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 とりあえず神と主人公はハッピーエンドです。
 


神様、ふざけすぎる
作:あゆみかん


 春の日中の それは何の前触れも無く、ただ突然の出来事だった。

『 聞け、人間どもよ 我、神なり

 厳かな、抑揚の無い肉声。地響き、活力のある換気扇の支配する空間の中に閉じ込められているような耳障りで苛立つ雑音めいた声質。地球上に居る全ての人間の上に ふりかけのように降りかかる。

『 今からゲームを開始する 』

 地上に居る人間 皆のひたいに番号が割り当てられた。54、102、33……と。
 墨で塗っただけに見える数字を描かれた。
「これは何」
「一体何がどうなっているの」
「 Please keep to the day of garbage neatly 」
「誰がこんな事を」
 数を示された人間達は、慌て騒ぎ踊る。憶測で野次も飛び交う。「お前は67か」「私は87だ」と互いを見合い意味も無く罵りあう人間の多いことよ。

 入社して2年、23歳OL・まとい は、同僚で親友・エビ子と一緒に会社の昼休みの時間を使って咲か下さかした通りにある超絶頂人気のクレープ屋の行列に並んでいた。行列は大長蛇の列で、その長さはシルクロード並みである。
 まといの手には“あなたは57番目のお客様です”と。朗らかな表情で こちらに向かって愛想を浮かべているキャラクター『緑の やさグレープ君』のイラストが描かれた整理券を握り持っていた。
 しかし非情にも、“当店 ご自慢 特製 奇跡の微笑み癒しクレープ”は、一日数量50個限定の物であった。
 それでも人は買い求め、恋焦がれた中毒患者か 地獄からの使者亡者の如く、時間を忘れて列を成す。どうか仕事をして欲しいと、社長の嘆きを聞きもせずに。
 まといも自分の前に並んでいる連中を見て嘆くのだ。
「いっそ人間なんて消えちゃえばいいのに」
と。
 そんな 時のタイミングでの一声であったのだ。悪魔かサタンか魔王か斉藤さんかは知らないが、自称を神と呼ぶ者の弾圧するような声。
 まといの額にも、消えない墨で描かれた『175』という数字が浮かぶ。
「“イナゴ”?」
「いやあああ!」
 エビ子の からかいに反応して大きく叫んだ まとい。虫の名を言われて想像し気味が悪かっただけだった。
 もちろん まといはイナゴでは無い。

『 我は これから サイを振る 』

 天からの低い声は、事を独断で進めて行く。
「サイ……? サイコロ?」
 まといと同様。耳を貫く声の言葉の内容を理解しようと努める人間達。クレープ屋の長蛇の列の者達は列を崩す事 絶対に無く、耳障りな声に耳を傾けた。

『 開始する 』

 そして寸秒 間を空けてまた、

『 まずは6 』

 6と言う。
 すると まとい達の並ぶ長蛇の列より坂の下方、200メートルは離れた所で声が上がった。
「いやあああ!」
「人が消えたぞ!」
「そんなバカなぁ! 確かに消えたぞ見たぞ。どうなってる」
 人だかりが できていた。残念ながら まといの居る坂の上方からでは事の現状が よく見えない。
 声だけが まとい達に情報を提供してくれる。
 人が消えたと。
「まさか……“6”の人が」
「そんな」
 まといとエビ子は顔を見合わせた。顔を青ざめる。
 有り得ないと心の中では常に引っかかりを覚えつつも、現実を受け入れていくしか無かった。幸いなのは、人が消える瞬間を直視していないという事だ。まだ事実を否定する隙があった。

『 続ける 』

 神と名乗る者はペース崩さず、時間を惜しまず流れのままに。

『 さて次は78 』

 サイを振った結果を読み上げる。
「78……?」
 まといは首を傾げた。
「きゃああああ!」
 まといの すぐ後ろでふくよかな婦人が甲高い叫びを上げた。「!?」
 場の皆の注目を一身に浴びる婦人。はち切れそうな衣服が更に一層はち切れそうだ。
「しんご ちゃん! しんごちゃあああんっ!」
 顔を覆う婦人の両の手の隙間からは、泣きと叫びが重く下に吐かれていく。
「どうされましたか!」
 まといは即座に婦人の肩を軽く揺さぶった。「子供が……」
 まといは事情を飲み込みグッと息を詰まらせた。
(子供が消えた……“78”だから?)
 確信に近い思考をし、キッ、と空を見上げた。
 目の当たりにはしていないが、2度目で まといは現実を確実に己の中へと受け入れていく。

 神はサイコロを振っている。結果を読み上げている。
 当てはまる人間を消していく。その人の数は計り知れない。数は重複しているのだろうか。同じ時に同じ番号を持った者が。世界上で何百何千何万という者が。

 神のゲーム。

 もてあそばれる。

 不運な人間達よ。
 さあ、次を振ろうか。


「サイコロは1つじゃ無い。2つでも……違うのか……?」
 屈んで婦人を支えていた まといは自分のすぐ側で いつの間にか立っていた男をハッとして見上げた。
 まといは立ち上がる。男の目線には身長が足りないものの、男の額に描かれた“882”という数字が目視で確認できた。
(882?)
 まといは、また不思議に首を傾げる。そういえば自分はイナゴ……“175”だった。それを思い出す。3桁、いや2桁の数字でも。違和感のようなものを感じた。
「どういう事かしら? サイコロは1つじゃ無い、って……」
 男の言葉を聞き逃さなかった。まといは真剣に男の顔を見る。若く、白のカッターシャツの袖を七分まで捲り上げて、黒のネクタイを締めている。サラリーマンだろう。ペンが一本、胸のポケットに刺してあった。
 さわやかに短髪だが、汗に少し濡れている。今日は日が雲に隠れる事の少ない、小春日和だったのだ。平均気温も初夏並みに記録されるかもしれなかった。

 「神はサイコロを振る、と言った。その振るサイの個数は、とりあえず1個じゃないね。2桁も3桁もあるみたいだから。何か出目に仕掛けがしてあるとか、複数のサイの各出た目の数を足すか割るか何かして、算出しているんではないか、と考える」

 チラリと男は まといを見やった。まといの反応を見ている。男は続けた。

「考えた所で分かりそうも無いが、神は神のやり方で結果を読み上げているという事だ。だけどまあ、手当たり次第に考えられる可能性で推測を楽しむくらいはいいだろう。そうだな……僕が“882”なら、素因数分解すると2×3×3×7×7だ。君も“175”で、5×5×7。“7”が出てくる……。サイが6面体かどうかも怪しくなってくる。いや、そもそも1から6全てが描いてあるのかどうかも。0が描いてあるかもしれない。または2を飛ばして7が描いてあるかもしれない。2の人は絶対選ばれないからラッキーだろうけど」

 まとまりも無く、ただ思いつくがまま呟きのように声に出す その言葉を、まといは聞いていて自然と頷きを返していた。
 男は満足気に話し続けていく。

「そういえば さっきの“78”は分解すると2×3×13だね。『13』が登場だ。何か関係あるのかな」
 まといも話に便乗して、思うがままに口が動いていった。

「出目の数を全部 足していくとしても、なかなか“882”という数字には辿り着けないわ。一体何個のサイを振っているというのって思えるし。だからといって出目の数を引くも割るも、算出するには考えにくいし実際にサイを振ってから結果を読み上げるまでの時間が短時間 過ぎる気がするわね。かける……出た目を全てかける、ならと思ったけど。例えば1から6の描かれたサイ、7から12の描かれたサイ、13から18の描かれたサイ。3個だとすれば、各サイの最大値……6×12×18は……」

 まといが暗算に苦しむ前に、男は携帯電話をズボンの後ろポケットから取り出し電卓機能を使って計算を素早くしてあげた。
「1296だ。“882”を超えたね。『3個のサイコロを使い出目の乗算をしている』という可能性が一つ出た。だが、それだと“1”のように小さい数字が出ない」
「そっか……考えが行き詰まっちゃった」
「こうやって、かなり曖昧で独断か偏見で物を言ったような結論を一つ一つ思考を張り巡らせて行けば、おのずと何かが閃くかもしれないよ。面白い。たかだかサイコロの単語一つで」
 男がニヤッと笑うと、つられて まといも口元の両端を吊り上げた。
「考えるだけは自由よね」
 自由である。
 一体、幾つのサイコロを神が どんな状態で振っているのかどうかは わからない。ひょっとしたら紙で出来たサイを カミナリに打たれて ハニカミながら カミさんと 髪を抜きながら カミングアウトしているのかもしれない。
 思考は自由である。神の力は及ばない。

 神は、まといが男と話に夢中になっている間にもサイを振り続けていた。
 まといが、やっと気がつく。
「あれ……? エビ子?」
 まといに衝撃が走った。すぐ側に居ると思い込んでいたエビ子が居ない。姿を消している。
 自分の一つ前に列に並んでいたはずのエビ子が。
「エビ子ぉ!」
 呼んでも、辺りを目で探してみても、エビ子の姿は確認できなかった。
 泣き崩れている婦人の傍ら、まといは日光を受けて熱くなっていたアスファルトの硬い地面にぺタリと立つ力を失い座り込む。衣服の汚れなど気にせずに、ただ呆然と現実を言葉に替えた。
「エビ子が消された……」
 脳裏の何処かで、笑顔のエビ子が自分に向かって手を振っているような映像が浮かんだ。同時にエビ子の額に当てられた数字は何番だったのだと、肝心な事を思い出せなく嫌悪に陥った。
「いつまで続くんだ。神隠しは」
 座ったまま見上げると、太陽の逆光の中で男が まといとは違う空の方向を見上げていた。
 神隠し。
「そうね……まるで神隠し。神のイタズラ」
 フフと小笑い、まといは立った。ユラリと体が揺れる。戦意を失った生者の嘲るような笑いへと変化していった。
「何が そんなに可笑おかしい?」
 そういう男も皮肉のような顔をして口元を歪ませていた。
「だって」
 まといが含み笑いをする、その時だった。


『 ビンゴ 』


 神、最大級の音量で喜びを発した。
「びんご?」
 人間は、青空を一斉に見上げ 答えの無い天に声は失う。
 神のみぞ知る。


 ……


 その頃。人など踏み込めない天上の神の領域では。
『 陽春・神による神のための神だけが集まる神の お花見パーティー』が。
 ……盛り上がりを最高潮に開催されていた。
「今年も頑張りまっせ」
「よろしゅうに。ほい、ビール。あんたさんは酒でっか」
 恵比寿は弁天の持つ空のジョッキにビールをまず注ぐ。
 場は広々と。ネバーランド並みの広範囲 面積の中で点々とビニールシートを幾重にも広げ、各地・各分野・各年齢などに分かれて集団を作り騒ぎ踊り、無礼講だと面白おかしく笑い転げながら それぞれの神達は。
 満開に咲き乱れた桜の下で花見というものを楽しんでいた。
 そして用意されたイベントが予定行程の通りに進行されていた。
「ビンゴおめでとうございます! 一番乗りビンゴの商品は なんと! こっちらでえす!」
 設置されたステージの壇上で司会者のバニーガールは、マイク越しに明るい声でビンゴを宣言した神をステージの上へと導いていく。

 ステージの上の背景には巨大なスクリーンがあった。
 その前へ、もう一人のバニーガールがガラガラと重そうな音をさせ、ワゴンに載せられたソレを運んでやって来た。
 赤い大きな布を被せられている、高さ大人の男を超えた程度の横長に四角い形張りのソレ。
 じゃじゃん! と司会のバニーガールの掛け声と共にソレに被さる布は取り外された。
 ソレ、即ち一等 商品なり。

「高画質・高音声・高性能の次世代TV、『悪オスTV』でえす!」

 参加者、観客の拍手喝采の渦の中、当てた神は壇上へと歩を進ませ恭しく お辞儀をすると、両の手の届く最大範囲までに両腕を めいっぱいに広げてみせた。そして投げキッス。
 神、羽目は外したままで悪オスTVに しがみつく。
 とても子供のように無邪気になって喜んだ。

 再び観客の拍手をしばらくの間受けた後、当てた神がステージから飛び降りると、別の神――女神が白のローブの裾を引き摺り、神へと近づいた。肩を叩き、酒臭い息を吐く。
「ねえ。ビンゴのついでに消した人間、どうすんの」
と、女神は虚ろな瞳で問いかけた。
「どうもしないさ。ついでだったから」
 芝生の上にコロコロと転がっていた空のビール瓶を、神は軽い足蹴りで遠くへと追いやる。一蹴りをもらった瓶は しばし止まれず、何処までも何処までも転がり遊んでいった。
「少し人間が増えすぎた。これで地球も軽くなるだろう。それよりTVだ。ヒャッホ」
 一度持ち上げたテンションは熱を冷まさない。神、小躍り。スキップと鼻歌を披露する。

 ステージでは、次なるビンゴ当選者を求めて続行が なされている。
 一部屋の天井くらいまでの大きさと高さはあるだろうを誇る、格子で できた球がある。その中には、算用数字を描かれたサイコロが、数えて167個 用意され納められていた。
 一つ一つは6面体の立方体サイコロ。1〜6、7〜12、13〜18と。数を刻まれれば確率が偏ってしまうと考え工夫され黒いインクで数は塗られている。
 そしてスタッフが「せえの! ビンゴでレッツ、ゴー!」という適当な掛け声で球はゆっくりとマイペースで回り、回転のさなか1個のみを格子の外へと放り出す。
 1個のみ。
 放り出されたサイは尚も転がりをみせピタリと一面を上へと向けて止まる。
 それが数を決定する。
 用意されるはサイ167個。つまりは最大1002の数まで。
 0は存在しない。
 振ったサイは元の格子の檻へと戻される。
 また同じ出目が出ても気にしない。

 神は人を消す。
「TV(電源)消しといて。人消しといて」の感覚で。

 消えた人間は何処へ。

「あっちじゃない」
 神、適当に空間の一点を指さす。宇宙空間では流れ星でさえも調子に乗る。
 さあ花見だ。騒ごうか。
 人の行方もサイの導く先も。

 神のみぞ知る。


 ……



 まといは限定クレープを手に入れた。
 可笑しくて たまらない。


《END》




【あとがき】
 作者が一番 言いたい事ですか?

 Please keep to the day of garbage neatly.
(ゴミの日はキチンと守って下さい)

 読了ありがとうございました。














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