず。それなのに人ごみから外れ、かなり遠い所から見守っていた。そんな身内がいるはずない。
 しかも笑っていた。他人だとしても不謹慎すぎる。
 被害者の近くに瓜二つの人物。これに当てはまるのは一つしかない。

「アレは『ドッペルゲンガー』ね」

 私の言葉に成瀬が、そうっすね、と言って頷く。

「よく知られてる『見たら精神に異常をきたし死んでしまう』なんて言われる、本人の脳や精神による『ドッペルゲンガー』と別のやつっすよね」

「ええ。これは『出会ってしまったら殺されてしまう』って言う方ね。成瀬君の言う方だったら私たちが見えるわけ無いでしょうし」

 成瀬の言う方は一種の病気のような物だ。中にはドッペルゲンガー自体をすべて病気だと言う者もいて、いろいろ議論されている。
 実態は病気の方も本当だが、第三者によって目撃されるものは霊的なものといえる。
 その証拠にいろんな事例がある。例えば、あるアメリカの大統領が暗殺された時や、日本のある小説家が死んだ時に、本人や第三者によって目撃された、と言う。今となっては確かめる術は無いが、本当だとしたらドッペルゲンガーの仕業と見て間違いないだろう。
 その間も私たちはドッペルゲンガーと思われる男性を追う。

「それにしてもどこ行くんすかね? アイツ」

「…今はただ追っていくしかないわ」

 了解っす、と言って成瀬は前に向き直り、前を行く男を見る。
 でも成瀬の言うとおり、相手はただ歩いているだけで何もしていない。これからどうするつもりなのか。
 すると駅前に通りかかった時、丁度駅から人が流れ出てきた。
 前を行く男と私たちが巻き込まれてしまう。私と成瀬は必死で見失わないようにした。だが人の数がかなり多く、見えなくなってしまう。
 次第に出てくる人の数が少なくなり、私たちは慌てて男のいた方を見た。
 だけど---。

「やられたわ。まさかこれを狙ってたなんて。私たち気付かれてたのね」

「くそ! アイツどこ行った!」

 怒りをあらわにする成瀬。私たちは相手を見失ってしまった。
 私たちはすぐに辺りを見渡す。時間としてはほんのちょっとのはず。そこほど遠くに行ってないはずだ。
 だが周りは人で溢れていて、この中から視認で見つけるのはかなり難しい。それでも私たちは男を捜す。
 二人で見渡しているのはかなり目立つらしく、道行く人が私たちを見てくる。その為、私たちの周りだけ少し空間が出来ていた。でも今はそれを気にしている場合じゃない。
 こめかみの辺りを汗がつたり落ちていく。暑さではなく焦りから流れるその汗が妙に冷たく感じた。
 その瞬間、横の方に気配を感じてそちらに顔を向ける。
 そこにはポツンと一人の女性が。でもそれは格好だけで、感じる雰囲気が普通ではないのが伝わってきた。
 身構える間もなく私が視認するや否や、女性は笑みを浮かべながら私にせまってくる。その手には怪しく光るナイフが。それが私に向け突くように向かってくる。
 私は迫ってきたナイフを間一髪の所で避けながら、そのまま女性の突き出してきた手にアタッシュケースを横からぶつける。すると持っているナイフを落とし、払われたナイフは道行く人々の足元をすり抜けて滑っていった。
 女性はそのまま払われた方に態勢が崩れ、その崩れかかっている女性の足を私が下段蹴りのように払うと地面に倒れた。私は押さえつけようとしたのだが---

「危ない!」

 突然私に向かって成瀬が叫ぶ。
 すると女性はもう一本ナイフを持っていたようで、私にナイフを振るってきた。
 咄嗟に避けたものの、スーツの腕の部分に切られた痕が。女性の持つナイフに少量の血が付いている。そんな気はなかったのだけど、少し油断してしまったようだ。自分自身に、Aランクのくせに、と呆れてしまう。と言うか笑ってしまう。
 そんな後ろに下がった私を見るなり女性はすぐさま立ち上がり、人ごみの中に逃げていく。
 私と成瀬はその後を何とか見失わないように追いかけていたのだが、女性が突然スッと道から逸れていく。そこはビルの間に出来た人が入り込まない場所。
 あの女性はここで私たちから逃げるつもりなのか、それとも---

「…誘われてるんすかね?」

「さあ? でもそういう風に思えるわね…」

 道の先を見つめる成瀬が私に問いかけてくる。
 誘われているのだとしたら、もうこの先は相手の主戦場ホーム
 先ほど私に向かってきた時の事を思い出すと、戦い方からして格下の相手と思って間違いない。でもどんなに格下の相手でも相手のホームである限り、危険は付き物だ。

「気をつけてね。成瀬君」

「夏美さんこそ」

「フフ。言ってくれるわね」

 笑って生意気な事を言う成瀬のおでこを小突く。
 私も笑っていたのだけど、ここからが本番ね、と心にし動き出し始めると笑みを消し、暗い路地裏へと向かっていく。


 ◆  ◆  ◆


 少し中に入ると、俺たちの前には分かれ道が。路地裏という場所が場所だけに、どんな風になっているのかわからない。
 ここはどうやら二手に分かれるほか無いらしい。

「じゃあ私は右を、成瀬君は左をお願いね」

「敵と接触した時は無理せず、っすね?」

「うん。じゃあ行きましょ?」

「んじゃ、また後で」

 そう言って俺たちはそれぞれの道に進んでいった。
 普段見ることの無い路地裏は、いくら進んでも変わり映えの無い風景。
 今一体どれだけ進んだのか、同じところに戻ってきてしまったのかと、いろんな事を考えてしまい、時間も時間だけに、それが暗くなってしまい、光の無い路地裏は一層暗く感じてしまう。
 俺の歩く音が静かな路地裏に響く。
 しばらく歩いていくと少し広い場所に出た。そこは上から差し込む月明かりのおかげで少し明るかった。

「どこいったんだ? アイ…」

 一人呟く俺だったが、それをすぐにめる。
 俺はなんとなく気配を感じて静かにすると、前の方にある角の先から小さな靴音が聞こえてきた。
 どんどん近づいてくる音を聞き、俺は気配を殺して角の手前まで向かい、そこで待ち構える。この細い路地だ。俺の鞭はあまり使えないだろう。それよりも武器を使わずに戦った方が効率的だ。
 音がすぐそこまで来て、待ち構えていた俺は、角からスッと影が出てきたところで一気に詰め寄る。
 相手はひるんだように身をかがめたのを見て、チャンスと思い俺が距離を詰めようとすると、突然起きた風で巻き上げられた砂が目に入り視覚を奪われてしまった。
 やられた!、と思ったのだがすぐに、あれ?、と疑問を持ち俺は動きを止めた。
 風が止み、目の痛みも和らいだ所でゆっくりと目を開く。目の前にいるのを見て一気に緊張感が解けてしまう。

「お前らなんでココに…」

 そこには見慣れた女性が身をかがめ、胸ポケットにいる見慣れた妖精がこちらをで見て苦笑いを浮かべていた。



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