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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第15章 大樹海、大雪山。
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#107 蜘蛛、そして水晶素材。


 親善パーティーも問題なく終わって、ブリュンヒルドは落ち着きを取り戻した。

 いろいろあって遅くなってしまったけど、あらためて僕はルーに婚約指輪を渡すことにした。こういうことはきちんとしとかないとな。遅れておいて、きちんともないもんだが。

 そんなことは気にもしてないように、ルーは喜んで受け取ってくれた。他のみんなと同じデザインで同じ魔法付与がかかっている。


「これでやっと胸を張って冬夜様の婚約者だと言えますわ」


 本当に嬉しそうに指輪を眺めている彼女を見ると、罪悪感を感じるなあ…もっと早く渡せばよかった。

 バルコニーに置かれたテーブルに座って、傍らのルーを覗き見ていると、リーンがポーラを連れてこちらへやってきた。


「フレイズが現れたわ。場所は大樹海の中央あたり。そこに住んでいる部族からミスミドへ救援の知らせが来たの」


 ガタッと僕らは椅子から立ち上がる。一人わけがわからずキョトンとしているルーを残して。


「それでフレイズはどうした? 倒したのか?」

「いいえ、部族の村々を潰しながらまだ居座っているわ。ご丁寧に視界に入る人間や亜人たちを皆殺しにしながらね。なんでも大きな蜘蛛のような形をしているそうよ」


 巨大な蜘蛛のフレイズか。だとするとこないだのマンタと同じ中級、あるいは上級の可能性があるか。「アポーツ」は効かないだろう。「グラビティ」で叩き潰せるといいが。


「行こう。倒せるかわからないけど、ほっとくわけにもいかない。それに……」

「あの子に会えるかもしれないものね」


 リーンの言葉に小さく頷く。

 エンデ。僕らがどうしようもなく苦戦したマンタ型フレイズを難なく倒してしまった謎の少年。彼の残した「フレイズの王」という言葉が引っかかっている。一体どういう意味なのか……。


「とにかくバビロンで大樹海へ向かおう」




「古代文明を滅亡させた水晶の魔物ですか……」


 バビロンでの移動中、ルーにこれまでの経緯をざっと話す。そもそもフレイズとはなんなのか。空間を破壊し現れるところから、なにか特別な方法で異空間に封印されているのかもしれない。その封印が破れつつあり、5000年前に閉じ込めたフレイズたちがそのほころびから現れ始めた……と、こういうことなんだろうか。

 エンデの言葉を信じるならフレイズの目的は「フレイズの王」を探すこと。だけどフレイズがやっていることは一方的な殺戮だ。それになんの意味があるのか。

 そもそも5000年前に何があったのか。封印とは誰が施したものなのか。フレイズとはどこから来たのか。なにひとつわからない。だけど、エンデはたぶん全てを知っている。この前は聞き損なったが、今度会ったなら……。


「マスター、目的地上空でス」


 シェスカに呼びかけられて、モノリスに映る地上に視線を向ける。大樹海の樹々を切り倒しながら、蜘蛛のように八本の細い足を伸ばした怪物が、大樹海に住む部族の人々を串刺しにしていた。


「大きいな。前のマンタと同じくらいはある」

「でも前のと違って空を飛ばないだけでもありがたいでござるよ」


 確かに。前は飛んでる上に砂漠地帯だったから戦うだけで大変だった。今回は隠れる場所もあるし、有利な気もする。倒された巨木の下敷きにならないようにしないといけないだろうが。


「とにかく急ごう。早くしないとあの村が全滅してしまう」


 地上に転移したとき、部族の女性たちが弓を射かけたり、魔法を発動させてフレイズに抵抗していた。

 フレイズに魔法は効かない。魔力ごと魔法が吸収されてしまう。魔法は吸収できない「吸魔の腕輪」や、魔法を打ち消すデモンズロードの「魔法無効化」とはまた違った、魔法自体をも魔力に変換できる厄介な能力。

 褐色の肌をした女たちが湾刀を持って立ち向かっていくが、次々とフレイズの伸ばした鋭利な腕に切り伏せられていく。


「イツ! ミヨマナ、タコヂカシガリノ!」


 若い部族の少女が何やら命令を下してるようだが、全く聞き取れない。共通語じゃないのか?

 どうやら彼女がリーダーらしく、少女の指示なのか、弓矢隊が少しずつ後退していく。他の非戦闘員を逃がす時間を稼いでいるようだ。

 その少女に狙いを定め、蜘蛛フレイズの足が槍のように伸びる。


「アクセルブースト!」


「ストレージ」からミスリルの大剣を取り出しつつ樹海を駆け抜け、少女に迫る腕槍を弾く。そのままいきなり現れた僕に驚いている少女を抱き上げ、後方へと大きくジャンプし、フレイズと距離を取った。

 少女を下ろし、あらためて大剣を構える。


「ここは任せて早く避難……って、言葉通じないかー」


 あっちに逃げろ、と僕は森の奥を指差す。しかし少女は目を釣り上げて僕に迫ってきた。


「エモウ、オルテトトコイチメラコ!? サナトアネコ、ボコ!!」

「いや、だからわからんって言ってるだろうに」


 少女を見ながらこの部族の女たちはとても勇ましいんだなと認識する。目の前の少女も片手に斧を持ち、身体中を赤い塗料でペイントしている。

 褐色の肌は健康的ではあるのだが、その身体を包む衣装はちょっといただけない。上半身は胸覆い一枚、下半身は下帯だけなのだ。サンダルのような靴を履き、手には手甲のようなものをしているが、ほぼ半裸に近い。だいぶ都会とはかけ離れた生活をしている部族らしい。

 そしてこの少女、僕と同じくらいの歳だと思うが、その、かなりのものを持っている。胸覆いからはち切れんばかりに存在を誇張するそれに、ついつい目がいきそうになってしまって思わす目を逸らす。


「エモウメナグリヲド! オアチナクヲホカコノア! ケレソルリゼ!」


 何かまくし立てているが、さっぱりわからない。チラ見してたのがバレたのだろうか。

 とりあえず大剣を構え、蜘蛛フレイズへと斬りかかる。狙うは足一本。振り下ろすタイミングで「グラビティ」を発動。超重兵器と化した大剣が細い足を粉々に粉砕する。


「どうやら「グラビティ」でいけそうだな」


 しかし粉砕された足はたちどころに再生される。さっきの部族が食らわせた魔法を吸収していたんだな。やはりこいつらを倒すには核を砕くしかない。

 核は体の中心線に三つ、等間隔でならんでいる。オレンジ色に光っているのはマンタのときと同じだ。


「リンゼ! リーン!こいつに氷を落としてくれ!」


 僕の言葉に反応した二人が水魔法「アイスロック」を唱え、大きな氷塊を蜘蛛の頭上へと落とす。フレイズは一瞬、重さに身体が沈んだが、ギギギ、とそれを跳ね除けようとする。しかし、そうはいかない。

 飛び上がり、フレイズに落とされた氷塊の上に立つ。「グラビティ」を発動し、氷塊の重さを何十倍にも変化させた。

 ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、と体が軋む音と共に、パキッ、パキッと氷塊の方にに亀裂が入り始める。どうやら自重に魔法の氷が耐えられないようだ。ここまで耐えるとはなんて頑丈さだよ。

 やがて氷の方が砕け散り、重さから解放されたフレイズが跳ね上がった。 そのタイミングで「グラビティ」を発動させた大剣を勢いよくそいつの頭上に振り下ろす。


「砕けろ」


 地面にめり込むような一撃を蜘蛛フレイズの体に叩きつける。ガキャアァアァン! と大音響を立てながら砕け散る蜘蛛フレイズ。ガラガラと粉砕された破片の中から、転り出した核をブリュンヒルドで三つとも打ち砕く。


「ふー……」


 なんとかなったな。以前と比べものにならないほど楽に倒せた。「グラビティ」様々だ。フレイズ本体には直接使えないのが難だけど。


「エモウ……ノナメネド……?」


 さっきの褐色少女が呆れたようにつぶやく。相変わらずなに言ってるかわからんが、驚いているのだけは表情からわかる。

 辺りを窺うと傷付き倒れた者が多数見られた。これはマズいな。


「ターゲットロック。半径500メートル以内の怪我人。キュアヒール発動」

『了解。ターゲット捕捉しましタ。キュアヒール発動しまス』


 倒れている怪我人の頭上に光の魔法陣が浮かび、柔らかな光が降り注ぐ。光を受けた怪我人の傷口がたちまち塞がり、治癒されていった。

 それを見ていた少女が倒れていた仲間に駆け寄っていく。


「けっこうあっさりと片付いたわね」


 砕けたフレイズの残骸から飛び降りた僕のところへリーンがやって来た。全くだ。以前苦戦したのが嘘みたいだ。

 リーンは散らばっているフレイズのかけらを左右の手に拾い、軽く叩き合わせた。次に力を込めてぶつけるとたやすく砕けてしまう。なにをしてるんだ?


「ガラス並みの強度しかないわね。この破片で武器が作れないかと思ったのだけれど」


 ふむ。確かにあの硬さの武器があればエルゼや八重たちにもフレイズ討伐が可能かもしれない。けれど、死んでしまうとここまで強度が下がるのでは素材の価値がない。ガラス細工の代わりにはなるか?


「そもそもなんであんなに硬いんだろうな、こいつらは。防御魔法でも使ってるんじゃ……」

「……それよ! 魔力による硬化魔法! この体に魔力を増幅し、蓄積、放出する特性があるとすれば……!」


 リーンはもう一度かけらを両手に拾い、その破片に魔力を流しながら、それらを強く打ち合わせた。ガキィィン、と澄んだ高い音が出たが、そのかけらが砕けることはなかった。


「やっぱりだわ。この材質は魔石に似た特性を持っている。しかもはるかに魔力伝導率がいい。術式転換がほぼ100%だわ。魔力によっての結合がここまでの強度を保てるなんて信じられない」

「よくわからん。かいつまんで話してくれ」


 リーンが難しいことを言ってるが、結局どういうことだよ。


「つまり魔力を流せば流すほど、この破片はそれを吸収して途轍もない硬度を生み出せるってことよ。しかも魔力を蓄積できるからたとえ欠けても自己再生する。蓄えた魔力が枯渇するまでね」


 なんと。て、ことは、これで鎧とかを作れば魔力が尽きない限り再生する超硬度な鎧ができてしまうわけか。

 逆に武器を作れば魔力が尽きない限り、破壊されない武器ができる。

 問題はかなりの重さがあるということだが、「グラビティ」を「エンチャント」できる僕には関係ない。

 ………………宝の山じゃないッスか。


「ターゲットロック。フレイズの残骸、破片も含む。「ストレージ」発動」

『了解。捕捉しましタ。ストレージ発動しまス』


 散らばっているフレイズの残骸、及び破片の地面に魔法陣が広がり、水に沈むようにそれらが消えた。回収完了。ちっ、そんな価値があるとわかっていれば、遺跡のやつや砂漠の奴も回収しといたのに。惜しいことをした。








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