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第六話:わんこな後輩

 新しいキャラ登場。

 朝、いつもの待ち合わせの場所。オレはそこであいつを待っている。


 あの、信じられねぇ様な出来事なんて全部夢だ!


 とまぁ、女々しくも自分勝手な都合のいい事を考えてしまうオレ。

 昨夜は全然眠れやしなかった。

 あの“暫く距離を置きましょう”と届いたメール。

 お袋は何故かもう一度メールを見ろなんて事を言っていたが、どうにも見る気なんか起きない。


 そもそも見た所で、何かが変わるわけじゃねぇだろ? もう起きちまった事なんだし。


 オレはハァと溜息をつきながら顔を上げた。

 するとそこに、ずっと頭の中を占めていたあいつが現れたのだ。

 ミカは俯きながら、とぼとぼと歩いていて、まだオレの存在には気付いていない。

 しかし、ミカのその手の中には、あの重箱とも取れる、でかい弁当がぶら下がっている。

 それを見てオレは、


 ああ、あれはやっぱり夢だったんだ。


 そう思ってしまったのだが、ふとミカは顔を上げ、オレの存在に気付いたようだった。

 すると途端にギョッとした顔をし、立ち止まる。そして、ハッとして周りをキョロキョロし出して、何故だかぎくりとした後、ちょっと泣きそうな顔をしながらオレを見やった。


 な、何だ? 何でそんな泣きそうな顔をしてんだ?


 オレはそんな顔を見たくなくて、駆け寄ろうとしたのだけれど、ミカはぎくりとして後退る。

 そして、弁当とオレとを見た後、弁当をその場に置いて、脱兎の如く駆けて行ってしまった。


 うおっ! は、はえぇ……男のオレでも追いつけねぇぞ。

 流石は鳥の巣クラッシャーだな……。


 オレはそんな現実逃避的な事を考えながら、弁当を拾いに行く。持ち上げるとずしりと重い弁当箱。

 ちゃんと中身は入っているようである。


 でもちゃんと作ってきてくれたって事は、やっぱ振られたって訳じゃないのか?


 等と希望を胸に抱きかけた時、携帯が鳴り響いた。メールである。

 差出人の名前を見て、慌てて携帯を開く。すると、そこにはこう書かれていた。


『空のお弁当箱は吏緒お兄ちゃんに渡して下さいね』


 それを読んだオレは、ガックリと項垂れる。

 やはりあの事は夢ではないのだと思い知らされた。学校へと向かう足取りが重い。


 ああ、一体薔薇屋敷にはなんて言われるか……。

 日向は、この事を知ったら、ねちねちと言ってきそうだな……。

 そして杜若……。

 あいつとはぜってー顔を合わせたくない。


 顔を合わせた途端、奴に掴みかかりそうだ。そしてそのまま返り討ちにあいそうだ……。


 つーかオレ、全然奴に勝ってるとこなんて無さそうだぞ!?

 な、情けねー……ハッ、いやあるぞ! たった一つだけ勝ってる所!


 オレはごそごそと自分の荷物を漁る。バッグの底にあるソレを手に取る。


 ソレは「オヤジ達の沈黙シリーズ」待望の最新刊、『山脈の頂で愛を叫ぶ獣達』何でも今回は、バタフライるみ子の出生の秘密が明かされるらしい。


 きっとミカは、この本の存在を知ったら飛びついてくるに違いない。

 なんせ、これはまだどの本屋にも置いていない、まだ売り出されていない幻の最新作だからだからだ。

 驚いた事に、あいつ……親父が偶然にもオヤジ達シリーズを出している出版社の人間と仲良くなったらしい。全く驚きだ。きっとこんな時でなければ、あいつに感謝などしないだろう。


 ふん、ありがとな、親父。これで杜若に対抗できるぜ。


 オレが杜若に勝っている所。

 それはオヤジ達だ。オレは杜若と違って、一作品だけのファンではない。オヤジ達の沈黙シリーズ全巻のファンなのだ。


 まぁ、ミカ的に言うのならば、真のオヤジストって所だな。




 +++++++




 私は足取り重く、学校へと向かう。


 ハァ~、呉羽と一週間も会えないなんて……。

 すっかり習慣となってしまったお弁当作り。こうしてしっかりと作ってきてしまいました……。

 一体どうやって呉羽に渡せばいいのやら。

 吏緒お兄ちゃん、それくらいは許してくれませんかね……。


 彼はこう言っていた。


『これは私がミカお嬢様に対しての罰ですからね。ちゃんと約束を守れるか、しっかり見張っておりますからそのつもりで……』


 ううっ、電話で話すのも駄目って言われました。メールも、ショートメール以外は駄目って言われちゃったし……。

 まぁ、そこまでやらなければ罰にはならないのだろうけど。ううっ、私が小悪魔を目指したばっかりに……。

 嗚呼……でも、もしあの時のメールを最後まで読んでなくて、呉羽が誤解したままだったりしたら? 一週間の間に心変わりとかしちゃったら?


 ………チーン。


 いーやー! そんなの耐えられないよぅ!


 話せないと想いは一向に募るばかりである。私は猛何度と知れない溜息をつくと、顔を上げた。

 そしてここが、いつもの呉羽との待ち合わせ場所だと気付き、自然と彼の姿を探してしまう。

 しかし、本当にその姿を発見してしまった。

 ドキンと心臓が揺れる。


 おおぅっ、呉羽です! 呉羽がいる!

 うー、駆け寄りたいけど駄目です。

 あうっ、でもちょっとくらいなら……ハッ、駄目駄目! 吏緒お兄ちゃんとの約束!

 確か見張られてるって……。


 私はキョロキョロとしてそしてその姿を見つけてしまった。

 それは全身黒ずくめの黒子達。



 隊長ー! 前方二時の方向に敵の偵察部隊がっ! 後方八時の方向にも居ます!

 何っ!? 報告されたら厳罰に処される! 此方も下手な動きはしないように!!

 イエッサー!!



 彼らは真っ黒でであるにも拘らず、上手い事周りの景色と溶け合い、気配も消して一般人からは気付かれては居ないようだ。


 何と! まるで忍者のようですな!

 まぁ、人に気付かれたら間違いなく、通報されるしね。

 怪しすぎるから! ホントに!


 きっと、この事は吏緒お兄ちゃんにきっちりと報告するのだろう。


 ううっ、これは不可抗力ですよぅ……ハッ、呉羽が何か言いたげに此方に掛けてこようとしている!

 だ、駄目です呉羽! こっちに来ては駄目!

 あ、でもこのお弁当はどうしましょう。折角作ったのだから、どうせなら食べてもらいたいし……うう~……いいや、ここに置いちゃえ!

 おしっ、ではサラバです!


 私は全力疾走でこの場から離れる。


 うえーん、これでいいんだよね、吏緒お兄ちゃん!

 あ、でも食べ終わった後の空になったお弁当箱はどうやって返してもらいましょうか?

 うん、やっぱ吏緒お兄ちゃんに渡してもらおう。何しろ、提案したのはお兄ちゃんだし。


 私は走りながらも器用にもメールを打った。なので、その時前を走っている生徒を追い抜いた事には全く気付かなかった。

 打ち終わった携帯を仕舞い込み、校舎が見えてきたので、私は走る速度を緩め歩きになる。


 フゥ、流石に全力疾走は疲れますね。朝っぱらから汗かいちゃいましたよ。


 私がハンカチを取り出そうとしていると、タッタッという駆けてくる音がして、その足音は私の隣で止まった。

 ゼーゼーと誰かが息を切らしている。

 見た所、同じ学校の男子生徒だ。上はTシャツであるが、下はちゃんと学校指定のズボンである。

 きっとブレザーとシャツは、彼が方からさげている大き目のスポーツバックの中に入っているのだろう。

 かれは乱れた息を整えると、爽やかに汗を拭って私を見下ろす。

 何だか物凄く人懐っこい笑みを浮かべていた。

 そしていきなり、


「あんたすげーな!」


 と言ってきた。


「はい?」

「おれさ、女に足で敵わなかったの初めてだぜ!」


 そう言われて漸く合点がいった。


 しまった! 他の生徒に本気走りを見られてしまった! あの、鳥の巣クラッシャーの時に見せた本気走りを!

 あわわわ、他には見られてませんよね? 特に正じぃファンクラブの方々に……。


 如何やら見ていたのはこの生徒だけのようだ。



 隊長、如何しましょう?

 うむ、ここはじっくり慌てず騒がず、相手の事を見定めるのだ!

 イエッサー!



 私はまじまじとこの生徒を見る。


 あ、よく見たらこの人イケメンです。

 何というか爽やかスポーツマンタイプと申しましょうか。


 日に焼けた肌に、がっしりとした筋肉質の体付き、髪は短く刈っていて、ツンツンと毛先が立っている。

 背も、吏緒お兄ちゃんほどではないが凄く高い。


 でも見た事ないという事は、彼は一年か二年という事でしょうか?


 そんな事を思っていると、その男子生徒はキラキラとした目で私に話しかけてくる。


「なぁ、あんた何かやってんのか?」


 ハテ、何の事でせう?

 うーん、ああ、運動か何かって事かな?


「いえ、これといって何もしていませんが?」


 すると彼は意外そうに目を見開かせ、


「何もって訳ないだろ? あんな走り見せてさ。そもそも周りがほっとかねーよ」


 いえいえ、滅多に見せないのでほっとくも何もありませんな!

 見せていたら、あなたの言うとおり、運動部など引っ張りダコでしょうとも。


 等とは決して口には出さず、、


「いえ、それも特に。私帰宅部ですし」


 と言っておく。

 すると、彼は目をまん丸に見開いて吃驚していた。


「えぇ!? 何で!? スゲー勿体ねー!!」

「………」


 彼は身体だけじゃなく声もでかかった。

 私は無言で耳を塞ぐ。

 見れば彼は酷く残念そうである。


 なんと言うか、物凄く素直に感情を表す人ですねぇ。裏とか無さそうですし。

 私初対面でいきなり、こんなにフレンドリーに声を掛けられたのは初めてです。


 しかし、彼が私の嫌いなイケメンであるにも拘らず、あまり不快な感じはしなかった。


 何でしょうか、コロコロと変わる表情といい、感情を素直に表す様といい、何だか大きいわんこを相手してるみたいです。


 私は、今度は此方から話しかけてみる事にした。


「そういうあなたは、何か部活やっているんですか?」


 すると、しょぼんとしていた彼がバッと顔を上げ、嬉しそうに笑い掛けてくる。


 おおぅ、ホントにわんこのようです……。


 きっと尻尾がついていたなら、ぶんぶんと振れている事だろう。

 彼は明るい声で私の質問に答えた。


「おれは、サッカーにバスケに野球にテニス……」

「は? ちょ、ちょっと待ってください!? 何で複数なんですか?」

「ん? 別に部活は一つじゃなくちゃ駄目だって決まりはなかった筈だけど?」

「いや、確かにそうですけど……」

「おれ、体動かすの好きだからさ!」

「………」


 いくらなんでも限度というもんがあるでしょーが!


 私はこめかみを押さえていた。

 更に聞いた所、彼は運動部はあらかた入っているようだった。


 ケッ、これだからイケメンはっ!

 何で私の周りに出没するイケメンは、普通じゃないのが多いんでしょーか!

 いや、イケメンな時点で普通じゃないか……。


 そうこうしている内に、私達は校門の前にやってきていた。


「なぁ、あんた何組だ? おれ、一のCなんだけどさ」


 彼は一年だった。


 まぁ、何となく予想どうりだったけど。

 彼くらいの変わり者だったら、他の学年にも知れ渡ってる筈ですもんね。

 それがまだ広まっていないという事は、彼が新入生である証拠。


「私は……A組です」


 特進クラスはA組である。

 そして、三年と言おうとして止めた。

 ブレザーのラインの色を見れば、私が何年であるかは分かる筈である。


「へぇ、A組か。あ、おれ部活あっから行って来るわ。校内で見かけたら声掛けてくれよ? おれもあんた見かけたら声かけっからさ!」


 そう言って彼は、実に爽やかに手を振りながら言ってしまった。


 おいおい、名前は訊かなくていいのか少年よ……。


 あの様子だと、私が三年である事に気付いているのかも怪しそうである。


 でも、三年って言わなくて正解だったかも。彼が三年の教室までやってきたら物凄く目立ちそうだもんね。



 そんなこんなで、昇降口までやってきた私。上履きに履き替えようと靴を脱いでいると、


「ミカお嬢様……」

「っ!!」


 思わずギクーンとしてしまう。

 振り返るとそこには吏緒お兄ちゃんが立っていた。


「お、おはよう御座います。吏緒お兄ちゃん」


 バクバクとする胸を服の上から押さえて、引き攣った笑みで朝の挨拶をする私。

 そして、吏緒お兄ちゃんが居るという事は、当然の事ながら彼が使えている乙女ちゃんがいる訳で、最近その彼氏となった日向君もおまけのようにくっついている。

 二人とも私を見て、にこやかに挨拶をする。


「あはん、おはよう御座いますわ、お姉さま」

「一ノ瀬さん、おはよう」

「あ、乙女ちゃんに日向君もおはようございます」

「あれ? 如月君は一緒じゃないの? 一人で登校なんてバカップルの君達には珍しい」

「うっ、それは……」

「あら、お姉さまは今、呉羽様とは会えないそうですわよ」

「へ? 何で?」

「さぁ、わたくしは杜若からそう聞いてるだけですもの」

「へぇ、杜若さん、何で?」


 当たり前のように吏緒お兄ちゃんに疑問をぶつける日向君。

 お兄ちゃんは私の事をチラリと見ながら、フッと笑って、


「私からはなんとも……如月呉羽本人から直接訊けばよろしいのでは?」


 そう言って私の方に向き直ると、


「ミカお嬢様、ちょっとよろしいですか?」


 ニッコリと笑う吏緒お兄ちゃんが何だか怖かった。


 こういう時の吏緒お兄ちゃんには逆らわない方が身の為です……。


 わたしは彼の言うとおりに、素直に後についていった。

 そうして、あまり人のいない中庭へとやってきた私たち。

 吏緒お兄ちゃんは先程と同様の底冷えのする笑顔を貼り付けたまま、私に言った。

 それは、私の想像通りの事柄。


「如月呉羽に会いましたか?」

「んーん、会ってないよ。ただ顔を合わせちゃっただけだよ。不可抗力だよ」

「しかし、聞いた所によれば、お弁当を渡したとか……」

「そ、それは日頃の習慣で作っちゃったお弁当で、直接手では渡してないよ。地面に置いて、すぐに離れたよ」


 後々考えて見れば、ここまで臆病になる事はなかったのだけれど、ニコニコ顔でちっとも目の笑っていない吏緒お兄ちゃんを前にしたらとてもじゃないけど平静でなんていられない。

 私はダラダラと汗を流しながら、そんな言い訳めいた事を目の前の金髪執事に訴える。


 おおぅ、こあいよこあいよ。暗黒ビームがビシバシ来るよぅ。

 暗黒執事リオデストロイの恐怖再び!


 吏緒お兄ちゃんは私を監察するように見ていたかと思うと、すっと目を細めた。


「それですと、如月呉羽が空になったお弁当箱をミカお嬢様に渡しに来るのではありませんか?」

「そ、それだったらメールで吏緒お兄ちゃんに渡してくれるように頼みました」


 ピクッと金色の形の良い眉が上がる。


「私にですか? それはまた……フッ、まぁいいでしょう。他ならぬミカお嬢様の願いとあらば、この杜若きかずにはおられません……」


 ニッと口の端を吊り上げるお兄ちゃん。


 なんでしょう……彼から、その挑戦受けてたちましょう的なオーラが立ち上っているような……。


 ハッ! こ、これは、暗黒執事リオデストロイとサンバトラー呉羽の戦い勃発ですかな!?

 そ、それは……見逃せません!


 私の頭の中で、ヒーロー物っぽい曲と次回予告的な物が流れてゆくのだった。






 新しいキャラ出てきたのに、名前を名乗らない展開。

 「異界の旅人」も読んでくれている方は分ったでしょうが、彼は筋肉馬鹿なあの人がモデルです。


 次回も新キャラ出てくるよ。

 お楽しみに!


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