#244 合体、そして黄金の巨神。
「おーおーおー、数だけは多いなあ」
まだかなり遠いがこちらへ向けて鉄機兵と武装ゴーレムが進軍している。
その数ざっと3000。そのうち950は鉄機兵、残りは武装ゴーレムだ。
950人も魔法使いが乗っているのかというとそうでもないらしい。三分の二はゴーレムの核を使った自動操縦らしいし、残りの操縦者も魔法使い以外がけっこういるという。
「黄金結社」は少しでも魔法を使えれば同志と認めるらしいからな。ソルもそうだったし。その代わり、魔法を全く使えない者は人として劣った種、旧人類と見るらしいが。
ソルは魔法帝国ができた暁には、魔法剣将軍としての地位を約束されていたらしいが、それも泡と消えた。
鉄機兵は動きが単純なので、操作も難しくない。素人でも数日練習すれば乗りこなせるようだ。もちろん、それと戦えることとはイコールではないのだが。
鉄機兵950、武装ゴーレム2050に対し、こちらはフェルゼン側に展開したブリュンヒルドのフレームギア、その数わずかに60と少し。だいたい50分の1だ。
数では圧倒的に不利だが、僕は全く心配してはいなかった。ボーマンの操る鉄機兵と戦ってみた感触からすると、フレームギアとの差は歴然としている。まあ、それでも一人で50体倒すのは骨だろうからサポートはするが。
「ブリュンヒルド公王、本当に大丈夫か? たったこれだけの兵で……」
「大丈夫大丈夫。問題ありません。フェルゼンが誇る魔法兵団の手を煩わせることにはなりませんよ」
僕は傍に立つフェルゼン国王に安心するように言うと、その後方に並ぶ兵たちを眺めた。
一応、2000名ほどの魔法兵団がフレームギアの後ろに控えている。いらないと言ったのだが、まあ、それで安心するならと結局好きにさせることにした。
僕らの下へ兎の耳をした騎士が駆け寄ってくる。
「陛下。全員搭乗完了しました。いつでもいけます」
「りょーかい。無理しないようにみんな気をつけて下さい」
「はっ」
団長のレインさんが一礼して自分の愛機である白騎士に乗り込む。彼女も団長が板についてきたなあ。昔はよく泣き言を言ってたのに。
兎の獣人であるレインさんの機体には、肩に兎の紋章が刻まれている。なんでもあれをデザインしたのはリンゼだそうで、僕もその隠れた才能に驚いた。
同じように副団長の二人、狐の獣人であるニコラさんの黒騎士には狐の、狼の獣人であるノルンさんの青騎士には狼が刻まれている。
三人の下にはそれぞれ20機の重騎士がつき、それとは別に、エルゼのゲルヒルデ、八重のシュヴェルトライテ、ヒルダのジークルーネが参戦する。さらに僕と諸刃姉さんがサポートに入る。不安要素が全くない。
「さて、と。先制攻撃といくかね」
「ストレージ」に貯めてある晶材でできたソフトボール大の「星」を、「ゲート」で敵の真上に無数に開く。そこから「グラビティ」で重量を増した「星」を一気に叩きつける。
「流星雨」
一斉に数多の星が降り注ぐ。高空から落とすために正確にロックオンはできないが、それでも降り注ぐ星をかわすことは容易ではない。
次々と流れ落ちる星に押し潰され、鉄機兵と武装ゴーレムがその数を減らしていく。ゴガンッ! ゴガンッ! ゴガンッ! ゴガンッ! と大地が大きく揺れる。
三分の一くらいは減ったか?
スマホをレシーバーモードにして、全員に声が届くようにする。
『全機戦闘開始! これより殲滅戦を開始する!』
『おおおおおおおおッ!!』
それぞれ隊長機に従い、突撃を開始する。灰色の重騎士が鉄機兵と剣を交えた。二、三回打ち合うと、フレームギアの一撃が鉄機兵の胴体を横に真っ二つにする。
高さでいうと、鉄機兵はフレームギアの胸ほどまでしかない。しかしずんぐりとしたフォルムとあいまって、見た目では重厚そうなイメージがあり、頑丈そうに見える。が、何というか作りが甘い。手を抜いて製造してんじゃ無いのかと思うほどだ。
工場責任者が資材を横流しとかしたんじゃないのか。たちの悪い百円ショップの商品じゃないんだから。
フレームギアが一撃をかますたびに、何か細かいパーツが鉄機兵からこぼれ落ちる。いいのか、あれ。
「じゃあ私もそろそろ参加させてもらうかな」
「やり過ぎないで下さいよ。地面や空間まで真っ二つとか無しですからね。あくまでサポートなんですから」
「わかってる、わかってる」
刀身が分厚く刃渡り二メートル以上はある晶材の太刀を、両手で二振り軽々と持って、諸刃姉さんが嬉々として戦場へと飛び出していく。
向こうは驚くだろうなあー。生身であの中を駆け抜けてんだから。
『砕いて砕いて砕いて砕く! 粉、砕ッ!』
エルゼのゲルヒルデが放つパイルバンカーで、武装ゴーレムの核が打ち砕かれていく。真紅の破壊神は健在だ。
それに負けじと戦場を風のように駆け抜け、すれ違いざまに鉄機兵を一刀両断に屠っていく、八重のシュヴェルトライテ。紫電一閃、その動きには無駄がない。
対照的に、相手の武器を盾で受け止め、一撃のもとに斬り伏せる堅実な動きをしているのがヒルダのジークルーネだ。主に敵が密集しているところにサポートとして動いているようだな。
『冬夜冬夜! まだかのう! わらわの出番はまだかのう!』
僕と共に、唯一進撃をしなかった黄金色の機体から操縦者の声が漏れる。スゥの専用機、「オルトリンデ」だ。
防御に特化した機体で、他の機体より装甲が厚い。オリハルコンの上に晶材でコーティングしてある。金のボディに黒の装飾と、なんとも派手な機体だが、操縦者のリクエストなので仕方が無い。泣く子にゃ勝てんよ……。
ちなみに機体名がスゥの家名と被るのは全くの偶然である。……被るのは全くの偶然である。大事な事なので二回言いました。
防御に特化した機体ではあるが、「オルトリンデ」の真価はそこではない。
「よし、じゃあお披露目といくか。初めてだからマニュアルモードでいくぞ。シェスカ、ロゼッタ、モニカ、準備はいいか?」
スマホを耳に当て、それぞれに最終確認を取る。
『グングニル、問題ありませン』
『レーヴァテイン、準備完了でありまス』
『ミョルニル、いつでもいけるゼ!』
レシーバーの代わりをするスマホからそれぞれの声が聞こえてくる。準備は整ったようだな。
「よし。スゥ、合体シークエンス開始。ドッキング承認!」
『うむ! フレームチェーンジッ!!』
スゥの声に合わせて空の彼方から槍のようなものが飛来する。高速飛行艇「グングニル」だ。
土煙を上げながら、後方からものすごいスピードで走ってくるのは弾丸装甲列車「レーヴァテイン」。
そして地底から大地を貫き、飛び出してきたのが万能地底戦車「ミョルニル」だ。
レーヴァテインは線路が無くても走れるので、列車とはちょっと違う気もする。地表から僅かに浮いて走ってるしな。リニアモーターカーに近い……いや、全然近くないか。
ミョルニルは先端のドリルで土を掘っているわけでは無く、前方の土を空間転移させながら進んでいるので、その時のドリルはまったくの飾りだ。
これについてはわかりやすく言うと、ミョルニルの周りの土だけを一時的に「ストレージ」にしまい、移動するたびに後方に空いた空間に土を戻す、ということを繰り返して進んでいる。なのでトンネルは出来ない。土魔法と空間魔法の応用らしいが、明らかに機体の外観は僕が見せたアニメに影響されている。ドリルで掘り進むこともできるのだが、地面に入る時と出る時ぐらいしか使わないとか。
それら三機のサポートメカがオルトリンデの合体範囲に辿り着くと、オルトリンデが宙に浮かび上がり、その手足が折りたたまれる。そのまま空中で、まず二つに別れたドリル戦車がそれぞれ右脚と左脚のパーツに変形し、オルトリンデの両足にドッキングする。
次いで、これも二つに分かれた弾丸列車がそれぞれ右腕と左腕にドッキングし、その先から右手と左手が飛び出した。
最後に笹の葉の形から逆Vの字形に変形した飛行艇が、オルトリンデの背中に合体し、胸部から飛び出したマスクが頭部を覆う。額の角が光を放った。そのギミック要るか?
『完成ッ! オルトリンデ・オーバーロード!!』
……オーバーロードってなんじゃい。あいつらなんか好き勝手にいろいろやってるな!? 任せっぱなしにしたのはやはりまずかったか。聞いてないんですけど!?
ズシィンッ! と大地を唸らせて、オルトリンデ、あー、オーバーロード? がその勇姿を現した。
その大きさはフレームギアの二倍以上。重厚さと力強さ溢れる金色の巨神。まさに力の象徴とも言うべきフレームギアだった。
「な、なんだあれは……!」
「大きい……あれが戦うのか!?」
フェルゼンの魔法兵から驚きの声が漏れる。いや、合体したのを見たのは初めてなんで、僕も似たような気持ちだが。
『いくのじゃ! キャノンナックルッ!』
振りかぶったオルトリンデ・オーバーロードの右腕が、肘から切り離され、まっすぐに武装ゴーレムへと飛んでいく。晶材とオリハルコンの塊が猛スピードで激突し、武装ゴーレムはあっけなく粉砕された。
飛操剣の機能を応用した右腕は、大きく弧を描いて帰ってくると、もとの右肘にガシンッ! とドッキングする。
あんなのまで作ったのかよ……。完全に悪ノリした機体だな。
飛操剣のままでいいじゃん。なんでロケットパンチにする必要が?
まあそれを言うと博士あたりから、ロマンが足りないとか言われるんだが。
オルトリンデ・オーバーロードは止まることなく、戦いの中へと突撃していく。装甲を厚くしたためガタイがでかく、鈍重なイメージを持たれそうだが、その動きはそれなりに速い。ポイントポイントに「グラビティ」を付与してあるからな。
オーバーロードが武装ゴーレムに直接殴りかかる。あ、そうか、専用武器を用意していなかった。必然的にそうなるわな。
なにか専用武器を用意しないとな……って、絶対黄金のハンマーを要求される。間違いない。
殴られた武装ゴーレムが大きな地響きを立てて倒れ込む。殴られた箇所は大きく抉れていた。とんでもないパワーマシンだな……。今更だが、スゥに持たせておいていいんだろうか。
「スゥ。周りのみんなを巻き込まないようにしろよ。吹っ飛ばす先も考えてな」
『わかっておる。そこらへんはロゼッタが見てくれておるので大丈夫、じゃ!』
返事を返しながら掴んだ武装ゴーレムの頭を握り潰す。
合体に使用するサポートメカは自動操縦にする予定だが、可能な限りマニュアルでシェスカたちに乗ってもらった方がいいかもなあ。
『キャノンナックルッ!』
……スゥを止めるという意味でも。あーあ、まとめて吹っ飛んだ。
合体したオルトリンデが参戦した段階で、すでにあちら側は総崩れだった。そりゃ、あんなもん見たら戦意喪失するわ。
逃げ出そうとする鉄機兵もいたが、そこは諸刃姉さんが許さない。うまいこと四肢を切り落としてから、コクピットの扉を変形させて開かなくし、鉄の棺桶を量産していた。
戦闘開始から一時間後、ついに敵兵に動いているものはいなくなった。
『陛下。作戦完了しました』
「お疲れさま。一応逃げ出そうとするやつがいないか見張ってて下さい。スゥたちは怪しい魔力反応が無いか監視を。また火事場泥棒が出ると厄介だからな』
『了解じゃ』
口をあんぐりと開けて絶句しているフェルゼン国王に声をかける。
「鉄機兵に乗り込んでいる奴らの捕縛は任せてもいいですか?」
「え? あ、ああ、任せてもらおう。一人残らず牢屋にぶち込み、他にメンバーがいないか尋問する。まあ、この光景を見て逆らおうとは思わんだろうが」
「黄金結社」の夢は潰えた。
フェルゼンの魔法兵という目撃者たちがいるので、このことは国中に広がるだろう。たとえ「黄金結社」の残党がいたとしても、もうこれでちょっかいをかけてくることもなくなると思う。
もちろん捕まえた「黄金結社」のメンバーには他のメンバーやアジトとかを一切合切喋ってもらうけどな。
正直、今回僕は「流星雨」を撃っただけだったなあ。まあ、フレイズと違ってあの程度なら僕抜きでもなんとかなったかもしれない。
太陽に照らされて、黄金に輝くスゥの機体を見上げながら、そんなことを思った。