74、ちょうど3時に!
「茂夫さん、今日、3時ちょうどに帰ってきてね!」
3月も中旬が終わろうとしていた。僕が朝出かけようとしたところに、急いで走ってきた良子がいきなりそう言った。
「3時ちょうど」って、変な待ち合わせ方・・。
「早くちゃいけないの?」
「うん、早くてもダメ! 丁度、丁度に帰ってきてよ! 早くっても遅くってもダメ!」
でも、良子はちょっと考えて思い直したように言う。
「5分ぐらいだったらいいけど・・」
誤差たった五分以内??
やたらに厳密な待ち合わせ時間だなあと??な気分。
良子がこういう変なことを言う時は、僕をビックリさせようと何か準備しているときなんだよな・・。
甘んじて乗ってやるのが夫の勤め ・・ と思って納得する。
「じゃあ行ってくるね。」
「はあい!」
良子、いつになくにこやかな気がする。
部屋を一歩出て、アパートの二階の廊下よりこの街の様子を眺める。
もう、春の雰囲気が街全体を満たしている。
この街で迎える最後の春なんだよな ・・
センチメンタルな気分に浸る。
僕はカンカンとアパートの階段を下り、バイク置き場に歩いていった。
・・・・・・・・・・・・
さて、少し話は戻るが、この間、大学の合格発表があった。
そして良子は見事に大学に合格した。
大学のHPで合否をチェック!
「あ、ああ、あ ・・・ あった ・・」
ばっちり、良子の受験番号が合格者の受験番号の中に入っていた。
横にいた良子はバッと僕にしがみついたと思ったら、泣き始めた。
「茂夫さーん、大学生になれるんだてー! ・・うぇーん。」
「よく頑張ったね! すごいぞ良子!!」
「ふんん、茂夫さんのお陰だよー。」
いや、やっぱり頑張ったの良子でしょ ・・ と、思うのだが、そう言っちゃうと、経験上エンドレスにお互いに「なすりあい」が始まるので、グッと我慢する。
良子も泣くのを止めて、次僕がどう言うか出方を伺っている。
お互いじーっと見つめ合い、いかに相手のお陰であるということを納得させるか、見えないところで、つばぜり合い ・・・。
しばらくそんなことやってたけど、おかしくなって、二人ともブーッと吹き出す。
そしてギュッと抱きしめ合って、そこはおしまいになった。
・・そうか、良子、来年から大学生か ・・・。
良子を抱きしめながら、僕自身、その現実を噛みしめて顔がほころぶ。
思い返せば、初めてここに来た時の彼女。暗くて表情のない、一人では外に出ようとしない娘だった。
今の良子からすれば、想像も出来ない状態だった。
中学校からろくに学校に行ってない彼女が、
・・ 今年、大学生になる。
きっとこれで、今までの自分にしっかり区切りを付けて、大きく飛び立てるだろう ・・ 。
いつの間にか僕の腕から抜け出た良子は、合格した!合格した!って言いながら、自分と一緒に踊れといって、手を引っ張って跳ね回った。
ちょっと、こんなアパートの二階でそんなに暴れたら、下の人に悪いったら!!
・・・ こんな彼女になってしまったのだ。絶対上手くいくだろうって確信が持てる。
・・・・・・・・・・・・・
話は戻るが、その日はホント変な日だった。
朝は良子が出がけに、急に3時ちょうどに家に帰るように変な約束強要するし、学校に行ったら行ったで、
「せんぱーい、今日は早引きしますね!」
とかなんとか言って、研究室のみんな一人残らず、昼ご飯が終わると共に帰ってしまった。
残されて呆然と立ちつくす。
すると後ろから掛けられる声。
「ああ、大田君、私、先に帰るから ・・。」
あれ、先生も?
何なんだよーみんな ・・。
一人ポツンと残った僕。
寂しく片付けをして、丁度三時に家に着くように学校を出た。
3時5分前にバイク置き場に到着。どうせだからと、ドンピシャ3時に帰ってやろうと、時計を見て調整。
「一斉のせ」で鍵を開けて家に入る。
「良子、ほら、ちゃんと三時に帰ってきたから!」
「はーい」
いつもなら飛んで出てくるのに、声はすれど姿は見えず。
「良子、何してるの?」
部屋に上がり、ふと覗くと・・
1Rの小さな部屋の真ん中に、真っ白なウェディングドレスに身を包んだ、天から降臨したおとぎの国のお姫のような良子が立っていた。
え?
真っ白のドレスと同じように色白な彼女。ピンクの小さな唇、恥ずかしそうに伏せる彼女の大きな二重の目は、何とも言えない優しさを湛えている。
夫の僕が言うのも何だが、良子はとってもスタイルが良い。だから、ふわっとしたお姫様ドレスが、とっても似合う。
清楚さと女性的魅力が一つになっていて、その美しさに僕は呆然と見とれることしか出来なかった。
しばらく何も言えない。
「茂夫さんたら、そんなに見つめると、ちょっと恥ずかしいよ ・・。」
「え、ああ・・」
そしたら、ガチャガチャとドアが開いて、お袋が上がり込んできた。
「え?何?!、なに?!! ナニ??!!」
「茂夫、帰ったね! 何つっ立ってんだよ。荷物おろして、これ着な!」
がばっと僕の前につきだしたのは、タキシードだった。
「いきなりなんだよ。」
ニヤっと笑うお袋。
「これから、おまえ達の『披露宴』するんだよ。」
え?って良子の顔を見ると、赤くなって少しうつむいて上目遣いになってる。
「そうなんですって ・・。」
良子がそう言う。
「さあ、これ、ほら何してんの!」
僕然としている僕に、着せ替え人形よろしく服を着せるお袋。
僕はされるがままに、礼服に着せ替えられていった。
あれっと思ったら、うちの親父も弟たちも篠崎のお義父さん、お義母さんもアパートの外に待っている。
どうも知らなかったのは僕だけみたいで、あとは家族で何もかんも段取り出来てるみたい。
着せ替えられた僕とウェディングドレスの良子は、タクシーに押し込まれて「護送」された。
着いたところは、街一番のホテルだった。
玄関のところにプレートが立っていて、「大田家・篠崎家」の名が読める。
大きなホールに連れて行かれたら、なんと先に帰って行った研究室のみんなも、スタッフとしてクルクルと動いていた。
「なんだよ、みんな!」
「あ、先輩、来た来た。」
「さ、新郎新婦さんはこちらですよ・・。」
村上さんが僕らを行くべきと頃に案内する。
僕と良子はそれぞれの控え室に連れて行かれ、そこで呼ばれるまで待つそうな。
ホテルのスタッフらしき人が、着付けのチェック。
にわかに舞台裏が慌ただしくなり、本番が始まろうとしている事を告げる。
いきなり、こんなところ連れてこられて、こんな緊張するシチュエーションに投げ込むなんて、だれだ、こんなの考えついたの!!
ココロの中でそんなこと叫んでいた。
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