第一話:ルオン
霧雨が降っていた。
大戦前は栄えていたこの都市も、今では静寂が鉄板の様に薄く広がる廃都となってしまった。
−−だが、今日はきぬ擦れの音がする。
「はぁ…そろそろ帰らないと」
この子はフリーダム・レヴォリューション、通称FRのエリエ。金色の髪が目立つ16、7歳の少女。
エリエは帰る為に小走りに走り出すが、足音は余りしない。
ドサっ…
「!?!!」
廃ビルの崩れた壁の向こうから何かが倒れる音がして、咄嗟に身を潜めるエリエ。
そっと壁の向こうを窺うと、
「!?!!!」
自分より少し年上に見える青年が倒れているのを見つけ、予想もしなかった光景に、エリエは困惑を隠しきれずにいた−−
「"アイツ"が来たってのは本当か?!」
部屋のドアを開けたのとほぼ同時に口を開いたのはFRのこの辺一帯のリーダーをしているルクフ・ガルグ。
そして、ガルグに話し掛けられたのはFRで医療系を担当しているユイ・カンザキ。
「正確には、エリエが倒れてた青髪の青年を拾ってきたんだけどね。」
「捨て猫じゃあるまいし‥ましてや行き倒れてるガーディアンの男なんか拾ってくるなよなぁ」
ため息混じりにガルグがぼやく。
「まだ"アイツ"だって決まってないでしょ? それにエリエはジャックを亡くしたばかりなのよ? 同じ背格好の男の子を放っておけなかったんでしょ」
「まぁ、しょうがないってのは判る。だが俺達は『過去』よりも『未来』を優先すべきだろ?」
「そんなの‥誰だって言われなくても判ってるわよ…」
一瞬の沈黙。
なんとも言えない微妙な空気が二人の間に流れる。
そして、この沈黙を破ったのは控えめなノック音だった。
「あの‥ユイ先生。あの人はどうですか??」
物音を立てないように気を付けて入ってきたエリエ。
先刻までガルグとユイを包んでいた空気は既になかった。
「命に関わるような致命傷は負ってないわね。けど軽傷って訳でもないって所かしら」
エリエに向かって、おおざっぱに説明をする。
と、その時。
「…っ‥‥…? こ、こは??」
青髪の青年が目を覚ました。
天井のライトが眩しいらしく、まだ薄目がちな青年に、ガルグが説明をする。
「はじめまして、俺はルクフ・ガルグ。この辺一帯のFRのリーダー格やってる者だ。んでここはFRの本部にある医療室だ。」
「あ、それからキミ、全身麻酔してあるからむやみに抵抗しない方が身の為よ。下手に動くと傷口も開くからね」
サバサバした、というかほぼ脅迫に近い形で青年に言い放つユイ。
「ユイ、いくらなんでも初っ端からソレはないだろ‥」
やれやれといった感じでツッコミを入れるガルグ。
「で、早速なんだけど、君の名前聞かせてくれる?」
気を取り直して本題に入るガルグ。にこやかに笑ってはいるが、気を張り詰めているのが若干だが判る。
そんなガルグを見て、ドアの横に居たエリエは無自覚に息を呑んでいた。
青年は、麻酔のせいでまだ呂律が回らないのか、たどたどしく喋る。
「…ル、オン・スターティッ‥ド。ガー、ディア、ン所属…っ……‥」
「!?!?!!」
「?!!!!」
ガルグとユイがルオンを凝視する。
二人がどう行動を取ろうか思案している時−−
「ゃぁぁぁああああ!!!!!」
突如としてエリエがルオンに飛び掛かっていた。
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