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1Rの花嫁
作:秋風



21、ココロに刺さった棘


良子さんの学校訪問からしばらく経ったある日のことだった。
その日も特に変わりなく一日が過ぎていた。


それにしても、彼女が学校に来てから、誰彼ともなく、
「大田さんはどうしてる?」
と聞かれるのには、参っている。
皆一様に、彼女が気になってならないらしいのだ。

初めはその度ごとに、良子さんは僕の奥さんだと話していた。でもそのうち、みんな本気にしないばかりか、すべったネタに固執する、売れないコメディアンみたいな目で僕を見るようになった。
寒いというか、うっとうしいものを見るような、冷た〜い眼差しを向けられるのだ。

いやそればかりじゃなくって、酷いことに、小林には説教までされた。
「大田、お前と俺とは入学以来の付き合いや。一緒に飲みに行ったり、遊びまわったりしたやんか。俺はお前の裏の裏まで知っとるんや。
で、お前に女っ気なんかあったことあるか!ないやろ!!
それがやで、いきなりえらい美人連れて来て、しかもまだ学生の分際で、『僕の奥さんだ』とかぬかして、誰が信じると思うんか?人をバカにするのも程ほどにしいや。は?

いや、そうか! お前も彼女に気があるんか!!
なんや、そうか。そやったら、話は早い。正々堂々と俺と勝負したらええやんか!な!
ええか、俺はお前を、卑怯なダチに育てた覚えは無い・・もう変なこと言うて、卑怯な手使って、大田さんを自分のものにしようとしたら、あかんぞ! ええな!」

 
なんのこっちゃ。

・・・しかし、僕らのペア、そんなにありえないか??

ブーたれながら、一人再結晶に勤しむ。




そしてその日も変わりなく、ブーブー言いながらも、それなりに、平和のうちに閉じるはずだったのだが・・・。

しかし、この日に限っては、それでは終わらなかっ・・・た。



僕は学校での事を終え、家路に着こうとしていた。日は落ちて、夕闇があたりを紺色に塗りつぶしていた。
いつもの様に階段を下り、通常玄関よりバイク置き場に出て行こうとした時、不意に後ろから呼ばれた。
「大田先輩!」
はっと振り向くと、村上さんが立っていた。
村上さん何してるんだろう・・・。
彼女、コツコツとヒールの音をさせて、僕のほうにやってくる。
今日は、何時にも増して決まっている彼女。

「先輩、今日、用事ないですよね!!」
なんで、君がそう言い切れる?とも思うが、確かに特に用は無いので、ああ、と答える。
「じゃあ、今日、この間のこと教えてください!。」
この間のことか・・、
良子さんとスーパーのクリアランスに行って、村上さんと出くわしたんだっけ・・。
あのときの苦い思いがよみがえる。

・・村上さん、院試のことについて相談があるって言ってたんだった・・・

確かに院試まで、そう時間が有るわけではない。今日は仕様が無いか・・。

「分かった、どうする。研究室に戻る?」
「いいえ、いいところがあるんです!」
急に嬉しそうになった彼女。僕を連れてどこかに行く。

連れて行かれたところは、ムードのある喫茶店だった。

薄暗いライティング
ブラウンを基調にした店内の装飾
周囲にはひそやかに語り合う恋人達・・

ここって、仲良しさん達が来るところじゃないの??

僕は焦って、村上さんに尋ねる。
「ねえ、こんなところで話できるかなあ?」
「大丈夫です。・・・・」
そう言って、適当に飲み物を注文して、院試について、出題傾向や注意点などについてヒソヒソ話す。大声で話せない雰囲気なのです。

村上さん、こんなおしゃれなところがとても似合う。
決まった服装、センス良いのが僕みたいな良く分からん人間でも分かる。
綺麗な長い髪、パッチリとした目、素晴しいプロポーション。
なんかバイトで、テレビにも出ているそうだが、映り栄えするだろう。
・・・まあ、テレビに出てる姿、僕は見たこと無いけど・・・


しばらく話していいるうちに、話している僕自身が、過去問が出回っているのに、今話してること、改めてすることないんじゃないかと思う。
しかも、こっちが話していても、彼女ったら、待ち伏せして捕まえてまで聞きたかった情報のはずなのに、あまり反応しない。

「あのう、こんな話で良いの?」
あまりに反応が無いので、別に聞きたい話ではないのかと思って問いただす。

「ええ、いいです。・・・・」
ああ、そうなのか・・・

と思ったとき、彼女、パッとこっちに向き直って言った。
「で、この間、先輩と一緒に来た人、綺麗でしたね・・・。」

僕、ギョッとする。
なぜそう来る。

「あ、ああ、そう、そうかなあ・・・。」
「ええ、すごく綺麗だった。・・・・なんか、ヤキモチ焼いちゃった。」

ヤキモチって、何個焼いたの? とか聞いたら、しばかれるだろう。
え?ええ?? なんで、良子さんが綺麗だったら、ヤキモチ・・なんだろう・・・?

「その人に、絶対に変な気起こさないでくさいね。わたし怒りますよ!」

ますます分からん・・・。

村上さんに怖い目でにらみつけられて、そして、フフって笑われた。
「じゃあ、ありがとうございました。」
何に感謝されたのかこれまた分からん。ほとんど話し聞いてなかったようだったのに。

かくして、僕は村上女史の手から開放された。



頭の中に????を巡らせながら、バイクを走らせる。
それにしても、大分遅くなった。
また、良子さん、心配して青くなってなければいいが・・・。

急いで部屋に向かうと、果たして、準備した料理を前に、しょぼんと座っている彼女が待っていた。

「良子さん、ごめんね・・。」
「あ、茂夫さん・・・。」
「心配させちゃったね。」
「いえ、大丈夫、大丈夫!」

明るく返事するも、無理しているの見え見え。外の世界をまだほとんど知らない彼女。外に出るのに以前ほどではないにしろ、すごく緊張の高いのである。
だから、僕が外からなかなか帰って来ないと、自分では手の届かない、どうしようもなく遠くに行っちゃったみたいに、感じるみたいなのだ。
だから、帰りが遅くなると、僕が考えられないほど心配する。
それに、うちの電話は僕の携帯だけだから、こっちから家に連絡できない。ただ待つしかない彼女のために、僕はよっぽどで無い限り、時間通りに帰ってくることにしている。

今日は、1時間半遅れ・・・・いつもからしたら、かなり遅くなった部類に入る。相当寂しかっただろう・・。

  
帰りが遅くなったのは、他ではない、僕が村上さんに付き合ったから。
・・・言い知れない罪悪感。
彼女にそのこと話そうと、のどまで言葉が出かけた。しかし、こと相手がデパートでひと悶着起こした、張本人である村上さんとなると、彼女、どんなに辛い思いするかと思う。
・・・うーん、話せない。

それに、そもそも、こんな嫌な気分の原因を作ったのは、僕の優柔不断さなんだよな・・・。
・・後悔。


帰ってから、暗く沈んでいる僕。
その様子にびっくりして、今度は良子さん、あれこれと元気付けようとする。どうも、自分が寂しがっていたのが、僕を落ち込ませたと思っているらしい。
違うんだ良子さん!

「茂夫さん、大丈夫だから。心配かけちゃってごめんね。元気出して・・。」
僕の胸がズキズキ痛む。
良子さん、色々試みるも、どうしてもうまくいかないので、今度は自分がウェットな雰囲気になる。
今度は僕、これはイカンと、僕、気持ち振り切って、明るい声で答える。
「良子さん、大丈夫。君のせいなんかじゃ絶対無いよ。気にしないでね。」
でも、にわかには納得できないみたい。どうなのかしらって感じの眼差し。

焦る僕。
彼女がその僕の顔を、覗き込むように見つめる。


そのまま、そのまま・・・・。


まだまだ、そのまま・・・・・・。


何時までも動かない。


「グウ」
と僕のお腹が鳴る。

良子さん、ハッと夢の中から目覚めた様。


僕、ブッと噴出す。
彼女、ウフと噴出す。

噴出しちゃったら、いっしょにアハハって笑って、なんだか、まあ良いかなあということになった。


「茂夫さん! ご飯にしましょ。」   
「うん、腹へった。」

    
彼女の心を込めて準備した、素晴しい夕飯に与る。

・・・なんだか、ごまかしてしまった。

でも僕のココロは、村山さんのことが引っかかって、疼き続けていた。  
      

ココロの疼き・・
ちょっと動くとズキ、ちょっと触るとチクッ。
棘が刺さったみたい・・・。


これが、これから僕らを襲う、一連の大嵐の予兆だなんて、
考えてもみなかった・・・。

         
         












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