挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

愚かな竜の物語 【GUDA】

 
         (                    )

 我々の住む次元の原初の姿。それは全ての歴史の中で最も質素なものであった。そこにはただの黒、混じりっ気の無い純粋な黒のみが存在した。

 最初の神であるユメリ(時を与えたもの)は、この世の始まりを知る怪物グダ(広大な怪物)に協力を求め、人を作った。グダが肉体を作り、精神をユメリが与えた。三人の人が作られ、それぞれマナク、オオリ、シュナと名付けられた。ユメリは再びグダに頼み、彼らの生活の場として巨大な岩塊を与え、生命を周囲の黒から保護する大気を作らせ、三人を岩塊の上に住まわせた。

 ユメリは三人が不味くて硬い岩を食べているのを見て不憫に思い、岩塊に柔らかい植物を茂らし、これを食すように彼らに勧めた。また、いつ眠ればいいのか、いつ起きればいいのか解らないという彼らの悩みを聞き、岩塊を回転させ、自ら光を放って昼と夜、時間という概念を彼らに与えた。さらに、互いに意思の伝達が上手くできていない様子を見て言葉を教えたりもした。
 三人はそれらを与えられたことに感謝しながら、岩塊の上で幸せな生活を送っていた。

 ある日、30億年ぶりにグダがユメリの元を訪れた。ユメリは彼に例の岩塊を見せ、三人を紹介した。
 グダは全身を魚に似た硬い鱗に覆われ、鋭く尖った牙を生やし、5枚の翼には無数の穴が開いており、頭部は爛れた蛇に似た姿をしていて、33の多彩な瞳を持っていた。広大で異質なそれの姿にマナクとシュナは驚き、恐れ、身を隠してしまった。
 しかしオオリはこれに動じず、凛とした瞳を広大な怪物に突きつけた。グダは美しいオオリの姿に気を引かれ、ユメリにオオリを譲ってくれと申し出た。ユメリは岩塊の件でもグダに貸しがあったので、これを許可した。
 グダは大気の籠を作り、その中にオオリを入れて住みかへと運んでいった。残されたマナクとシュナは寂しさから泣き出してしまった。その涙は岩塊の半分を埋め尽くし、地形を変えてしまうほど流れた。ユメリは二人を不憫に思い、シュナに特別な器官を与え、その使い方も教えた。二人は言われたとおりに行為を行い、やがてシュナは身籠り、そして子を産んだ。二人は新たな仲間の誕生を喜び、ユリオン(新しい人)という名をその子に付けた。

 グダに連れられていったオオリは、何もない籠の中で食物を定期的に与えられ、飼育される状態となっていた。グダは籠の中のオオリを見つめるうちに恋心を抱いた。グダはオオリに特別な器官を与え、そして行為を迫った。しかし、オオリはこれを拒んだ。拒まれた理由を自分の醜さのせいだと思い込んだグダは怒りに震え、その怒りをこの世の全てにぶつけた。広大な怪物の激昂は世界そのものとも言える黒を揺るがし、ユメリの管理する岩塊をも揺るがした。


 立派な青年に成長したユリオンは非常に勇猛な性格だった。しかし、何もない岩塊の上では猛る激情を発散できずにいた。マナクとシュナはそんな彼に過去に生活を共にしたオオリと、広大なグダのことを話した。
 ユリオンはグダこそ格好の敵として、オオリの奪回を名目にグダの討伐をユメリに申し出た。ユメリは悩んだ末に自らの衣の一部を千切り、それに息を吹きかけた。すると、衣の切れ端は船の形になった。そしてそれをユリオンに授けることにした。

 ユリオンはその切れ端の船に飛び乗り、勇んで岩塊を飛び出した。果てしない黒を渡る航海の後に、ユリオンはグダの住処、黒の果てに辿り着き、グダと対峙した。しかし、やはりグダの力はあまりにも強大で、戦いはグダの圧勝に終わった。
 ボロボロになったユリオンはグダに殺されようとしていた。オオリはグダに懇願して、ユリオンの命を乞いた。グダはオオリの願いを自分との行為と引き換えに聞き入れた。
 ユリオンは切れ端の船に乗せられ、ユメリのもとへと送り返されたが、その航海の途中彼は敗北を嘆き、自らの腹を右の爪で切り裂いてしまった。
 ユメリのもとに返ってきたユリオンは死に掛けの状態だった。ユメリはこのままユリオンを殺すのは惜しいと思い助けようとしたが、強い思いのこもった傷は癒えなかった。ユメリはせめてもと思い、自らに特別な器官を新たに作り、ユリオンと行為を働いた。
 暫くしてユリオンは息絶えたが、その子はユメリの中に宿った。ユメリはやがて生まれた子にリュオンという名を授け、岩塊に住まわせた。
 岩塊にはマナクとシュナの子や子孫が大勢住んでいた。ユメリからリュオンの育児を任されたマナクとシュナは最初の子、ユリオンの面影をリュオンに見ながら育てた。やがて立派な青年に育ったユメリの子、リュオンは、途方もない力を秘めていた。


 オオリが連れ去られた時から30億年が経ち、ユメリのもとをグダが再び訪れた。ユメリはグダの来訪を歓迎せず、背を向けた。これに腹を立てたグダはユメリの右腕を肩から噛み千切り、持って行ってしまった。ユメリは怒ったが、とても反撃に向かう力は残ってはいなかった。
 するとそれを観ていたリュオンが、自分が代わりに腕を取り返しに行くと申し出た。ユメリはユリオンのときのように衣の切れ端から船を作り出した。そして警告として、リュオンの父、ユリオンの時のことを話した。
 リュオンは話を聞き終えた後、このままでは自分も父の二の舞になるだろうと考え、ユメリに船のほかに何か戦うための道具を授けてくれと言った。ユメリは自らの爪を折り、それから一振りの黄金の剣を精製した。そして自らの髪から白色の衣を織り、これを着せた。リュオンはこれらの道具を携えて船に乗り込み、黒の果てへと向かった。

 父がそうしたように、果てしない黒を渡る長い航海を終え、グダの住処へと辿り着いた。二人は対峙し、グダとリュオンとの激闘が始まった。グダの白炎をリュオンがヒラリと回避し、リュオンの黄金の一撃をグダが硬い鱗で受け止める。一進一退の攻防は3千万年も続いた。

 やがて互いに疲労の色が見えてきた頃、リュオンの黄金の剣がグダの額の中心にある、33番目の一際巨大な銀の瞳を貫いた。グダの32の瞳はその色を失い、口からはおびただしい量の漆黒の血が吐き出された。断末魔と共にグダは破裂し、無数の欠片が飛び散った。グダの欠片は果てしなく広がる漆黒に、散り散りになって飛び散り、それらは夜空に瞬く星となった。
 この欠片からできた星たちはユメリの岩塊を見習い、回転を始めた。また、グダの怒りの念によって激しく燃え盛る星もできた。
 欠片と同時にグダは無念の思いを世界中に蔓延させた。その念はユメリの岩塊にも届き、それに住む人々はグダの思いから死というものを知った。人々は永遠の時を失い、やがては死ぬものとなった。ユメリはこのことに気が付いたが、グダの怨恨に対して何かするということはなかった。
 リュオンは籠の中にいたオオリを連れて帰路に着いたが、オオリは船の中で泣き続けていた。オオリを慰めようとリュオンは彼女をいたわり、そしてオオリとリュオンの中は深まり、長い航海の中でオオリは子を産んだ。
 ユメリのもとに帰還したリュオンは右腕を返上した。ユメリはリュオンの成した偉業を称えて彼に自分と同じ神の位を授け、グダの怨恨に対する耐性を与えた。そしてリュオンの名に「戦いに勝利するもの」の語意を与えた。リュオンとその妻となったオオリ、そして娘のリュリは、マナクとシュナの子孫たちと共に生活を始めた。

 平和が続きリュオンとオオリの娘、リュリが1万と324の日を生きた頃。世界に散らばる星たち、その全ての中心に位置する最も巨大な銀色の星の上に一人の男が姿を現した。
 男は背中の骨に沿ってうろこが生えており、小さな羽根も付いていた。口には黒く染まった二本の牙が生えていて、眉間には底の見えないほどに深い穴がぽっかりと開いていた。
 そしてその顔立ちは、どこかリュオンに似た顔つきをしていた。
 男が両の腕を広げてゆったりと回転を始めると、世界の星たちもそれに連動するかのように公転を始めた。それはまるで、その男の回転に星達が引きずり込まれるかのような光景だった。

 岩塊に暮すオオリの娘リュリは不意に誰かの呼び声に気づき、かつてリュオンが使った切れ端の船に乗って岩塊を飛び出していった。異変に気づいたユメリが彼女を捕らえようとしたが、突然現れた黒い衣の塊によって一切の行動を封じられてしまった。ユメリの輝きが消え、暗闇に堕ちた岩塊の人々は驚き、恐怖し、必死にユメリに助けを求めた。
 ユメリの返答がないことに不吉な予感を感じ取ったリュオンとその五人の息子たちはユメリのもとに向かった。そこで彼らは輝きを失い、まるで世界に捕らわれたかのようになっているユメリを見て、驚愕した。
 リュオンら六人は恐怖を振り切り、猛然と黒い衣に襲い掛かった。兄弟のなかで最も早いユロン(時に逆らう者)とリュオンが同時に切りかかる。黒い衣は黒い流れを吐き出し、二人を迎撃した。ユロンはその毒気に耐え切れず、その場で息絶えてしまった。リュオンも流れである瘴気を浴びたが、ユロンとは段違いの耐性を持っていたので耐え切ることができた。
 ユロンの様を観て、これは長引くと感じたリュオンは子供たちに策を授け、自分は黒い衣に戦いを挑んだ。リュオンと黒い衣が衝突するたび、黒の果てまで響くほどの衝撃波が放たれた。
 残った四人の子供たちはその隙にユメリに近づき、衣を剥ぎ取れるだけ剥ぎ取ってその衣の切れ端からそれぞれが船を作り出した。これを見ていたユメリは力を発揮することが不可能ならば、と四人の子供たちに自らの偉大な力を分け与えた。それは同時に子供たちに神の位を与えることにもなっていた。
 四人の子供たちはユメリとリュオンに一礼すると、岩塊へと向かった。岩塊はリュオンと黒い衣との衝突による影響で、今にも砕け散らんと激しく震えていた。リュオンの四人の息子たちは、それぞれの作った切れ端の船に岩塊の人々を乗せられるだけ乗せた。そして名残を惜しみつつ、住み慣れた岩塊に別れを告げた。この時、長男のミュノ(時を信ずるもの)は、岩塊を少し削り左の掌に握り込んだ。


 四人の船は自分たちの住める環境を持つ星を探して、果てしない黒を航海した。しかし四隻の船は黒の波に流されたり、世界の中心へと引き込む流れに巻き込まれたりして離れ離れになってしまった。それでも船たちは不安におびえながらも航海を続けるしかなかった。やがて四隻の船はそれぞれ大気を持つ星に辿り着いた。

 最初に兄弟の中で最も頭の良い三男のシュアン(時を見据えるもの)が、大気のある緑色の小型の星に辿り着いた。彼はそれをサルカム(草木の大地)と名付け、人々と共にこの星に永住した。
 次に兄弟の中で最も力の強い次男のリニオン(時を喰らうもの)が、大気のある黄色が混じった茶色の星に辿り着いた。彼はそれをガウム・グダ(広大な住処)と名付け、人々を支配し、住み着いた。
 三番目に兄弟の中で最も手先の器用な末っ子のメルコン(時を解くもの)が、大気のある赤色の星に辿り着いた。彼はこの一部が大きくへこんだ星をガウム・ルアンタ(素晴らしい住処)と名付け、人々を統率して文明を築いた。
 そして、最後に一見特に取り柄の無い長男のミュノが、大気のある青色の星に辿り着いた。ミュノは神の力を持つ自分が人々に干渉していくのは良くないと考え、左の拳に握っていた例の岩塊の欠片を黒に浮かべ、その中に住んで人々を見守った。そして青色の星に住んだ人々はこの星にカース(岩塊)と名づけ、この星まで引率してくれたミュノに感謝しながら生活を始めた。

 神は戦い、神の子らは世界に散り、人もそれに追従した。動き出した世界には意思が茂り、精神的な思惑から強い怨恨も世界の動きに参加した。それらの基盤である時も漆黒も、それらの変化について何かを思うことなどあろうはずもなく、ただ、変わらずに全てに存在するだけであった。



評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ