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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第14章 ブリュンヒルド公国。
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#102 正体、そして事件の真実。

 ガッチャガッチャと音を立てて、剣を振りかざしながら僕の方へ鎧が迫る。


「光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン」


 光の槍が鎧を貫き、そのまま壁も貫く。鎧はバラバラに粉砕し、辺りに破片が散らばる。


《オノレェ……我が城を荒らス賊め、天誅を加えン……殺ス……殺スゥ……死にたく無けレばこの城から出ていけェエェ……!》


 どこからともなく部屋の中に声が響く。っていうか死にたく無ければ出ていけとか、ずいぶんと親切な悪霊だな。こういうのって大概は問答無用で、聞く耳持たないってのが定番なんじゃないのかね。


「おとなしく出て行けば僕らに危害は加えないのか?」

《そゥだ…出ていけバなにもせヌゥ……》

「断る」


 言いながら僕は先ほどと同じように光の槍を壁に撃ち込む。ガラガラと音を立てて壁に大きな穴が空き、雨がザァザァと降る外が丸見えになった。


《琥珀、珊瑚、黒曜、みんなに外に避難するように伝えてくれ。幽霊と戦闘になる》

《御意。奥方様たちはお任せあれ》

《こっちも了解よぉ〜》


 琥珀たちに念話を送り、さらに光の槍をぶっ放す。たちまち隣の部屋まで壁がぶち抜けた。メインの柱は避けて撃ち込んでいるので、天井とかがすぐに崩れる心配はないだろう。


《きっ、貴様ぁアァ! な、なンてことをするのだァぁあァ!》

「どのみちここは潰す。瓦礫にするんだから問題ない」

《そ、そんな……この城を潰す!? それは困りますぅ……い、いや、やめろおぉお! 呪うぞ、呪い殺すぞう!》


 なんかおかしい。悪霊にしては迫力が無いし、さっきから反撃らしきものがない。


「おい、幽霊。お前、本当に幽霊か?」

《ぎく。そ、その通りダァぁあァ! この城に取り憑いた幽霊なるぞぉおォ!》


 ぎく、って言ったよな今。言うか普通。


「ってことはこの城を完全に破壊すれば、お前は消滅するんだな」

《その通りだァァあァ! あ、ち、違う。違いますぅ! 壊しても消滅しません、し、しないのだぁー!!》


 完全にキャラが崩壊してるじゃんかよ。さっきまで怖がっていたエルゼでさえ、キョトンとしているぞ。


「おい、幽霊。お前は誰だ? きちんと説明するなら話を聞くよ? でなければ問答無用でこの城は瓦礫の山だ」

《……………………》


 幽霊は答えない。何者かは知らないが、この城に固執しているのは確かだ。話し合いの余地があると思ったんだが。


「話すことなんかないってんなら、ここを瓦礫に……」

《あああ〜っ! まっ、待って待ってぇ! わかりました、わかりましたからぁ! きちんと話をしますから踊り場の方へきてください……》

「踊り場?」


 ボロボロになった領主の部屋を出て、先ほど通った踊り場へと戻る。相変わらずエメラルドグリーンのドレスを着た女性の絵が飾られていた。椅子から立ち上がったその女性を再び眺める。……やっぱり大きいな。


「……あれ?」

「どうしたの?」


 いや、この肖像画……。そうだよ、これが殺人領主の奥さんなわけがない。さっきの肖像画と同じく、三回も領主がかわってるんだ。前の領主の奥さんの肖像画なんて飾って置くもんか。それにこの絵の女性……さっきは椅子に「座っていた」よな!?

 その事実に思い至ったとき、絵の中の女性が動き出し、額に手をかけ、それをを跨いで「こちら側」へ抜けてきた。


《うんしょ…っと》

「えっ、えっ、絵から人が出てきた!? ゆゆ、幽霊!?」


 エルゼがまたしても僕にしがみついてくる。正直、柔らかくて気持ちいいと感じるよりも、痛さの方が勝っているのでそろそろやめて欲しい……。


《幽霊ではありませんよぅ。私は魔法生物ですぅ。この「額」が本体でこの身体は幻影ですぅ》


 魔法生物? 魔法で生み出された生命体ってことか? 魔法によって仮初めの生命を吹き込まれたもの、ホムンクルスやゴーレムもそれに当たるんだっけか。でも額縁が?


「なるほど、確かにこれは幽霊と間違えられても仕方ないか。で? なんで僕らを追い出そうとしたんだ?」

《前にやってきた盗賊さんたちみたいにここを荒らされると困るからですぅ。私はこの額が本体ですから、これが壊されると消滅してしまいますから……》


 そういや盗賊たちがアジトにしようと何回か巣食っていたとか……。こいつが追い出したのか?


「で、次々と領主を殺したのもお前か?」

《ち、違いますよぉ! 殺してなんかいません! 一人目は元々病気で、いきなり夜中に死んじゃいましたし、二人目は単なる落馬事故ですぅ。三人目は領主さんとその奥さんが夫婦喧嘩を始めて、領主さんが刺されちゃったんですよぅ。ちょうどそこらへんで》


 と、言いながらエルゼのいるところを指差す。「ひいっ!?」と小さな叫びを上げながら、エルゼがバックステップで後ずさる。

 全員殺人領主の幽霊に殺されたわけじゃなかったのか。


《そのあとは誰もこなくなってしまってぇ。何回か盗賊さんたちがきて面白半分にお城の中を壊したりするから、私も「額」を壊されるんじゃないかって心配で……》

「幽霊のフリをして追い出した、と」


 「額」の女性はこくん、と頷く。


「だいたいお前、誰に作られたんだ?」

《私は古代文明時代に博士に作られた魔法生物の一つですぅ。あ、博士っていうのは女の人で、変わり者ですけど、すごい天才で……》

「……ちょっと待て」


 博士、女の人、変わり者、天才。嫌なキーワードがこれだけ並ぶと、もうあいつのニヤニヤ笑いしか浮かんでこないんだが。


「……その博士の名前は?」

《レジーナ・バビロン博士ですぅ》

「あの野郎!」


 正確には野郎じゃないけど! またか! なんだって面倒ごとを振りまいてやがんだ、あの博士は! しかもシワ寄せは全部僕に来るってのはどういうことだ!? あーもう!!

 ………いやいや、落ち着け。状況を整理しよう。


「お前がバビロン博士に作られた存在ってのはわかった。で、なんでここにいるんだ?」

《えっとぉ、私は長い間、お空に浮かぶ倉庫にしまわれていたんですけど、そこの管理人さんがドジな人でぇ、ある日…んーと、320年くらい前かなぁ、その人が倉庫の壁を壊しちゃったんですよねぇ。そのときに私や、他に何個かの魔法具が地上に落とされてぇ。運良く超低空飛行だったのと、下が雪山だったので壊れずにすんで……》

「…その倉庫って「蔵」か?」

《あれれぇ? よく知ってますねぇ?》


 まただよ。その時に「不死の宝玉」や「吸魔の腕輪」、「防壁の腕輪」とかも落ちたんだな。全ての元凶はそのドジ管理人か……なんとしても見つけ出して罰を与えねばな。どうやら「蔵」はまだ飛んでいるらしいし、そのうち行くこともあるかもしれない。


《「額」だけの私はなにも魔法の力が使えないので、登山者に拾われて単なる骨董品扱いで流れ流れてここに来たんですぅ。当時の領主さんが、亡くなった奥さんの絵を入れてくれたので、やっと魔法を使えるようになったんですけどぉ。この姿で夜中とかこっそり歩き回っていたら、だんだんその領主さんがおかしくなってきて……》


 そりゃあなあ。亡くなった愛する奥さんの幽霊が夜な夜な現れるんじゃな。おかしくもなるか。


《そのうち変な研究を始めて、城の中の人がだんだんといなくなっていくなあって思っていたら、騎士団の人たちが攻めてきて、領主さんは処刑されちゃいました。そのあと新しい領主さんが来たんですけど、どんな人かなって夜中に顔を見に行ったら急に動かなくなって死んじゃいました。その次の領主さんも私を見て馬で飛び出したっきり帰ってこなかったです。最後の領主さんはなんか奥さんが「浮気者! 女を連れ込むなんて!」とかなんとか言われて刺されちゃったんですよぅ》

「それって」

「言うな、エルゼ」


 何かを言おうとしたエルゼの発言を僕は止めた。全部こいつが原因じゃないかと僕にも察しがつく。初めの領主は亡き妻の幻影に惑わされ狂気に走り。その次の領主は弱っていた身体への驚きによる心臓麻痺、その次の領主は幽霊だと驚いて馬で逃げ出したことによる落馬、最後のはこいつを浮気相手だと勘違いした奥さんによる犯行。

 ……タチが悪すぎる。しかも本人はその意識がないときてる。


《どうかしたんですかぁ?》

「いや……。それで話を戻すけど、この城は取り壊す」

《えええっ!? 酷いですぅ!?》

「話は最後まで聞いてくれ。その代わりもっといい住処を提供する。そこでなら安全だし、自由に暮らせる。どうだ?」

《本当ですかぁ!? それなら文句はなにもないですけど……》


 よし、交渉成立。さっそく絵の中に戻ってもらい、額縁を外す。そういや最初の領主以外、よく捨てられなかったな。普通、前の領主の奥さんの絵なんて飾っておかないと思うが。


《何回か捨てられそうになったんですけど、なんかこの絵を描いた画家が有名な人だったみたいで、価値が上がるからとかなんとか言ってましたねぇ》


 なるほど。美術品としての価値は高かったわけか。だったらこの絵は外して売ってしまうか。僕も殺人領主の奥さんの絵なんか持っていたくない。代わりになんか別の絵を入れれば問題ないだろ。

 玄関の方に戻るとみんなが集まっていた。とりあえずざっと事情を話し、幽霊の正体を明かす。古代文明の遺産とはいえ迷惑なこと甚だしいが、今さら言っても仕方が無い。

 問題は片付いたわけだし、さっそく「ゲート」を開き、城ごとブリュンヒルドへと転移する。さすがにこれほど大きな転移は初めてだったので、ちょっと不安だったが、問題は無かった。

 そのあと「工房」へ行き、ロゼッタと話すと、まだ材料が足りないらしい。主にガラスとか布類、あとは少しの木材だが、ここらへんは必要経費として自腹を切るしかないか? ガラスあたりはどこか廃材置き場で使えそうなのが調達できそうだけど、布地とかはやはり新品の方がいいかと思うしなあ。分解して再構築するっていっても限度があるそうだし。


「それらが揃えば少しずつ材料を「工房」へ転送させて、再構築しながらデータ通りに現場に組み立てていくでありまスよ。そういえば場所はどこにするでありまスか?」


 やはりこういうのは国の中央に、ということで、真ん中あたりを指定した。ブリュンヒルドの地形は起伏があまりない。それだけに開拓しやすいともいえるが、今のところ城を建てる以外に予定はないし、真ん中でも邪魔にならないだろ。問題が出てきたらまた城ごと転移してしまえばいい。

 材料さえ揃えば三日ほどで完成するというし、頑張って残りをかき集めるとするか。







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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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