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フレンドリーファイヤ

作者:きじまじん
「おーっす」
「よろー」
 マイクとイヤホンと元気な相棒、目の前には見慣れた箱と美麗なCGグラフィック。ガキは寝こける午前五時、アメ公のサバならこんぐらいでも丁度いい。
 ひとゲーム十五分の殺し合いが始まる。俺のキャラはボックスフロッグ。ランチャーの箱撃ち(ナパーム弾でエリアに筆箱状の焦げ跡)が得意な弾けた蛙で、走れない代わりにビルに貼りついて移動できる。移動力と火力の配分は2:5で、どっちかっつーと固定砲台。芋スナじゃねーよ、ぴょんぴょん跳ぶから隠れてらんない。
 相棒はピンクの兎、ファニーラビット。走りながらリロードできる特性を活かしてリボルバー式ぐれね~とランチャーをぐるぐる回す。チームのコンセプトはボマー。モンロー効果にゃ頼らない古風なミンチ製造機だ。
 相手チームは片方が空挺フォックスでもう片方がブル剣士。狐と牛。狐野郎はそこそこ速くて落下ダメージがないフルオートライフル。戦闘開始から十分経つとコブラを呼んで手が付けられなくなるが所持弾数は少なめ。牛は当たり判定がいじくられてるメタキャラで、正面からの弾丸は鎧で弾かれ、横からは「角」で弾かれる。おまけにナイフキル無効で市街戦に強いときてる。ヘッドショットが定まらない初心者泣かせだが、大雑把にぶっ飛ばす俺たちにとってはむしろ戦いやすい。移動力とジャンプ力がさほどでもないからだ。
 狐牛は典型的な「蛇待ち」バディだ。中盤までの十分を狐が逃げて牛が守る。
「当たったことある?」
「蛇待ちはねーわ。めっずらしいよ」
 このゲーム、「フロッド・バトルロイヤル」で一番人気はやはりチキン、ついで象やペガサスなんかの戦車キャラだ。人間使ってトラップ極めるのも流行ってる。こっちの蛙兎は初心者から中級者向けのありふれた火力バカップルなので、向こうさんからしたら慣れ慣れでつまんねーかもしれない。
「どっち狙う?」
「牛だろ。コブラ落とそうぜ」
「だよな」
 攻撃ヘリの威力はやばいので勝ちに徹するならやっぱ狐狙いなんだけど、せっかくだからヘリと戦いたい気持ちのが大きい。
 マップは「ボックスロス・アンジェルス」。無節操な摩天楼と攻撃的なNPCが球面の内側に隙間なく生えている。ステージの中心に浮いてる特設ステージにはランダムで動物のロックスターが踊ってて、時折天使が光臨して黙示録的なろくでもないマップ兵器をばらまいていく。マクロスみたいに歌いながら。
「牛何処じゃー!」
 蛙はいつもみたくビルに貼りついて兎の報告待ち。兎は索敵しながら無節操に「ぐれねーと」をばらまいてビルを障害物に変えていく。狙うは一区画に牛を閉じ込めてのナパーム焼殺。手慣れた兎は狐を追いかける振りをして牛をおびき出そうとしてる。
「あ、くそ!」
 げ、兎が落ちた。
 すかさずバディカメラで殺され方を確認する。――うげ、言い訳の利かないスレ違いざまの「走り負け」だ。ビルひとつ隔てて並走していた狐に「必死(HP減らして移動力を上げる兎のアビリティ)」決めて先回りしてどんぴしゃだったはずなのに、そのどんぴしゃのところに牛がぼんやり刀を構えてガードしてやがった。で反撃でドボン。
「すっげー好戦的じゃん」
「何処が蛇待ちだよ。戦車でやるべきカウンターだろ」
「いや、待ちガイルよりゃ緊張感あんだろ。コブラまであと八分だぞ」
 俺はビルの屋上に飛び上がって兎のロストポイント周辺に向けてナパーム投下。球体の内側をぐるぐる走るこのマップの重力はカスタム仕様。着弾地点と重力方向をセットしないと長距離狙撃は成立しないが、うまくやっちまえば側面からでも「上」が取れちゃう酔っぱらいマップだ。そこそこ慣れても一瞬ロスる。ナパームの範囲に牛は巻き込めたが、狐は逃した。
 ――牛が落ちた表示は出ない。ナパーム一発ぐらいじゃ死なないか。
「弾頭変えろ」
「いや、変えねぇ。二発で死ぬだろ」
 ナパーム絨毯の攻撃範囲は学校のグラウンド4かけ4ぐらいはある。牛の足なら撃ち続けてりゃ逃げられまい。ビル影で「がれき」の散弾に埋もれてもよし、顔から焼け落ちるもよしだ。
「狐がこっち来たぞ」
 球面の「ここから見た上方」、ビルの屋上をサーカスみたいな動きでかっ飛ばしながら狐がこっちに向かってくる。いつもならビルの死角に隠れるところだが、今回は逃げるのなし。牛と心中だ。守ってくれよ白兎。
「ぶっ殺す」
 ガンギマリの目をしたクレイジーラビットが俺の陣取る東エリアに入ってくる。狐は少し遅れてこっちの射程圏内に入る。一瞬牛から標準を切り替えたくなったが、それがあちらさんの狙いだろ。我慢、我慢、がまんがまんがまん。
「よっし」
 牛が落ちた。これでいちいち。狙い通りに牛を削れたのもでかい。
 すぐさま自衛に切り替える。射撃を止めて「昇天(HP減らして跳躍力を上げる変えるのアビリティ)を使い、ビルの屋上からハイジャンプする。――くっそダサい「君はもういない」系のボケロック垂れ流してる特設ステージをついでに荒らしつつ途中で重力切り替えて反対側のビルの屋上に――
 牛がいる。
「うっそだろリスタートはや」
 言ってる間に大股開きの蛙の股が真っ二つにされる。マンガみたいな切り上げ。野郎狙ってやがったか。
「ジャンプ読まれてんじゃねーよ」と兎が爆笑しながら狐とガンカタしてる。相手のが動きは上だが、リロード気にせずボコスカビルを倒壊させまくる暴れ兎はレバガチャ初心者よりも危険だ。
「このマップで大ジャンプはロマンだろ」
 速く次のリスタート位置を――
 速く……。
 あぁ、
 ダメだ。
 余計な音が聞こえてきやがる。ファンファンファンファンファンファンファンファン。


  ◯

 佐陀の家でご両親の遺体発見、本人未だ逃走中。
 父親が流してたらしいマカロフ数挺と弾丸数百発が金庫から消えている。長男彦一は行方不明で生死不明。でも昨日の朝、俺と一緒にバディ組んで狐牛と戦っていた。
 アカウントがいつもと違うからおかしいとは思っていたのだ。佐陀の家から百キロ離れた渋谷のどまんなかからの接続。アカウントの持ち主は佐陀家で使われたのと同じ線条痕のマカロフで死亡。とネットニュースに出ていたが、マカロフの線条痕なんてどれもマカロフだろとテンパった頭に妙な笑いが浮かんでくる。
 靴を履いて外へ。
 ダッサイ原付はどんなに改造しても七十キロが限界で。生まれ育った海沿いのドライブウェイをタラタタ走ってダラダラ走って、兎の百分のいちぐらいグダグダ動いてようやく着いた一軒家は、俺と佐陀が佐陀の親父を尾行して調べた銃器の保管場所。見える範囲に人はいない。塀を乗り越えて侵入。勝手口に回ると裸のねーちゃんがネギ刻んでいたからスタンロッドで黙らせる。
「丸腰で早起きしてんじゃねーよボケ」
 スピード勝負。メット被って分厚いコート着てるからナイフも怖くない。と言い聞かせながらチビのチンピラを制圧。手入れ中のマカロフが女の下着と一緒にリビングに転がってたからちゃっちゃか組み上げる。弾丸もどうせそこらへんに転がしてんだろうと思ったが意外にも見つからずにロス。倉庫の奥で箱ごと見つけた時にはけたたましい携帯の音が窓越しに聞こえてきたからトンズラかます。
 これで装備は同等。
 やるなら朝。フィールドは樹海。サバゲーで有名なミナ湖岳麓にらしい設備がある。どっかの企業が最近買い上げたらしいけど有刺鉄線なんかじゃ俺たちを止められない。警備員がいたらどうしようか。迷ってる。俺にはクリーニングまでする理由がない。佐陀とやりたいだけなのに。
 ――佐陀とやりたいんなら、しょうがねぇか。
 マカロフに物を言わせて、たぶん一人でキャンプにでも来てたんだろう無害そうな寝起きの兄ちゃんを制圧。テントのワイヤーで手足を縛ってみたはいいものの騒がれて迷惑する。
「何がしたいんだよ!」
 言っても分かり合えないから言わない。それが俺と佐陀に通底している常識。うまく言葉が通じない。反応が遅い他人を待つことができない。テンポが悪い奴は殴りたくなる。分かる問題で手を挙げない連中や分かり切ってることなのにぺちゃくちゃのたまう連中を許せない。世が世なら、場合が場合なら、俺たちはもっともっとつまらない不良にしかなれなくて、アンパン吸って今頃更生施設で人生について語り合ってるんじゃないだろうか。
 ――気配。
 わざと立てられたザクザクという土の音。テントを出るとやっぱりいる。サイズのあってない服を着た少年。毎日部活でばかみたいにぴょんぴょん飛び跳ねてるスポーツマン。いつかぶっ殺してやると言っていた陸部の顧問、せっかくだから殺しとけばよかったのに、あいつが殺したのは胡散臭い両親と名も知らぬアカウントの同士。
 平和主義者や動物愛好家が見たら卒倒するような世界の戦友を。
 巻き添えにしたのはどういうわけだろう。
 毎朝毎朝撃ち殺してるのはどういうわけだろう。
「朝っぱらからさ」
「何してんだろうな、俺ら」
 撃ったのは俺が先だが俺が撃つことは向こうも分かっていたらしく木の影に隠れてやり過ごされる。映画でもゲームでも見慣れた仕草が本当に目の前でこなされている。俺はテントの影から反対側に走りぬけようとして躊躇。たぶん正しい兎の直感が、佐陀がテント越しに狙ってくることもまた告げている。出たら危険じゃなくて出ても出なくてもやばい。だったらこっちが先にテント越しに撃つ。
 撃ってから中に人がいることを思い出すが、伏せてりゃ大丈夫だろと兎が笑ってる。バックスバーニー。あいつはほんとにいいやつだ。ってそりゃ違うキャラだろなんて自分突っ込みしてるうちに四発目が勝手に飛び出してる。やばい、全然狙えてない。これ以上牽制に弾は使えない。これだけ弾数に差が出た以上、佐陀はリロードの瞬間を狙ってくる。
 だからこそ今は慎重になるはず。一気にテントを抜け出て木立まで走り抜ける。銃声――当たってない。残弾いくつだっけ。くっそ、マカロフの弾数なんてよく考えりゃしらねーよ。ロートル過ぎてゲームに出てこねぇもん。
 どうすっかなぁ。どうすっかねぇ。いつもの癖で声に出しちまって場所がバレるとか、気にしてるけど、そんなハイレベルの戦いじゃない。とっくにバレてる。互いにビビってる。メット被ってようがコートが分厚かろうが銃は怖い。銃だけは怖い。なんで俺はこんなことやりたがってるんだろう。る? たじゃなくて。過去形じゃなくて。
 テンパッてる間に頭のどっかでFPS脳が目を覚ます。
 佐陀のもたぶん動いてる。二発目の銃弾。あいつは裏とりするべく坂の上から弧を描いて回り込んでる。だって俺でもそうするもの。ビビってる初心者は裏取ってりゃ狩れる。
 でもそんな俺のミスをFPS脳が伏線に置き換える。
 兎のようにはいかない。走りながらリロードなんてできない。よく思いだせ、弾丸を装填したのも俺だろう。――くそ、もやがかかってる。こんな時に活かせなくてなんのためのゲームだ。
 でも。裏取るんならどうせそこだろ。
 そこの、まるで蛙みたいに股広げたぶさいくなケヤキの右から出てくるんだろ?
 銃口を構える。当たるわけないと分かってる腕と当たるに決まってると知ってる脳が食い違う。ひどく、痛む。裂け目があまりに大きすぎる。分かり合えない。思考は速すぎる。体は遅すぎる。
 ――うんざりだ。
 殺してや――
 佐陀は。
 二股の、腐りかけのケヤキの股を蹴りつけて。
 蛙みたいに飛び出してきやがった。
 銃口は俺に向いてる。でも、怖さはなかった。
 佐陀の奴、ふざけて笑ってやがる。
 ハイジャンプしてみたくなりやがったんだろ? ――ばーか。
 俺の腕が別人みたいに速く動いて、佐陀に標準を合わせた。
 引き金を引く。
 ちゃんと頭を狙ったはずが、弾は佐陀の腰に当たった。

 斜面をずり落ちてきた佐陀の頭に銃口を突きつけた頃には、救急車はテントの兄ちゃんに呼んでもらうかと思うぐらいの余裕があった。
 佐陀はゼエゼエ喘ぎ、押さえた腰から血を垂れ流している。
 口をパクパクさせているので耳を近づけると、「フレンドリーファイヤだ」とかもごもご言っている。
「なあ、佐陀。お前死にたいか?」
 俺はたぶん兎みたいに青ざめてる。血の代わりに汗が音を立てて吹き出してる。
「いや」
「ゲームはしたいだろ」
「そ……うな」
「親父に何されたんだ?」
 佐陀の右手には小指と薬指が欠けていた。狙いが定まるわけもない。
 けれど佐陀はもう何も言わずに。
 俺は一方的に言いたいことをまくしたてたけど、それももう届かずに。
 二人して人を殺せない世界に連行されてしまった。

三題噺「朝、兵士、壊れたカエル」了 

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