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【競演】冬の京都

作者: 横江秋月

【第7回真冬の競演】参加作品です。お題は「冬の京都」。

 冬の京都へ行きたい、と彼女が言いだしたのは、蝉の声もかまびすしい夏の盛りだった。

「京都へ、何をしに?」

「観光に決まってるじゃない」

「何か見たいものでも?」

「よくわからないけど、春日大社とか興福寺とか?」

「……それはどっちも奈良だと思うけど」

「じゃあ、京都には何があるの?」

「うーん……清水寺とか、二条城とか……」

 じつのところ私もよく知らなかったので、いっしょにネットで検索してみた。

「えっ、京都タワーなんてあるの? 映画村もいいなあ。へえ、国際マンガミュージアム? 赤れんが博物館って、何があるの?」

 どちらかといえば、桂離宮や仁和寺といった由緒あるところのほうが好みだが、彼女と行けるのならどこだってかまわない。わがままでミーハーなところも含め、私は彼女にベタ惚れなのだ。

 旅行の計画に目を輝かせる彼女を見ていると、こちらまで自然に気分が浮き立った。

 デートのたびに、あれがいいこれがいいと意見を言いあい(おもに彼女が)、観光のルートを考え(おもに彼女が)、連休に合わせて予定を立て、切符やホテルの手配もした(これは私が)。

 いつもだらだら過ごすばかりだった二人の関係に、小さな目標ができて、毎日に張りが生まれた。彼女の魅力はいやましに膨れあがり、私は指輪を買おうとひそかに思いはじめた。


 秋の終わり、彼女から突然別れを告げられた。


 目の前が真っ暗になるという心地を、生まれて初めて味わった。

 すべて捨てて、何もかもなかったことにしたいと思った。

 とはいえ、急に予定のなくなった休日をどう過ごせばいいのか。切符やホテルもキャンセルしなくてはならない。旅行のためにあれこれ準備した労力も無駄になる。

 そうだ。どうせなら、一人で傷心旅行としゃれこもう。

 そこまで考えて、ふと、飲み屋のママの顔が思い浮かび、私は電話機に手を伸ばした。


 この冬、私は、予定どおり二人で京都へ行く。



【終】

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