第五話:声の正体
『私は独立型AIマリア。貴方の“個”を解放しました。‥全人類の“個”を取り戻して…』
「……もしかして俺だけに聞こえてるのか?」
ルオンはそうゆう考えに辿り着いた。
「空耳じゃないのね?」
疑い半分で聞く。その後、自信を持って答えるルオン。
「はい。ハッキリと女性の声で独立型AIマリアだと言っている。それから‥」
言うのを一瞬躊躇う様に見えた間の後、その続きを口にした。
「俺の“個”を解放しただとか、全人類の“個”を取り戻せだとか言ってる」
「‥‥ま、どうするかは自分の意志で決めるんだな。」
一呼吸置いてから話すガルグ。
一見、突き放した様な物の言い方。だがそれは、FRの理念である『誰もが自由な思考をし、生きていく』という事が根底にあっての言動だった。
「………」
無言のルオン。地面のある一点を見つめ、戸惑った表情をしている。
「ま、すぐに答えを出さなくても良いさ。‥取り敢えず君の部屋の準備をしてくる。それまで色々と見て回ると良い」
見兼ねて、そう促す。
案内を付けないのは、まだルオンを完全に信じた訳では無いからで、スパイである可能性を切り捨てていないからだ。
初めて来た者が簡単に地下シェルターの心臓部や、本部の重要機関へ行ける様な構造にはなっていない為、ルオンが一人でふらふらする分には重要機関への侵入が少しは抑えられるかもしれない。それにガルグやユイの居る医療室は居住エリアが近い為、此処での暮らしぶりを見せてあげたかったからだった。
FRの本部は地下にある。もともとは、大戦時に造られた避難用シェルターで各地域に複数存在しており、その時々で絶えず増改築をしていた為、今では全容の把握は誰にも出来ていない。
用途や人口によって様々な様式の構造になっていて、場所によっても雰囲気が違い、重要度によって、第一層・第二層・第三層に振り分けられている。
1番地上に近く、主に一般人を収容したのが“第一層”
2番目に近く、国の重鎮等が安全で快適に暮らせるようにしたのが“第二層”
1番地下深い所に位置して、シェルター内の電源となる発電装置や、科学技術を駆使した食糧生産ライン、そのシェルター全域のほぼ全てを管理しているシステム有るのが“第三層”
総面積が1番広く、最も増改築されているのが第一層であり、様式に種類があるのも此処だ。
ルオンが今居るのは第一層である。この辺りは農村の様な感じで地面には土があり、天井には太陽を摸した科学ライトが光っている。
人々は地上に居た頃と何等変わりない様に田畠を耕して暮らしている。
長閑な時間の流れる場所。例え最初は偽証の安寧だったとしても、今では日常と化して真実となっていて−−人工の太陽でさえも暖かく感じられる。
(? 地上の太陽はここまで暖かいものだったか‥?)
ふ、と感じた事。ガーディアンであったルオンには感じる事も無かった事。
普段よりも落ち着いていて、身体がリラックスしている。
「コレが、安らぎ…か?」
今まで感じた事の無い気持ちを一身に受けている。こんなにも心地良いモノだったのか‥と言わんばかりである。
暫くうろうろしていると、目に入った家を覗いてみたくなったルオン。
第六感というものなのか、好奇心というものなのかは、よく分かっていないが、取り敢えず入ってみようと歩を進めた。
家の中に人気は無く、住んでいるのかも疑問に感じられる場所。決して荒れている訳でも、埃っぽい訳でも無かったが、外とは別空間にあるとさえ錯覚してしまう場所。
何も考えずに見入っていると、背後から誰かが入ってくる音がして、思わず振り返りながら一歩引く。
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