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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第6章 亜人の国、ミスミド。
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#47 激辛、そして白仮面。

 一通りの試し撃ち&「プログラム」による起動実験を終えたあと、ブレードモードでの耐久性も確認した。

 パーツを組み合わせて作ってはいるが、「モデリング」で可動しない部分はほぼ一体化している上に、竜の角の靭性も兼ね備えている。実際、太い大木を難なく切り倒すことができた。斬れ味は以前の刀の比ではない。

 それから僕らは再び城下町に戻り、ナイフ用の皮鞘を三つと、さらに大きめの皮鞘一つを購入し、「モデリング」で変形させて、銃を収納するホルスターを作った。このまま剥き出しで歩くと目立つからね。

 それと弾丸を入れておく専用のウエストポーチも三つ購入した。とりあえず二人には今は街中だし、魔獣に襲われる心配もないので、「パラライズ」を付与したゴム弾だけを与えているが、僕のはゴム弾の他に実弾も入ってる。ひょっとしてリロードするユミナたちの真横に僕がいたら、僕の実弾の方がリロードされる可能性もあるな…。

 それに気付いて、あらためてみんなの銃を「プログラム」し直した。「範囲内にある発言者が望む弾丸を」「リロード」するようにする。元々「アポーツ」の魔法なのでこれくらいは可能だ。

 あとは何を弾丸にエンチャントするかだなー。「エクスプロージョン」はリンゼも旧王都の遺跡で使ってたが、瓦礫の山を一気に吹っ飛ばす程の威力があるからな……使いどころが難しい。「イグニスファイア」くらいなら……着弾と同時に相手が火だるまに…これもやり過ぎな気がする。

 ま、人間相手には「パラライズ」で充分か。護符を持っていて効果がなかったとしても、ゴム弾によるダメージはかなりのもんだろう。あとはゆっくり考えよう。


「せっかく城下町に来たんだから、なんか食べていこうか?」

「いいですね。この国の郷土料理を食べてみたいです」

「…確か「カラエ」という料理が有名、です」


 「カラエ」か。話の種に食べてみるか。近くにあった屋台で売ってるみたいなので、行ってみた。立看板に「ビーフカラエ」「チキンカラエ」「カツカラエ」といろいろメニューが並んでいる。あれ、この匂いは……。

 ユミナはビーフカラエ、リンゼはチキンカラエ、僕はカツカラエを注文し、(琥珀はなぜか食べるのを拒否した)屋台横のテーブルに着くとすぐにそれが運ばれてきた。

 この色、この匂い……やっぱりカレーだよな、コレ。ご飯はないからカレーライスではないけど。


「あのさ、これって……」


 辛いかもしれないよ、と言う間もなく、二人はスプーンですくって口に運んでいた。


「「ッ!?」」


 ガタッ! と口を押さえて立ち上がり、涙目になる二人。あー、やっぱり辛かったか。甘口ならよかったのにな。この様子だとかなり辛口らしい。

 テーブルに置いてあった水差しから、二人とも奪うようにコップに水を注ぎ、一気に呷る。それを見ながら僕も自分のを一口食べてみるが、かなり辛かった。食べ慣れている僕でさえこうなのだから、初体験の二人にはかなりの衝撃だったのだろう。


「しゅごい味でしゅた……」

「みゃだ、舌がぴりぴりしまふ……」


 呂律が回らなくなるほど辛かったか。カラエ料理の屋台をあとにした僕らは、口直しに別の屋台で売っていた果実ジュースを買って飲んでいた。


「慣れるとそれほどでもないんだけどね」

「冬夜しゃんは食べたことがあったんでしゅか、カラエ?」

「あー、似たようなものならね」


 まだ呂律の怪しいユミナに曖昧に答える。リンゼもジュースに入っていた氷を口に含み、コロコロさせている。そういやこの世界に来て、辛い食べ物ってあまりなかったな。ベルファストとかでは甘いものが多かった気がする。……ん?

 そんなことを考えていたら、なにか視線を感じたので、辺りを見回す。んん? この感じ……前も確か……。


《主。何者かがこっちを監視しております。おそらく以前の奴らと同じかと》


 琥珀が念話で僕に話しかけてくる。やっぱりか。


《ラングレーの町で僕らを見ていた奴らか……よし、ちょっと挨拶に行ってみるか。どこにいるかわかる?》

《主から見て右手、一番高い建物の上です》


 気付いてないフリをしながら、それとなくその建物の上を見てみる。三階建ての屋上みたいなところに確かにいるな。かなり遠いけど。


「一応、準備はしとくか。「リロード」」


 腰に差した剣銃ブリュンヒルドに「パラライズ」を付与したゴム弾をセットする。


「冬夜さん?」


 突然リロードした僕に、二人が不思議そうな目で見てくるが、説明はあとだ。


《琥珀は二人を守ってて》

《お気をつけて》


 よし、行くか。


「ブースト」


 身体強化の魔法を使い、一気に飛び上がる。そのまま、横にあった建物の屋根の上に乗り、さらに前の屋根の上へと飛び移る。屋根から屋根へ、一気に突き進み、謎の監視者がいる建物の上へと辿り着いた。


「や」

「「!」」


 軽く挨拶をした僕の来訪に、そこにいた二人の監視者たちは驚いていた、と思う。

 と思う、というのは、表情がわからないからだ。二人とも同じような黒いローブを纏い、僅かに見えたローブの下も黒い服だった。そしてフードをかぶった顔を隠す白い仮面。額に奇妙な紋様が描かれた仮面だ。二人とも同じかと思ったが、一人は六角形、もう一人は楕円形の紋様だった。


「えっと、話はわかるかな? 君たちは何者か教えて欲しいんだけ…ど」


 突然、六角形の方が小さな試験管のようなものを取り出すと、それを足元に叩きつけた。瞬間、ものすごい閃光が辺りを襲う。


「く…!」


 眩しさから回復した目を開けると、そこにはもう誰もいなかった。逃げられたか。だが、そうはいかない。スマホを取り出し、「仮面の不審者」で検索。いたいた。北の裏路地を逃げているな。まだ追いつける。


「アクセルブースト!」


 魔法による超加速で屋根の上を駆け抜ける。景色がものすごいスピードで後ろに流れ、あっと言う間に裏路地を逃げていく二人の姿を、屋根の上から捉えることができた。

 回り込み、二人の前へと降り立つ。


「「!?」」


 またしても仮面でわからないが、驚いているように思う。しかし、すぐさま六角形の方が再び懐に手をいれて、例の試験管を取り出そうとしていた。おっとそうはいかない。


 躊躇なく、僕は剣銃ブリュンヒルドを抜いて、試験管を取り出そうとしていた仮面の人物に向けて引き金を引いた。

 銃声と共に六角形が崩れ落ちる。どうやら麻痺を防ぐ護符を持ってないようだな。相方を撃たれたもう一人、楕円形は、僕と倒れている六角形を交互に見ながら、どうしようか迷っている感じだった。隙あり。路地裏に再び銃声が響き渡った。

 



「さて、と。どうするかね」


 麻痺している二人を、「モデリング」で変形させたワイヤーで縛り上げ、路地裏の壁にもたれさせる。仮面を取って正体を見てもいいんだが、「パラライズ」は身体が麻痺するだけで意識は残ってる。「一族の掟で顔を見られたからには生きてはおれぬ」とか「顔を見た相手は必ず殺す」とかだったら最悪だからなあ。


「今から麻痺を治してあげるけど、おとなしくしてよ?」


 二人の目を覗き込み、そう話しながら魔力を集中していく。


「リカバリー」


 柔らかな光が仮面の二人を包む。これで二人からは麻痺の効果は消えたはずだ。さて、なにか話してくれるといいんだが。


「で、君たちは何者? なんで僕らを監視していた?」

「……………」


 うむむ、黙秘権ですか。

 と、ワイヤーが食い込んで痛いのか、六角形の方が身じろぎをした。いや、ここから脱出するための何かをしようとしたのかもしれない。さっきの閃光薬? のようなもので、ワイヤーを腐らせる薬とか持ってたら面倒だな。用心のために道具類は取り上げておくか。

 僕は六角形の懐に手をいれた。


「ひゃうっ!?」


 六角形が可愛らしい声を上げ、むにょん、と手に伝わる柔らかい感触。それがなにかと理解した途端、全身から汗がぶわっと出た。


「お、お、女の人でした、か!?」


 六角形がこくんと小さく頷く。手を素早く引っ込めたが、まだ柔らかな感触が手に残っている。ヤバい。顔が赤くなっている気がする。あれ、でも今の声……どっかで聞いたような……。

 そのとき、さっき手を引いたときに当たったのか、六角形の紋様がついた白い仮面がカランと音を立てて、地面に落ちた。その下から現れた顔は僕が知っている女性の顔だった。


「え!? ラピス…さん?」


 顔を赤らめながら、ベルファストの王都にいるはずの、ウチのメイドさんは、またこくんと小さく頷いた。





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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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