白き鞘の黒き剣
遊森謡子様企画の春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
詳しくは⇒http://shinabitalettuce.xxxxxxxx.jp/buki/index.html
この戦いの始まりは、もう歴史の闇の中に埋没されて何時どうして起きたのかも定かではない。
いつ始まったか分からないこの対立は、いつ終局を迎えるのだろうか?
単色の一族と混色の一族との諍い。
絶対的な全能の力をもつ単色族。
力は非力なれど単色を凌駕する繁殖力と非力ゆえの英知を持つ混色族。
終わりのない戦い。
大地は血に染まり焦土と化す。
かつては極彩色に輝いていた大地は、戦いの度にその彩色を失っていった。
今、この瞬間にも両者の対立は始まり何方かが死滅するまでその戦いは終わらない。
場違いの様に軽装な姿で彼女はそこに居た。
白き髪、白銀の瞳、白い薄手の長衣。
清楚な聖女か巫女の様な出で立ち。
「私は、とても無力で非力なんです。 貴方方を苦しませずに屠る力を持ち得ません。 故に、"彼"に皆様のお相手をして頂こうと思います」
眼前の混色族の兵士を見据えて、虫も殺せぬ無垢な笑顔で彼女はそう声を張り上げることなく言った。
彼女の宣言の直後、彼女の前にゆらりと忽然に現れる黒き影。
単色族、最強二大色が一色の黒を纏し者。
黒き髪、黒き瞳、黒い鎧。
その髪は、戦場の熱気で起きた風で煽られ逆立ち、その瞳は、深淵の闇のように暗く狂気をはらみ、その鎧は、幾多の血を吸ったにも関わらず不気味に黒々と鈍い光沢を放っている。
「さぁ、私の"剣"。 貴方の犯す全ての罪は、私の罪。 全ての咎は私が受けます故に・・・・・・存分に」
その言葉で、黒き物体は歓喜と狂喜を織り交ぜた瞳を瞬かせ眼前の敵陣へ単身で突撃を開始する。
阿鼻叫喚
黒き青年の人形が解けて黒き獣化す。
混色の兵士が犇めく敵陣を黒き獣が、縦横無尽に駆け巡る。
通常、人には有り得ない異様な爪と牙を躊躇いもなくまた慈悲もないままに振るう。
獣が走り去った、後には血と肉塊が転がるのみ。
血煙がたち、当たりは鉄さびた臭いが立ち込める。
怒号と悲鳴、狂気と狂喜
声は唸り、混じり合い、地の底から響くえも言えぬ恐ろしげな声となりその場に響き渡る。
その光景を彼女は目をそらすことなく、その光景全てを焼き付けるように見つめていた。
いつしかその場に静寂が訪れる。
気が付けば、黒い獣が音もなく傍らに現れ彼女に寄り添った。
甘えるようにその頭部を彼女にすり付ける。
彼女は、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら膝を折り通常より大きな体躯の獣にそっと抱きつき労わる様にその毛並みを撫ぜた。
撫ぜるたびに彼女の白い肌と衣装は赤黒く染まっていくが、彼女は気にする素振りもない。
「お疲れ様」
ただ一言、囁く様に彼女はそう声を発した。
『泣けばいい、ここには我以外誰もおらぬ』
彼女にしか聞こえない声。
彼女が、唯一甘えられる者が持つ声。
とても愛おしい者の声。
彼女は獣の血濡れた毛皮に躊躇いもせず顔を埋める。
気遣わしげに獣が体を揺らした瞬間、彼女は黒を纏う青年に抱きしめられていた。
『溜め込むのは体に良くない』
彼は、彼女の精神をこれ以上壊させないが為に感情の発露を促す。
彼女は驚くことも抗うこともせず、彼の腕の中に収まり、其の広い胸に顔を押し付けた。
震える肩を背を優しく労わるように無骨な手のひらが撫ぜ、声を上げずに泣く彼女を彼はその腕に深く深く抱きしめる。
本来なら彼女は、単色族の城の奥深くにて大事に育てられ守られるべき存在。
どこで運命の輪が違えたのか、彼女は戦場を転々とする。
それは、白の彼女が、黒の彼を従えることが出来てしまった故に。
それだけの理由で彼女は、守られる側から強制的に守る側に立たされた。
手にした力の強大さ故に、戦場で彼女を守る守護兵を与えられず、彼女と彼、2人で最前線に立たされることはもう1度や2度ではない。
其の現状はおそらく彼女が生き絶えるまで変わることはないだろう。
彼女は、この戦場を高みから指揮する単色族上部の者たちからしてみれば戦局を有利にするための一駒で消耗品でしかないのだから。
戦場はおろか、血など見たこともなく、虫をも殺せぬいとか弱気深窓の姫の一人であったハズなのに。
初陣の時、気を失わぬように強制的に投与された薬故に戦闘終了後彼女の精神の一部が壊れた。
普通の精神を持つか弱き婦女子ならば、恐れ怯え恐慌状態陥り精神が崩壊してもおかしくない。
だが彼女は、無垢な笑顔を浮かべて戦場を見つめる。
戦場を血潮を浴びながら縦横無尽に駆け巡る美しき黒き獣をうっとりと、純粋な狂喜を孕んだ瞳をして。
ただ、時々戦闘が終わった後ほんの少しの間だけ正気に戻ることが有る。
人前で泣くことが許されない彼女は、こうして誰もいない戦闘終了直後彼の腕の中でのみ声を殺して泣く。
彼は、彼女がとても愛おしかった。
誰かに奪われるのが嫌だった故におろかにも彼女と契を結び彼女のモノとなり、彼女を地獄に叩き落とした。
共にいられることの暗い喜び、彼女を死地に立たせる罪悪感。
戦場で狂った彼女が自分に注ぐ熱い視線が、自分を興奮させて甘美な狂喜の坩堝に追い落とす。
彼は、腕の彼女の頤をそっと持ち上げその血まみれた小さな顔に色鮮やかに咲く花の様な赤く色づく唇に深く口付けを落とす。
何もかも飲むこむように貪るように、戦の興奮を覚ますために。
彼女は、彼の白き鞘 彼は、彼女の黒き剣
終りなき永久の戦。
その舞台で彼女と彼は、その狂宴の幕を上げつづける。
その命が尽きるその時まで・・・・・・
リハビリがてら、企画に便乗させていただきました。(かなり短い短編ですが・・・・・・orz)
微妙?に、テーマ添えていないようなそうでないような、少しズレているような気がしますが(滝汗
少しでもお楽しみいただけたなら幸いです!最後まで読んでいただきありがとうございますw