「はあ〜、退屈だこと・・・」
その日、女王様はとてつもなくご不満そうだった。
まあ、確かに最近はランプの精にだまされるような素直な少年はいなくなってしまったもんな。それに、たとえランプの精の悪徳商法に引っかかったとしても、引っかかるのは皆秋葉系オタク系。女王様の趣味じゃないみたいだ。
「ちょっと!!!」
考え込んでいると、このオレに女王様からお呼びがかかった。え? オレは誰かって? フフフ・・・。オレ様は、知る人ぞ知る女王様の側近であり、女王様に唯一ランプの精にされずに生き延びている者だ!! 敬え!!
「女王様、お呼びでございますか?」
「いますぐ、ランプの精第13番花の舞い散る里のピーターパン号を出動させて!!」
は?何だその長ったらしい名前は? ってか、どんなネーミングセンスだよ!! 花の舞い散る里って、源○物語にいなかったか!?
オレの思考回路にはたくさんのハテナマークが飛び交った。だが、気にしているようでは、女王様の側近なんて務まらないので、無視無視。
「第13番花の舞い散る里のピーターパン号をどこに出動させればよろしいのですか?」
「ここよ!!」
そういって、女王様はオレに一枚の紙を投げてよこした。オレはその紙を見る。そこには、人間界のとある家の住所がギャル文字で書かれていた。
読みにくっっっ!!!
「ちょっと!! ボケ〜っと突っ立ってないで、早く出動させなさい!! このノロマが!!」
オレがギャル文字に苦戦していると、容赦なく女王様の罵声(もとい美声)が降ってくる。
「は、はい!! 承知しました!!」
そういってから、俺はあることに気づいた。そして、ブツブツと何か言いながらしきりに手鏡を覗き込んでいる女王様に問う。
「女王様」
「なあに?」
「第13号を手放すおつもりですか?」
女王様の手の動きが止まった。オレが手放す云々と訊いたのにはわけがある。懸命なる読者のために順を追って説明しよう。女王様の気まぐれに寄って出来上がったこのシステムを。名づけて、「かわいい子はすべて私のもの☆」システムだ。
まず、女王様は本人曰く愛のセンサーで(そんなんどこについてんだか)、自分の好みのタイプの少年を見つける。そして、これまで散々こき使ってきたランプの精の中から一人、手放す奴を決める。あとは簡単。そのランプの精があの手この手でいたいけな少年をだます。成功すれば、ランプの精は、その少年と入れ替わり、人間に戻れるので、何としてでもランプの精はやり遂げようとする。大抵、いたいけな少年達はランプの精にだまされ、代わりにランプの中に入れられる。
ま、簡単に言えば「汚い手口の人事異動」ってところかな。
よく考えてみると、これほど汚く、それでいて成功度の高いシステムなんて無いよなあ。
さて、話を元に戻すとしよう。オレが、女王様に手放す云々訊いたのは、そういうことだ。女王様は13番のことをたいそう可愛がっていた(こき使っていた)から、こんなにも早く手放してしまうとは思わなかったのだ。てっきり、次にお呼びがかかるラッキーな奴は第14番夕顔の君号だと思っていた。
女王様は、覚悟を決めた顔でため息をつき、言った。
「仕方ないでしょ。そりゃ、花の舞い散る里のピーターパンは可愛いわよ。でも、あの少年はもっと可愛くて打たれ強いんだもの」
「はあ・・・」
「それにね、その子いじめられているの。だから、一刻も早く助けてあげなくちゃ!! ってことで、至急13号を出動させて!! 超特急よ!!」
「承知しました」
そこまで女王様に気に入られるほうがよっぽど可哀想だ。
とにかく、一刻も早く、連絡するか。そう思い、オレは一礼し女王様の部屋を出て行こうとした。すると・・・
「ちょっと」
女王様に呼び止められた。
「はい」
返事をしてオレは女王様を振り返った。女王様は玉座にふんぞり返りながら、オレの髪をじっと見つめていた。
「女王・・・様?」
「どうして・・・」
「は?」
きょとんとしている俺に向かって、女王様は唇をわなわなと震えさせ始めた。いかん!! これは危険信号かもしれない。いや、この様子は黄色じゃない!! もはや赤信号だ!!
オレが危機感を感じていると、女王様怒りに震えた声で言った。
「どうしてあんたの髪は金髪でそんなにサラサラヘアなのよ・・・!!」
「は?」
何を言っているんだ、女王様。そりゃ、オレのこのサラサラで透き通るような金髪は誰もがうらやむものだが。これがどうかしたのか? まさか、女王様もやっとこの俺の魅力に気がついて・・・!!
「私でさえ、そこまでサラサラヘアじゃないのに!! なんであんたの髪はそんなにサラサラなのよ!! 悔しいったらありゃしない!!」
女王様は苦々しげにつぶやいた。なんだ、嫉妬か。俺の魅力に気がついて惚れてくれたわけでもないのか。うれしいような、寂しいような、ほっとしたような・・・。
「とにかく、ムカつくわその髪。染めなさい、黒に」
「は?」
オレはぱちぱちと瞬きをした。どうやら、今日はきょとんとしたり驚いたりの連続のようだ。
「黒に・・・・染める?」
「ええ」
当たり前のように女王様は言った。が、オレはその願いだけは聞き入れることはできない。俺にとって、金髪はチャームポイント☆だ。それを、日本人に一番多い(ってか全員だよな)黒に染めるなんて!! 俺のプライドが許さないぜ!!
「そればかりは、無理でございます。女王様」
申し訳ございません、とオレは頭を下げた。言うべきことははっきりというのがオレのポリシーだ。
「分かったわ」
不意に、女王様がそういった。
女王様もあきらめてくれたかな。そう思って俺は顔を上げた。
が、違った。
「あんたは、私の命令よりも自分の髪を取るのね。よろしい!! 直ちに14号と入れ替わりなさい!!」
え・・・・・・・・・・・。
「そんな、女王様・・・」
「だまらっしゃい!!」
女王様は声を張り上げた。窓ガラスがびりびりと震える。
女王様は、先ほどと同様、唇をわなわなと震わせ、赤い瞳をオレにきっと向け睨んでいた。
「さあ、選びなさい。おとなしく髪を黒に染めるか、それともランプの精となってこの私にこき」
「髪を染めます」
女王様の言葉をさえぎってオレは言った。前言撤回だ。プライド? そんなもん、女王様の前ではただの塵だぜ。
女王様は、一応オレの言葉に満足したようだった。
「では、明日までに染めなさい。もし、金髪のままだったら・・・どうなるか分かっているでしょうねえ・・・?」
ちゃっかり、脅してるし。
「分かっております」
「なら、いいわ。至急13号の件よろしくね☆」
そういうと、女王様は急にニヤニヤし始めた。そして、鼻歌を歌いながら自室へと消えていった。
機嫌直るの、早っ!!!
オレは、しみじみと感じることがある。
女王様の側近でいるには、女王様のおねだりはすべて聞かなくてはならない。プライドなんて持ってる奴に、この仕事は勤まらない。
おやすみなさい、女王様。13号の出動、早急にやっておきます。
また、明日もあなた様のわがままに付き合わされるんでしょうね。でも、それでオレは良いんです。
気まぐれで、わがままでナルシストな女王様。オレは、いつまでも側近でいたいと思います。側近として、いつまでもあなたに仕えましょう。だから、あなた様もオレをランプの精になんかしないでくださいよ。
さすがに、黒髪に染めるのはきついけど。とほほ・・・。
オレのチャームポイント☆金髪、さようなら・・・・・・・・。
そして、はじめまして。オレの黒髪。
いつか、女王様の頭を丸坊主にしてやる。
うう・・・。オレの金髪ぅ・・・・・・・・・・。
今度ばかりは、すぐには立ち直れそうに無いオレ・・・。
さっきは女王様に対してずいぶんかっこいいこと言っちゃったけど、前言撤回しようかな・・・。
プライド? だから、さっきも言っただろ。女王様の前ではプライドなんてごみなのさ!
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